138:これからしばらくの予定
「えーと、それじゃあ確認していくぞ」
「うん」
「はい」
「お願いしますネ」
スタジオ見学を終えた俺たちは四階に戻って来た。
その頃にはスズと東鳴さんの話し合いも終わっていて、後はマリーが作ってくれた書類を俺が確認してサインをすればいいだけの状態になっていた。
まあ、俺の頭では明らかにおかしい点は指摘出来ても、本気で隠されたおかしい点は見抜けないだろうけど。
だからこそ、この手の書類の作成と確認をスズとマリーの二人がやってくれているわけだし。
「なるほど」
で、確認は問題なく終了。
合わせて今後の予定についても確認した。
俺は自分の認識が正しいかを確認するためにも、自分の認識内容を声に出していく。
「まず、七月に入ったら、学園の外務部広報課に出す俺の宣材写真の撮影。これはマスカレイド発動前後両方とも」
「うん、ナル君とナルちゃんの見た目と維持能力を考えたら当然だね」
「同時に『シルクラウド』社とその関連企業の求める写真の撮影……これは夏の衣服に水着だな。時期的に遅くないか?」
「はっきり言って遅いですネ。遅いですガ、向こうからの求めですのデ」
「俺たちが気にする事じゃないって事か」
「そう言う事ですね」
俺の認識に間違いは無いようだ。
つまり、サークル『ナルキッソスクラブ』最初の活動内容も確定したと言ってもいいな。
「で、宣材写真の為には衣装が必要で、その為の衣装は『シルクラウド』社とその関連企業がこのサークルに送ってくれることになっている。これが来週なんだな」
「そうそう。ナル君がどういう衣装を好むのか、組み合わせるセンスはどうなのか、と言うのを確かめるための場でもあるみたい」
「サイズについては問題ないはずですガ、到着したら一応の確認はお願いしますネ」
「分かった。しかしまあ、当たり前なんだが、俺の衣装しかないんだな」
「それは当然だと思います。このサークルはナルさんをサポートするためのサークルですし」
と言うわけで、最初の活動は大量の衣装の受け取りと仕分けである。
「……」
「ナル君?」
「ナル?」
「ナルさん?」
と同時にちょっと思ったので、スズたちの方を見る。
俺ほどではないが、スズたちの見た目は整っている。
きちんと衣装を着て、化粧をして、プロの指示に従ってポーズを取れば、俺の隣に立って一緒に写真を撮っても問題はないし、一層華やかになることだろう。
いや、俺と一緒ではなく単体でも、普通に映える事は間違いないだろう。
「いや、スズたちも俺と一緒に写真を撮ったりするのはどうかなと思ってな」
「うーん。私は興味ないかな。ナル君の魅力を広めるためにアレコレと手を尽くしている方が好みだし」
「マリーは家の都合もあるのデ、モデルと言う決闘者以上に目立つ仕事は遠慮したいですネ」
「イチの見た目でナルさんの隣で写真を撮ると言うのは……流石に気後れします」
「むう、そうか」
まあ、スズたちが嫌がるのなら無しだな。
強要するほどの事でもないし。
ちなみにカラフル・イーロ先輩に宣材写真を送って欲しいと頼まれた件については、既にスズたちに相談済みである。
やる気のほどは窺えなかったが……俺にとって利益があると判断したなら、スズたちは動いてくれるだろう。
「えーと、その後は……現状では十月の文化祭までに俺の写真を撮り貯めて、文化祭で写真集を出すことを目標にする。と言う事でいいんだよな」
「うん、それで合ってるよ。当たり前と言えばその通りなんだけど、サークル活動よりも決闘と学業を優先するから、暇な時間を見つけて、ゆっくりと作る事になるね」
「了解だ。となると、そっちは夏休み中とかに本格的に考えることになりそうか」
「そうなりますネ」
「同意します」
先々の予定はこんな所か。
まあ、まだまだ先の話だな。
「それでナル君。少し話が戻るけど、来週送られてくる衣装なんだけどね。出来る限りナル君のユニークスキルである『ドレッサールーム』に型を取り込んでおいて、決闘で使えるようにしてもらっていいかな?」
「ん? ああ、この辺りに書かれてある事か。俺が決闘中に着る衣装を基本的に『シルクラウド』社とその関連企業が作ったものにしたいんだったな」
「そうそう」
「スポンサー様が誰なのかを示しましょうって奴ですネ」
今後、俺の仮面体が身に着ける衣装は基本的に『シルクラウド』社とその関連企業が作ったものになる。
それはまあいい。
『シルクラウド』社が作っている衣服については以前にカタログで見たことがあるのだが、男女どちらのデザインも俺好みのものだったからな。
と言うか、俺好みだったからこそ、『シルクラウド・クラウン』も作ってもらったわけだしな。
問題は……。
「何かあるの? ナル君」
「いやその、色々な衣装を『ドレッサールーム』に入れておくのはいいんだけど、衣装を変える事で決闘に有利になるような何かが欲しいなと思ってな」
現状では、衣装を変更する行為には、俺の美しさの方向性を調整し、見せつける以上の効果を持たない事だろう。
無理やりにでも見出すなら、虚を突いたりするぐらいか?
なんにせよ、その程度の効果しかないのでは、あまりにも『ドレッサールーム』に登録した衣装が勿体ない気がする。
「じゃあ、そう言うスキルを求めていますって表明してみたら?」
「いいのか? スキルの作り方なんてわからないし、詳細を思いついてもいないんだが」
「要望を出すだけならタダだから大丈夫だよ、ナル君」
「なるほど」
とりあえず要望を出すだけ出してみればいいらしい。
そうして需要があるからと生まれたスキルの中から、俺が使いたいと思うようなものがあれば、使ってみればいいのだとか。
それで利益とかは大丈夫なのかと思いもするが……スキル周りには色々と制度があるそうなので、大丈夫らしい。
うーん、世の中不思議である。
「あ、ちなみにだけどナル君の次の決闘は来週の木曜日らしいから、それまでに衣装を一組は決めておかないといけないからね」
「え、あるの!? 体育祭で特殊決闘もやったのに!?」
「あるよ。それも相手は二年生みたい」
なお、次の決闘までに衣装は間に合うが、スキルは間に合わないようだ。
余談だが、この時点で俺のマスッターにはまだ決闘の予定が決まった事を告げるメッセージは届いていない。
なのにどうやってスズは知ったのだろうか?
イチとマリーの二人も不思議そうにしている。
本当に世の中不思議である。




