139:次の決闘相手は
「本当にあった……」
サークルと小隊周りの許可が出された次の週の月曜日。
定例のミーティングを終えて、サークル『ナルキッソスクラブ』の休憩室にやってきた俺は、先ほどのミーティングで提示された内容から、思わず息を吐いた。
「本当だったんですか」
「スズは一体どこから手に入れて来たんですかネ?」
「本当に何処からだったんだろうなぁ……」
そう、先週時点でスズから言われていた通りに、今週の木曜日に二年生の決闘者と決闘をする事が示されたのだ。
本当にスズは何処から情報を仕入れてきたのやら。
決闘の組み合わせを決める部署に盗聴器を仕掛けるような、違法な真似はしていないと思いたいのだけど、あまりにも情報が正確過ぎて不安になる。
「とは言え、二年生を当てるの自体は分からなくもないんだよな。此処まで表に出ている決闘で俺は負けなし。護国さんと縁紅に勝っている以上、一対一では一年生が勝てないのもほぼ確定。これでまだ当てていない一年生を当てるわけにはいかないだろ」
「特殊決闘・プロレスの決勝で見せた光景モ、影響しているでしょうネ。あの火力以上を求められたラ、『蓄財』込みのマリーでも困りますヨ」
「それでも敢えて当てるなら吉備津さんでしょうか? いえ、無理がありますね。それよりは人数差をつけたハンディマッチ。ですがそれを一年生で行うにはまだ早そうではありますね」
俺の手元にある情報の存在を考えなければ、スズが論理的な予測の結果で以って導き出したのだと考えることも出来るのだが……まあ、深く考えすぎない方がいいか。
ちなみにだが、論理的な予測の一部は俺が述べている通りだが、他にも根拠はある。
例えば、六月は体育祭、七月は期末テストと夏季休暇で日程が詰まっており、この期間で決闘を散らばせようとしたら、通常とは違う日程の組み方をしないといけないだとか。
小隊結成間もないので、人数が多い側の連携が重要となる一対多数のハンディマッチはまだ行われないだとか。
学園側は少しでも早く俺の課題点を見つけておきたいだとか。
体育祭の強行突破で物理的拘束ならば僅かながらに有効だったとか。
この辺を根拠として、今週の木曜日に二年生の彼が決闘相手として選ばれる事の予測までは……ギリギリ出来なくもない。
半分くらい妄想だとも思うが。
俺の手元にある情報が、スズが確固たる証拠を以って、決闘相手の情報を何処かで知ったと言っているが。
「なんにせよでス。情報を貰ったのなら生かすべきですヨ。あちらはナル対策をしっかりとしてくるはずですかラ」
「まあ、そうだな」
さて、目を逸らすのはここまでにしておいて、マリーの言う通りに情報を読んでおこう。
次の俺の決闘相手の名前は『バードスナッチャー』。
その見た目は両手に一丁ずつ、水平二連のショットガンを持ったカウボーイと言うところだろうか。
頭にはテンガロンハット、顔にはゴーグル、首にはマフラーと言うか襟が高いケープを身に着けているので、表情の類は窺えない。
二年生で、入学時の魔力量判定は乙判定。
此処までなら、縁紅の亜種かと思うところではあるが、このショットガンはただ散弾を撃つだけではない。
鳥もちを撃てるのだ。
「油を程よく含んだ、粘度の高い鳥もちの弾丸か」
「直撃してもダメージは殆ど無いようですが、一度体に着いたなら引き剥がすことは極めて難しいようです」
「可燃性でよく燃えるのニ、燃えても粘着きは変わらないと言うのは厄介ですネ。鳥もちではなくナパームを名乗るべきでハ?」
バードスナッチャーの戦術は分かり易い。
鳥もち弾を撃って相手の動きを封じ込め、そこに火を放って相手を焼く、ただそれだけだ。
だが、それだけで多くの同級生と三年生に勝っていて、実力は確か。
何なら、一部の甲判定者にも勝っているらしい。
となれば、俺も直撃すれば身動きは取れなくなってしまう事だろう。
ちなみに体育祭の強行突破の防御側で出てこなかったのは、鳥もち弾の性質の都合のようだ。
なんでも味方の攻撃まで止めてしまうらしい。
うん、俺の決闘の役に立つ情報ではあるけれど、同時に射撃系攻撃を防げるだけのスペックを鳥もち弾が持っている証明でもあるな。
「スキルについても色々とあるな。着火用の一つはあるとして、他は読めなさそうだ。多すぎる」
「別に多くはないですヨ。バードスナッチャーの使う可能性があるスキルの種類は普通ですヨ」
「マリーに同意します」
スキルについては考えるだけ無駄になりそうだ。
ただまあ、俺にもダメージを与えられるように、火力を増強する方向で何かを持ち込んではいそうか。
「それデ……勝てそうですカ?」
「んー……ぶっちゃけ戦術は思いついたな。正直、今回の決闘は俺の苦手な点を探ると同時に、バードスナッチャーに今後の課題を突き付けているようにも思える」
「そうなのですか?」
「ああ。まあ、詳しくは決闘の時にだな。とりあえず勝負にはなるはずだ」
今更の話になるが、今この場にスズが居ないのは、今日納入される俺の衣装の受け取りと確認をスズがやっているからである。
なんだかとても楽しそうにしていた。
「ところで話は変わるが、マリーは大丈夫なのか?」
「金曜日の決闘の事ですネ」
話は少し変わって。
実は今週、授業の決闘を控えているのは、俺だけでなくマリーもである。
相手は一年生だが、魔力量900を超えている、乙判定の中でも優秀な部類に入る人物であるらしく、スズ予測では少々厳しい相手のようだ。
ちなみに戌亥寮所属である。
「……。少し悩んではいますネ。『蓄財』を利用すれば確実に勝てるのですガ、使うか否カ……。使わないと勝てるか微妙なラインなんですよネ」
「けれど『蓄財』を表立って使うと、面倒なのに絡まれるかもしれない、だっけか」
「固形化された魔力と言うだけデ、格好の研究材料ですからネェ……。『シルクラウド』社やスキル開発者たちは弁えてくれますけド……うーン」
「先日の『シルクラウド・クラウン』を試す時の映像で既に情報が流れているのでは?」
「いエ、あの時の映像は有料でしたシ、流す相手も選んだそうですかラ、案外広まっていなかったりするのですヨ。問題を起こす連中と言うのはそノ……タダの方が寄ってくるんですよネ」
「ああ、なるほど……」
「なんとなく分かりますね……」
マリーは『蓄財』を使うかどうかで悩んでいるようだ。
ただ、この点についてはマリーの判断に任せるしかないな。
それでトラブルが起きたのなら、その時は俺に出来る範囲で助けるのだが。
「ナル君。受け取り完了したよ。早速見てみよっか」
「分かった。今行く」
「ふム。時間切れですネ。今はサークル活動を優先しましょうカ」
「分かりました」
ここでスズが戻ってきた。
なので俺たちは、話を切り上げると、スズの案内の下、衣装室へと向かった。
俺がバードスナッチャーに勝つ鍵は……こうして渡される衣装にあるはずだ。
10/25文章改稿




