144:対バードスナッチャーの反省会
「……」
決闘を終えた俺は笑顔を振りまきながら舞台を降りると、足早に控室にまで戻ってくる。
控室の中には既にスズ、イチ、マリーの三人が居て、防諜については問題ないようだ。
なので俺は適当な椅子に腰を下ろすとマスカレイドを解除し……。
「危なかったぁ……」
極めて真剣な表情と共にそう言葉を吐いた。
「お疲れ様、ナル君。それで危なかったと言うけど具体的には?」
「残り魔力は全快時の二割から三割程度ってところだな」
「それなら、まだまだ余裕があるようにイチには思えますが?」
「そうでもない。対策用のパッシブスキル二つで消費と回復が釣り合っていたところで、『恒常性』で肺を治しつつ、『ドレッサールーム』で火を遠ざけつつ、炎で炙られていたわけだからな。たぶんだけど、後二分か三分か……マスカレイドを維持出来ていたのはそれくらいが限度だったと思う」
「ナルの感覚通りなラ、かなりの際どさでしたネ。これハ」
はっきり言って、バードスナッチャーとの決闘はギリギリの勝利だった。
こうなるのが嫌だから、接近戦に持ち込んで、殴るなり絞めるなり投げるなりして削り取りたかったのだが、結局、接近戦には終始持ち込めなかった。
そう、バードスナッチャーに対して俺が言った、『勝負としては俺の負けかもしれませんが、試合には勝たせてもらいます』と言うのは、紛れもない本心からの言葉だったのだ。
「ぶっちゃけ、捕らわれるのがもう少し早かったら、バードスナッチャーが『サイコキネシス』を使わなかったら、セットしておいたスキルが『P・熱耐性』と『P・炎耐性』で効果と消費の釣り合いをしっかりと練ったものでなかったら、俺のユニークスキルをはっきりと認識してなかったら……何か一つでも違っていたら、俺が負けてた可能性は十分にあると思う。流石は二年生としか言いようがないな」
「バードスナッチャーがナル君の余裕のなさに気がついていてもアウトだったろうね。あの状況で本当に冷静に待たれていたら、それだけ魔力消費量も抑えられていただろうし」
「重ね重ね際どい勝負だったんですネェ……」
うん、本当に危なかった。
選んだ衣装が羽衣付きの踊り子のもので無かったら、鳥もちを防ぐ手数は足りなかっただろうし。
きちんと口を守っていなかったら、何処かで窒息させられていたかもしれないし。
序盤の回避で怪しまれて、別の戦術を取られていても駄目だったかもしれない。
たらればではあるけれど、危なかったのは事実だった。
ちなみに『P・熱耐性』と『P・炎耐性』は似たような効果を持つパッシブスキルであるのだが、微妙に作用が違うため、両者を併用する事によって相乗効果を得られる組み合わせになっている。
とは言え、この手の耐性系パッシブスキルはマスカレイド発動中は常に効果を発揮し続ける関係で、仮面体の維持にかかる魔力消費を常時増やしてしまう。
なので、スキルの製作者ごとに微妙に違うマイナーチェンジの内容まで吟味して効果と消費の釣り合いを考えても、消費と回復を釣り合ってしまう程度には消費が重い。
俺と『シルクラウド・クラウン』の組み合わせでこれなのだから、普通の決闘者は真似したくても出来ないだろう、たぶん。
「こうして考えると、ナルさんの決闘者としての能力で実は一番厄介なのは、ピンチをピンチとして相手に認識させない詐術かもしれませんね」
「あー、それは確かにそうかもね。私くらいに詳しくないと、決闘中のナル君の心情とか分からないし」
「決闘者としては極めて優れた性質だと思いますけどネ」
「まあ、俺の美しさを見せるための場で苦しそうな顔なんて出来ないからな」
イチの言う通り、確かに俺は決闘中に苦しいとかツラいとかって感情は出さないようにしているかもな。
特に意識しているわけじゃないが。
まあ、決闘者として都合がいい能力なら、そのままでいいだろう。
「いやしかしだ」
俺はスズが差し出してくれた飲み物を飲んで適当に喉を潤わせつつ、話を続ける。
「俺とバードスナッチャーの魔力量の差で、これだけ万全の対策を組んで、最善ではないけれどそれなりに良いと思える動きをして、それでようやく魔力切れによる勝利を得られるって考えると、どうして耐久力特化が今の決闘界隈では主流ではないのかがよく分かるな」
「そうだね。バードスナッチャーは二年生の中でも上の方の人だけど、学園の中にはもっと強い人は当然居るし、日本全体で見れば良くて中堅ぐらいなんだよね」
「つまり、今のままだとナルさんの実力もそれぐらいになってしまう、と言う事ですか?」
「それハ……なにかしらの改善策を考えないといけませんネ」
「だな。まあ、だからこその学園なわけだが」
今回の決闘で感じたのは、耐久だけではやはり駄目だと言う当たり前の話。
今回は運よく勝てたが、次にバードスナッチャーと戦ったら、今日の決闘でヒントを得た誰かと戦ったら、俺が勝てる可能性は決して高くは無いだろう。
うん、やっぱり何かは考えるべきだな。
バードスナッチャーが持っていたような、対策の対策、俺なら接近戦を拒否してくる相手への対抗策は必須だ。
「具体的にはどんな対策を考えようか?」
「具体案は浮かばないが……。そうだな。それこそ、四対一で決闘をして、総魔力量で言えば俺の方が少なくなる。そんな状況でも勝てるような策は欲しい気がする」
「あー、ナルさんには必要かもしれませんね」
「他の人なら何を言っているんだになりそうですガ、ナルならそう言うのも必要そうですネ」
「ナル君なら何時か何処かでハンディマッチはやるだろうしね」
スズたちにも賛同は貰えた。
うん、これは今から夏休み明けまでの課題になりそうだな。
聞くところによれば、今から夏休みまではもう授業での決闘は無いし、夏休み中は授業としての決闘は開かれない。
だったら、この間に対策を一つくらいは練り上げて、持っておきたいところだ。
「なんにせよ、ナル君お疲れ様。そして、勝利おめでとう」
「そうですね。勝利おめでとうございます、ナルさん」
「ナル、お見事でしタ」
「ありがとうな、三人とも」
そうして反省会を終えたところで、俺たちは控室を後にした。
さて明日は……マリーの決闘だな。
実は今までで一番追い詰められていました。




