151:小隊行動練習・パルクール
2024年も半分が過ぎた。
厳密に日数を数えるのなら少しずれるのだろうが、俺の感覚的には半分過ぎた。
つまりは7月に突入である。
で、本日は2024年7月1日月曜日。
今日の午後授業……マスカレイドの授業はミーティングではなく、一年生全員をパルクールのコースが整えられているグラウンドに集めてのものとなった。
理由は単純。
「それでは只今より、小隊での行動を始める! 事前に小隊を組んでいたものはその通りに、そうでないものは今日この場限りでいいから、複数人でのチームを組むように!」
小隊……四人一組で決闘に臨むためには、どのような訓練が有効なのかを、一年生全員に一度教えるためである。
「ナル君」
「そうだな。逸れないように手を繋ぎつつ、決まっている組まで移動ってところか」
「マリーたちに割って入ってくるような人が居るとは思えませんけどネ」
「普通ならそうですが、拗らせている人も居ますから」
と言うわけで、スズ、俺、マリー、イチの四人はもう小隊が決まっている組……俗にナルキッソス小隊なんて呼ばれている集まりになって移動をする。
なお、イチの言う通り、遠くの方から綿櫛とその取り巻き三人が俺たちの方を睨みつけているので、警戒は必要だろう。
護国さんからの情報で色々と良くない事を考えていそうではあるしな。
「翠川様。お隣、いいですか?」
「ああ、勿論」
そうして綿櫛たちを警戒している間に、護国さん、羊歌さん、瓶井さん、大漁さんの四人……トモエ小隊とも呼ばれている四人が、俺たちの隣にやってくる。
他の人たちも、予め学園に申請を出していた人は直ぐに集まって、こちら側へとやってくる。
縁紅のように特定の相手が決まっていなかったり、組んでいる相手が上級生や休みだったりでこの場には居ない生徒も、少しずつまとまっているようだ。
この分なら、その内に三人か二人の小隊が出来る事はあっても、余ってしまう生徒が出る事はなさそうだ。
「……」
「ナル君。この場でのマスカレイドは無しだからね?」
「何故バレタし……」
「いつの間にかナル以外は女子ばかりですからネ。この辺」
「護国さんが居るからか、集まってしまいましたね」
「そうですね。ただ私だけでなく、ナルキッソス小隊の影響もあると思います」
なお、いつの間にか俺と護国さんの小隊の周囲には、女子だけで組まれた小隊か、男女比率が1:1の小隊が集まるようになっていて、男子だけで組まれた小隊はどうしてか俺たちから遠い位置に居る。
分かり易いところだと、吉備津、徳徒、遠坂、曲家の俗に桃太郎小隊なんて呼ばれているところとか、大声を出しても通じなさそうな位置に居る。
そして、俺の周りは特に女子比率が高い。
うん、おかげで何と言うか、微妙に居心地が悪い。
なのでいっそのことマスカレイドを発動して、見た目だけでも女子に紛れてしまおうと思ったのだが……スズに止められてしまった。
仮面体と普通の人間の接触事故を警戒しての事なのだろうけど、くっ……空気が姦しい。
耐えられない訳ではないが、気を持っていく先が難しい!
「ようし、分かれ終わったな! では、具体的な説明と実践に移るので、よく聞くように!」
そうして俺が耐えている内に味鳥先生の声が響く。
で、俺たちは味鳥先生の説明を聞き、機械的にどの内容から始めるかを分けられた上で、活動を開始。
俺の耐える時間も何とか終わった。
「マスカレイド発動。魅せろ、ナルキッソス」
「マスカレイド発動。映して、スズ・ミカガミ」
「マスカレイド発動。旅立て、マリー・アウルム」
「マスカレイド発動。揺らげ……ファス」
さて、小隊行動訓練のその1は小隊四人で組んでのパルクールである。
と言うわけで、俺たち四人は一斉にマスカレイドを発動した上で、パルクールのコースに入る。
「えーと、10メートル以上離れないように、だったな」
「そうそう。それ以上離れたら、やり直し」
「普段より高い壁や狭い隙間もあっテ、マリーだとそう言う場所は通れませんネ」
「そうですね。ファスが先行しますが、通れないルートだったら声をかけてください」
コースに入ってやることは、様々な障害物が用意されているコースを一周するだけだ。
ただし、普段と違って、小隊の他のメンバーと直線で10メートル以上離れてはいけない。
もしも離れてしまったらやり直しである。
「あ、この隙間は無理だな」
「無理ですネ」
「「……」」
と言うわけで、スズとファスなら横になればすり抜けられる隙間があっても迂回しなければいけなかったり。
「すみませン。手を貸してくださイ」
「ああ、分かった」
「ナルちゃん。私も助けてー」
「少し待っててくれ」
「ふうむ……」
マリーやスズの身体能力では登るのが難しい段差を、俺が手を貸して登らせたり。
「なるほど。先導役をするのなら、それを務めるファスはよく考えないといけませんね……」
「そうだね。お互いの身体能力はよく理解しておかないと拙いと思う」
「マリーがネックですネ。完全ニ」
「でもマリーは砲台型だもんな。そこで身体能力を求めるのは違う。むしろ、周囲がサポートの仕方を考えましょうとか、そう言う話だよな、これは」
ファスなら余裕で飛び跳ねていける飛び石を、俺たち残りの三人は迂回して避けたり。
と言った具合に、一人でただ走るのとは、気を遣う先がまるで別物になった状態でパルクールのコースを走っていく。
味鳥先生曰く。
こうしてお互いの基本的な身体能力や得意不得意を把握しておくことによって、決闘の際に何処に誰が居るか、どのくらいなら出来るのかを予測する事が出来るようになるそうだ。
そうすれば、自然と連携をする時のタイミング合わせなどもしやすくなるとの事。
また、これは最も基本的な小隊の連携能力を確かめ高める訓練である。
逆に言えば、これすらこなせないようであれば、その小隊には致命的な齟齬が生じている可能性が高い。
それが座学や教育によって解消できる範囲であれば問題はないが、そうでないなら……小隊の解散も視野に入れた方が良いとの事だった。
「と、味鳥先生は言っているけど、世の中には協力と言う概念の意味が私たちとは異なっている人も居るから、そう言う人を炙り出して、巻き込まれないように周知するのもこの授業の一環なんじゃないかなぁ」
「流石にそれは穿ち過ぎだと思いますガ……」
「でもマリー。アレと組みたいと思う?」
「思いませんネ」
なお、俺たちがパルクールを一周し終えて、コースの外に出た後。
次の実践に向かうべく移動していたのだが、そこで目に入ったのは綿櫛……ツインミーティアが他の三人に喚き散らしている姿であった。
どうやら、あの四人だとツインミーティアの身体能力が一番高いらしく、残りの三人が通れない道をツインミーティアが進んでしまい、おまけに追いついてくるのを待つことも出来ないようだ。
それでツインミーティアが癇癪を起こしている、と。
距離があるので何を言っているのかは分からないが……その内に味鳥先生か風紀委員会に入った一年生たち辺りが割り込むかもな、アレ。
「とりあえず次の実践に向かうぞ」
「そうですね。向かいましょう」
俺たちは次の実践訓練へと向かう。
内容は……攻撃連携である。




