136:サークル『ナルキッソスクラブ』
さて、一口にサークルと言っても、その活動内容はサークルごとに様々である。
だいたいは掲げているお題目通りの活動をしているのだが、だからこそ、それぞれのサークルにはメンバーが集まり、サークルのメンバーだけで専有するための場所が必要となる。
例えば。
美術サークルならば、絵を描くために校舎内にある美術室を借りている。
演劇サークルならば、吹奏楽サークルと日にちを分けてではあるが、音響設備の整ったホールを借りている。
決闘サークルならば、決闘を行うための舞台の内、その日使う予定のない舞台を借りている。
陸上サークルならば、複数ある400mトラックのうちの一つを。
クレー射撃サークルならば、体育祭でも使った射的の会場を。
投擲サークルならば、こちらもまた体育祭で使った専用の会場を。
と言った具合にである。
「中にはカラオケサークルのように、ショッピングモールに入っているカラオケ店の年パス購入で場所を借りる必要をなくす。と言うのもあるけどね」
「小規模サークルですト、シンプルに空き教室の一つに集まっテ、そこで活動すると言う事もありますネ」
「一部の特殊なサークルの場合、学園内の各所に勤務する職員向けの住居の内、空き家になっているものを使わせてもらう。と言う事もあるようです。茶道サークルなどがそうですね」
「何でもありだな。決闘学園。いやまあ、それだけ、場所と予算を確保していると言う事なんだろうけど」
今日はサークルの加入と小隊の結成が許可された翌日の放課後。
俺たちの申請自体は、事前にスズたちが根回しをしておいてくれたおかげなのか、問題なく通った。
そして今は、俺たちのサークルに割り当てられた部室へと向かっている途中なのだが……。
「で、俺たちのサークルが置かれる場所がこの雑居ビルな訳か」
示された住所にあったのは、五階建て程度の鉄筋コンクリート製なビルである。
周囲には他の建物も、背の高い木もなく、窓の数自体少ない。
真正面のガラス製自動ドアから入るしかないようだ。
「私たちの活動にはカメラスタジオが必要だからね。後、前例の都合もあるかな」
「都合は良いと思いますヨ。戌亥寮からも近いですシ、警備はしっかりとしていますかラ」
「普段から一部の決闘者の為に様々な写真撮影をしている場所だそうです。イチたちは四階のフロアを使わせていただく形のようですね」
「なるほど?」
えーと?
どうやら一階がカメラスタジオ兼ビルの管理事務所。
二階が倉庫で各種物資、機材、資料が置かれている。
三階が現状は空きフロア。
四階がサークル『ナルキッソスクラブ』のフロアで、俺たちのサークルが入る場所。
五階がサークル『カラフル・イーロ・サポーターズ』のフロアで、先輩たちが作ったサークルが入っていると共に、スズが言うところの前例のようだ。
うん、とりあえず自分たちの為のフロアを見に行くべきだな。
と言うわけで、俺たちは警備の人たちに挨拶をした上で、四階へと向かう。
「しかし何と言うか……微妙に隔離されている感じもあるな」
「その感じは間違いではないと思いますヨ。此処はたぶんサークル関係で隔離しておきたい生徒の為の建物ですかラ。エレベーターはカメラ付きで簡単に止められますシ、階段も二階と三階の間で敢えて切り離しているようですからネ」
「お、おう……」
マリー曰く、この建物はある種の要塞と化しているそうで、外からの侵入を阻みつつ上の方のフロアで立て籠って耐久する程度の事は出来るようになっているらしい。
いやあの、いったいどんな相手を想定して、このような建物を建てたので?
この建物、学園全体で見ても、結構奥まった位置に建てられていると思うのだけど。
「着いたよ、ナル君」
「お待ちしておりました。サークル『ナルキッソスクラブ』の皆様」
と、ここでエレベーターが四階に到着。
出迎えてくれたのはスーツ姿の女性職員さんで、よく見れば外務部所属で、『シルクラウド』社との話し合いの時にも関わってくれた人だ。
「どうぞ中へ。まずはそこで詳しい話をしましょう」
「あ、はい」
どうやら既に必要なものは運び込まれているらしく、ソファー、デスク、パソコン、ハンガーラック、ホワイトボードなど、一通りの物は揃っているようだ。
「何度か顔を会わせたことはありましたが、名乗るのは初めてでしたね。私の名前は東鳴と申します。この度はサークル『ナルキッソスクラブ』の監督兼指導者を、一応、務めさせていただくことになりました」
「一応、ですか」
「一応です。私には外務部の業務も変わらずありますので。なので基本的には、外務部広報課から『ナルキッソスクラブ』に依頼がある時の伝書鳩代わりとなるでしょう」
「えーと、それでいいんです?」
「他の生徒たちによるサークルならば問題があるかもしれませんが、このサークルに限っては大丈夫でしょう」
そう言って東鳴さんはスズの方へと視線を向け、スズは軽く頷く。
と同時に、イチとマリーの二人も頷いて見せる。
ああなるほど、スズ、イチ、マリーの三人が揃っているから、学園側としては最低限の管理責任は果たすけど、後は自由にして構わないと言う方針になっているのね。
うーん、まあ、そう言う事なら、俺も楽にさせてもらおう。
「ナル君」
「分かってる。交渉の類はスズに、書類の類はマリーに、機材管理の類はイチに、これでいいんだよな」
「うん」
「頑張りますネ」
「はい、承りました」
と言うわけで、事前にスズたちから申し出があった通りに、それぞれの担当する分野を決定して動いてもらう事にする。
そして、早速スズと東鳴さんは話し合いを始めていて、マリーがその横で書類の確認を始めている。
どうやら、学園外務部広報課からは既に俺へと頼みたいことがあるようだ。
「それじゃあ俺はイチと一緒に機材やスタジオの確認をしてくる」
「うん、お願いね。ナル君」
「はい、一緒に行きましょう。ナルさん」
「気を付けて行ってきてくださいね。ナル」
では、ちょっと探索と行こうか。
俺とイチは二人でフロアの中を見て回り始めた。




