142:六月決闘 VSバードスナッチャー-前編
本日は二話更新となります。
こちらは一話目です。
『それでは次の決闘に移りましょう! 本日、最も注目されているであろう組み合わせです!』
木曜日の午後、マスカレイドの授業の時間。
授業の一環として決闘が行われるホールには、普段よりも明らかに多くの生徒が詰めかけていた。
だがそれも当然の事だろう。
今日これから行われるのは、二年生と一年生と言う、この時期に行わるのが非常に珍しい組み合わせでの決闘なのだから。
『まずは東より……バードスナッチャー!』
テンガロンハットと武骨なゴーグルを幾つかのケーブルで繋いだ独特な形状のデバイスを着用した男子生徒が姿を現し、舞台の上まで歩いて登る。
隠されていない口元には自信を窺わせるような笑みが浮かんでいる。
『続きまして、西より……ナルキッソス!』
その反対側の入り口から、顔を一切隠していないナルが姿を現し、デバイスの一部である水仙のチャームを揺らしながら舞台の上まで移動する。
その足取りはいつも通りに堂々としたものであり、自信に満ち溢れつつも油断はしていないものである。
「さて、まさかの一年生との決闘か。勝つ自信は?」
「勿論ありますよ。でもそれは先輩もでしょう?」
「当然だ。魔力量だけで、ユニークスキルだけで勝負の結果が決まるわけじゃないからな」
「その言葉には同意します。俺が言っても説得力なんてないでしょうが」
バードスナッチャーとナルは舞台の上で軽く会話を交わす。
その内容としてはバードスナッチャーからは探るような気配がするが、ナルは淡々と返すだけで、何かを探らせたりはしない。
そして、この間に司会の生徒は何故この決闘の組み合わせが珍しいかを語っていく。
『既に皆さまお気づきかもしれませんが、この時期に二年生と一年生で決闘が行われる事は非常に珍しいことでございます。一部の特殊な事例を除けば、決闘学園史上初と言っても構わないでしょう。いえ、実際最速なのです。なにせ、記録で探れる限り、特殊な事例以外でこれまでで一番早い上級生と一年生の対等な決闘は早くても10月過ぎの事で……え、進めろ? あ、はい』
が、あまりにも脱線し始めていると判断したのだろう。
司会の生徒である一年生の隣に居た二年生が、決闘を進めるように指示を出す。
『えー、それでは、早速始めてまいりましょう。3……2……1……決闘開始!』
「マスカレイド発動! 魅せろ、ナルキッソス!」
「マスカレイド発動! 掻っ攫え、バードスナッチャー!」
そうして決闘が始まり、舞台上の二人は同時にマスカレイドを発動する。
まずマスカレイドを終えたのはナル。
その姿は一言で言えば踊り子。
羽衣を身に着け、ブーツを履き、手袋を着け、手足は幾重にも重ねられた布で守られているが、胴体は最低限の布地しか身に着けておらず、その他装飾品も合わせて、煽情的と言っても過言ではない姿になっている。
だが、何より珍しいのは、ナルにしては珍しく、薄手とは言え口元を……顔の一部を布で隠している点であった。
とは言え、それで美貌が損なわれるのではなく引き立つのは、ナルだからこそであると同時に、隠されているからこその美と言えるだろう。
ナルに一瞬遅れて、バードスナッチャーもマスカレイドを終える。
その姿は一言で言えばカウボーイ。
頭にはテンガロンハット、顔にはゴーグル、首には高襟のケープ。
左右の手それぞれに二連装のショットガンを持っている。
そして、左の手のショットガンの銃口は既にナルへと向けられていた。
「先ずは小手調べだ! 一年!!」
バードスナッチャーの左のショットガンから弾丸……否、鳥もちが放たれる。
放たれた鳥もちには予め切込みが入れられており、空気抵抗を受けた鳥もちは自然と九つに分割されて、散弾のように広がっていく。
そうして広がった鳥もちたちもまた、空気抵抗によって減速しつつも勢いよく広がっていく。
結果、まるでショットガンから網が放たれたかのように、ナルの全身を包み込んでなお余裕があるほどに大きな、飛んでくる事の認識は容易でも避けられないほどに広がった白い塊……鳥もちがナルへと向かっていく。
「そうですか!」
対するナルは強化プラスチック製の盾を手元に生み出すと、その陰に体を隠して、真正面から鳥もちを受け止める。
受け止められた鳥もちは端の方が慣性に従って回り込み、ナルに触れようとするが、これはナルが盾を捨てて後方へと退くことで避けられる。
そして、ナルに掠りもしなかった鳥もちたちは、そのまま舞台の床に落ちて、貼り付く。
「『ティンダー』……燃えな!」
「っ!?」
そこへ、バードスナッチャーの右のショットガンが、銃口に火を灯しながら鳥もちを放つ。
放たれた鳥もちは左のショットガンから放たれたものと違って、散らばることなく飛び、回避したナルの背後にあった別の鳥もちに着弾。
そして一気に、燃え広がり、ナルを囲むように火の海を形成する。
バードスナッチャーの放つ鳥もちは可燃性であり、しかも完全に燃え尽きるまで粘性を保ち続けると言う特性を有する。
その特性を生かしたコンボである。
「あっつう!?」
堪らずと言った様子でナルは跳躍して、鳥もちに触れることなく火の海を飛び越えて脱出する。
そして、何度か転がってから立ち上がる。
だが、その転がり立ち上がると言う隙だらけの姿をバードスナッチャーは見逃したりはしない。
「そいつは良かった! 丸焼きになってくれ!」
「っ!?」
バードスナッチャーの両方のショットガンから立て続けに鳥もちが放たれる。
左のショットガンから放たれた散弾によって燃焼範囲を広げ、右のショットガンから放たれた単発の弾によってナルの足を狙って止めようとする。
その弾幕をナルは盾で防ごうとするが防ぎ切れず、遂に盾で隠し切れていなかったブーツの部分で受けてしまい、動きを強制的に止められてしまう。
「口に受ければ呼吸困難で実質即死、手足を捕らわれれば全身を燃やされて死ぬ、胴体でも動きが鈍るし燃える事に変わりはないから死ぬ。殺意が高すぎませんかね!? 先輩!?」
「はっはっは! 必勝のパターンがあるなら、それを活用するのが決闘者ってものだろう!?」
動きが止まったナルに向けてバードスナッチャーは更にショットガンを撃ち込む。
その鳥もちによって盾は完全に位置を固定され、羽衣の一部も地面に張り付けられる。
そして引火して、ナルの体を炎で炙り始める。
「そりゃあ、そうですね!」
だからナルは一度全ての衣装と盾を消すと、鳥もちに触れないように素早く安全な場所へと飛び退き、それから再び衣装を出す。
「で、一応聞きますが、先輩の魔力量で舞台全域を覆って焼き続けるだけの鳥もちって出せます?」
「流石に無理だな。延焼した分の火は物理現象だから俺の魔力は使わないんだが、鳥もちは仮面体の機能だからな。出せる量に限りがある。まったく、魔力量もユニークスキルも厄介な相手と戦うとなると、経験と立ち回りでどうにかするにも限度がある」
「でも諦めないんでしょう?」
「当然だ。全身鳥もち漬けにしてやるよ。お前こそ諦めてもいいんだぞ? 接近出来なければ、攻撃手段なんて無いんだろ?」
「御冗談を。粘り強さなら、先輩の鳥もち以上ですよ。俺は。倒れるまで待つが戦術として選べるんですから、諦めるなんてあり得ない」
朗らかに会話をしつつ二人は再び構えを取る。
ナルは盾を構えるだけでなく、羽衣を手で握る。
バードスナッチャーは両手のショットガンの銃口をナルへと向ける。
そして、二人は示し合わせたように同時に動き出した。
司会の言う一部特殊な事例とは?
一年生が上級生に決闘を売る。
調子に乗った一年生を上級生が叩き潰す。
色々と窮まった上級生が一年生に挑みかかる。
こんな感じです。
10/28誤字訂正




