143:六月決闘 VSバードスナッチャー-後編
本日は二話更新となります。
こちらは二話目です。
「近づけると思うなよ!」
バードスナッチャーの両手のショットガンから鳥もちが放たれる。
放たれた鳥もちは片方は九つに分かれると、ナルの進路を妨害するように広がっていく。
もう片方は塊のままナルの頭に向かって飛んで行く。
「この程度!」
それらの攻撃にナルも対処する。
衣装の一部である羽衣を振る事で散弾として広がっていく鳥もちの軌道を逸らして進路を確保し、塊の鳥もちは盾で受け止めて防ぐ。
そして、その直後に羽衣と盾を一瞬消すことによって、防いだ後も舞台の床に付いて行動が阻害される事も防ぐ。
「もう一発っ!」
「何処に撃って……」
だが、この程度は想定の範囲内と言わんばかりに、バードスナッチャーは再び鳥もちを発射。
しかし、散弾の方はともかく、塊の方は、ナルにとっては防ぐのではなく避けるを選択して構わないほどに逸れ、実際にナルは避ける事を選んだ。
「にっ……」
「!?」
そうして塊の鳥もちを避けたナルが見たのは、ケープの陰から微かに覗くバードスナッチャーの笑み。
同時にナルの脳裏をよぎったのは、バードスナッチャーが自身の鳥もち対策を用意してきた相手に対してこれまでに打ってきた……いわゆる、対策の対策。
スキル『ハーディング』によって硬化させた鳥もち弾による不意打ちの実弾攻撃。
スキル『バーントゥバースト』によって燃焼中の鳥もちを爆破させることによる広域かつ不意打ちの攻撃。
スキル『フレイムショット』によるシンプルな不意打ち。
そう言ったものだ。
だからナルは反射的に自分の口と鼻を腕で隠していた。
が、実際に行われた攻撃は観客を含め、誰もが想定していなかったものだった。
「『サイコキネシス』」
「!!?」
「「「「「ーーーーー~~~~~!!」」」」」
唐突に、ナルの背後から衝撃が襲い来る。
同時にナルの動きが止まり、それ以上前へと進めなくなる。
そして、ナルは気が付いた。
自分の背中、太もも、足にかけてべったりと鳥もちが付いて、その鳥もちと舞台の床がくっついたために動けなくなっているのだと。
スキル『サイコキネシス』。
目で認識した対象物を自分の思った通りに空中浮遊させて動かす事が出来ると言う……一般的には不人気なスキルである。
なにせ、見えているものしか対象に取れず、他人の魔力を含んでいるものは動かせず、動かす速さも精々が全力で腕を振った程度であり、その癖に決して燃費が良いとは言い難いスキルなのだから。
「俺の鳥もちは遅い。遅いが、だからこそ飛んでいるところを目で捉えて、スキル『サイコキネシス』で自由に動かすことも出来る。決闘本番じゃ初お披露目の戦術だ。光栄に思えよ、一年」
「ぐっ……」
だがこの場では絶大な戦果を挙げた。
なにせ、ナルに死角から直撃させた上に、その肌に直にくっついているので、これまでのように衣装を消した程度では逃れられないのだから。
「『ティンダー』。燃えな!」
「っう!?」
そうして動けないナルに向けて火の点いた鳥もちが大量に撃ち込まれていき、直ぐにその姿が外からは殆ど見えない状態になっていく。
ナルは腕で口元を守っている為、鳥もちをのどに詰まらせて窒息させることは出来ない。
しかし、全身を鳥もちで覆われてしまえば、もはや身動きは出来ず、後は鳥もちを燃料に燃え続ける火によって炙られて焼け死ぬばかり。
「ふぅ……これで俺の勝ちだな」
だからバードスナッチャーは軽く気を抜いて、待ち……。
「消費魔力は……割とギリギリか。やべぇな、ナルキッソス」
待って……。
「とは言え、攻撃手段が近接だけである限りはどうとでもなりそうか」
待ち続けて……。
「いや待て、何で決闘が終わらない?」
気づく。
決闘が終わらないと言う異常な状況に。
「システム異常? いやそんな事があるわけない。まさか……おい待て、まさかだろう!? 生きているのか!? 全身を火で炙られ続けている状況下で、魔力が尽きていないのか!? あり得ないだろ!? 仮に何かしらの方法で表皮の火傷を防いだって、火で熱せられた空気を吸い込めば肺が焼ける! 肺が焼ければ呼吸が出来なくなって、それを補うためにあっという間に魔力は底をつく! それはナルキッソス、お前だって同じはずだろうが!? お前は何を……」
そして、バードスナッチャーはもう一つの事実に気付く。
ナルキッソスはこの決闘中、スキルを使った様子を一度も見せていない事に。
「何を積んできた!? ナルキッソス!?」
「『P・熱耐性』系統のスキルですね。先輩」
「!?」
燃え盛る鳥もちの塊の中からナルの声が響く。
その事実にバードスナッチャーは思わず半歩引いてしまう。
「すみませんね、先輩。先輩の戦術は分かっていました。なので、万が一の備えをしておきました」
「んな馬鹿な……。耐性系スキルだと……いや、二枚積みか? ナルキッソスの魔力量ならそれも……いやだが、それでも、肺は少しずつ焼けて加速度的にダメージを受ける……っ!?」
「そうですね。先輩の言う通りに二枚積みです。消費と効果量の釣り合いが特に良くなるようなものを。それと、肺はダメージを受ける度に治してますし、鳥もちと俺の体の間にも少しずつ衣装を挟んで熱源を遠ざけています。なのでまあ、思ったよりは余裕がありますよ、俺には」
「ヤバい……」
冷静なナルの言葉にバードスナッチャーの頭の中で冷静な部分が告げている。
このままではまずいと。
ナルが幾重にも対策を重ねてきたために、自分の想定よりもダメージを出せていない。
だが追撃をしようにも、自分の鳥もちが邪魔をしていて追加の攻撃を通せないし、火勢を強める手段も無い。
まだ使っていないスキルもあるが、それは『クイックステップ』であり、今の状況を打開できるようなものでもない。
そして、このまま待てば……自分の方が先に魔力が尽きてしまう。
「~~~~~……これが、これが……ナルキッソス!」
「勝負としては俺の負けかもしれませんが、試合には勝たせてもらいます。バードスナッチャー」
傍から見ればバードスナッチャーが圧倒的有利なはずの盤面。
だが、現実にはバードスナッチャーの方が追い詰められ、完全に詰んでいた。
それでもバードスナッチャーは打開手段がないかと思考を巡らせ続け……。
「ち、ちっくしょおおおおぉぉぉっ!」
結局何も出来ずに魔力切れとなって、悔しさに塗れた叫び声と共にバードスナッチャーは退場となった。
『しょ、勝者! ナルキッソス!!』
「……ふぅ」
「「「「「ーーーーー~~~~~!!」」」」」
そして、鳥もちが消えると共に現れたナルキッソスは腕を突き上げると、自身の勝利を観客たちに示したのだった。
Q:バードスナッチャーが勝つためにはどうすればよかったの?
A:口にショットガンの銃口を突っ込んで発射。窒息させれば勝てた。(他回答も事前準備次第では存在)
安全策に逃げて、消耗が嵩んだ結果として、DPS不足で足切りに引っ掛かったのです。
10/29誤字訂正




