141:雑談タイム
火曜日の昼食。
その日の俺は徳徒、遠坂、曲家の三人と一緒に食堂へやって来て、それぞれに好みのものを頼んで食べることにした。
で、食べつつ雑談にも興じるわけだが……今日の話題は徳徒が切り出した。
「しかし翠川。お前、木曜日の午後に二年生と決闘でマジなのか?」
どうやら俺の決闘についての話になるようだ。
「マジだぞ。マスッターにも連絡は来たしな」
「うおっ、本当だな。まあ、翠川なら分からなくもないか。体育祭の決勝とかヤバかったしな……」
「アレを見たワイとしては、むしろ決闘相手の先輩の方が可哀そうに思えてくるんだよな」
「っすね。あの火力を凌げる翠川相手に攻撃を通せる気がしないっす」
「今度の決闘相手……バードスナッチャー先輩なら、何かしらの手段は持っていてもおかしくないと思うけどな。同学年の甲判定の生徒にも勝っているらしいし」
「「「へー」」」
俺はバードスナッチャーがどういう相手なのかを徳徒たちに話す。
話を聞いた徳徒たちは自分ならどうするかを考えて、それを口にしていく。
で、全員が一度話したところで、再び徳徒が口にする。
「しかし、バードスナッチャー先輩が翠川と比べて勝っているのってなんだ? 戦闘経験ぐらいか?」
「それぐらいじゃないっすかね? 翠川の過去の決闘相手で話をするなら、技術的なお話なら護国さんが居るし、火力的なお話なら水園さんが居るっすから」
「あるいは格上狩りの知識とかは勝っているのか? なんにせよ、お互いの動き次第では、翠川を試すための決闘なのに、バードスナッチャー先輩の方が悲惨な事になりそうな気がするな」
「ま、俺は出来る事をやるだけだ。その為にサークルで得たものも、決闘に間に合うように突貫で動いているわけだし」
俺の考えた戦術については何処に誰の耳があるのか分からないので話していない。
しかし、徳徒たちも予想は付いているのだろう、俺ではなく相手の心配をし始めている。
「サークルなぁ……」
「そう言えば、徳徒は何処のサークルまたは委員会に所属するのか決めたのか?」
「まだ決めてない。おかげで主に小さいサークルを中心に、色々なところから勧誘が来てる」
「大変っすねぇ」
「まったくだ」
話は変わってサークルについて。
俺は言わずもがなで、俺の為のサークルである『ナルキッソスクラブ』に所属している。
遠坂はカラオケサークルに決めて、週に一度歌っているようだ。
曲家は工作サークルの分派であるテラリウム専門のサークルに参加して、チマチマと作品を作っているらしい。
そして、徳徒は現状フリーだ。
「いっそのこと、ワイの居るカラオケサークルに名義だけ一時的に置くか? ワイらの所は学園内でも一番緩いし、参加義務すらないぐらいで、退会だって自由だから逃げ場としてはちょうどいいぞ」
「それも手かもなぁ。参加してくれー、参加してくれー、って一部の先輩に至ってはゾンビみたいな感じで迫ってくるし」
徳徒がフリーな理由は言うまでもなく。
決闘学園には野球部はないし、他のスポーツ系にしても大会には出ずに、自己研鑽の為の場であるか、趣味を満喫するための場であって、徳徒の在り方にはそぐわないからだ。
だから、今の徳徒はフリーになっている。
で、それを何処で聞きつけたのか、熱心に徳徒を誘っているサークルもあるらしい。
「小さいサークルと言うと……人数がギリギリとか、三年生しか居ないとか、そんなところか?」
「そんなところだと思うっすよ。後、サークルの予算って、人数やサークルの実績だけでなく、所属している生徒の決闘関係の成績も関わっているらしいっす。だから、徳徒が魅力的に見えるんじゃないっすかね」
「魅力的だとしても、こんな魅力は要らねー。詰めかけてくるのもだいたい男の先輩だし。翠川代わってくれよ」
「俺が魅力的なのは事実だが、今、徳徒が捨てたい方向の魅力は俺には持てないものだなぁ。諦めて頑張ってくれ。はっはっは」
まあ、サークルが無くならないようにしたい、サークルを盛り上げていきたい、そんな気持ちは分かるので、どうにかしたいと言う思いにも理解は示す。
示すだけだが。
「ま、あんまりにも勧誘が酷いようなら、生徒会か風紀委員会に相談すればいいんじゃないか? 確か、吉備津が生徒会に仮入会したんだろ?」
「ああ、入会してたぞ。ただ、今は相談しに行きづらいんだよな。入りたてで、色々と覚えることが多いみたいで、無茶苦茶忙しそうにしているし」
「まあ順当に行けば、吉備津は未来の生徒会長様だろうしな。忙しくなるのはワイでも分かる」
「小隊と言う繋がりはあるっすけど、あるからこそこういう時は頼りづらいっすよねぇ。今はウチらに勉強を教える暇すら無いみたいっすから」
これは余談となるが。
吉備津が生徒会に入ったのに対して、風紀委員会には羊歌さんと大漁さんの二人が入っている。
そして、縁紅と瓶井さんは射撃サークル、護国さんは弓道サークルに入ったそうだ。
羊歌さんの風紀委員会と護国さんの弓道サークルが予想外以外の何物でもないが……まあ、当人にしか分からない何かあるのだろう。
俺が気にするところとしては、その内に護国さんが決闘で弓を持ち出してこないかどうかぐらいだ。
「勉強……期末テスト……うっ、頭が!?」
「大丈夫だよな? オレたち大丈夫だよな!?」
「コケーコココココ、コケーコココココ」
「ううっ、怖いっすう。怖いっすよぉ……一点足りないのぉ……。あ、聞いた話っすけど、赤点を取ったり、赤点ギリギリだったりすると、夏休み中に補習授業らしいっすねぇ……ブルッ」
「いやまあ、冗談言っている場合じゃないんだよな。こっちについては。割と真面目に」
「オレたちだもんな。いやでも翠川はまだマシだろ、水園さんたちに教えてもらえる」
「ワイらはマジでどうしたもんだろうなぁ……勉強関連で優しい先輩の伝手とか誰か持ってない?」
「あったら、こんな話してないっすよぉ」
期末テストは……うん、もうちょっとしたら、スズに泣きつくつもりで居よう。
ノートはきちんと取っているから、それで何とかなると思いたい。
「話戻すが。翠川、木曜日は見に行くな」
「おう、来てくれ。二年相手でも通用するのを見せてやる」
「通用するのはもう知っているんだよなぁ。ワイらとしては」
「むしろバードスナッチャー先輩がどれだけやるかを楽しみに見に行く奴っすよこれは」
そうして、とにかく雑談をし続けている間に昼休みは終わり。
俺は午後のマスカレイドの授業の為に、サークル『ナルキッソスクラブ』へと向かった。




