134:ナルのサークルは何故決まってる?
「あー、ストップだ。スズ。ちょっと順に確認させてもらいたい」
「あー、うん、そうだね。流石にちょっと性急すぎたね。じゃあ、順に確認していこっか」
想定していた事と想定していなかった事をスズが言いだしたので、俺はストップをかけた。
「翠川様、水園さん。その件、私も此処で聞かせてもらっていいでしょうか、念のために。あ、羊歌さん、申請については予定通りでお願いします」
「ああうん、むしろ頼む。護国さん」
「どうぞどうぞ」
「分かった~やっておくから~後で確認と承認はよろしくね~」
既にミーティングは終わっているという事で、用事がある面々は次々に教室を後にしていっている。
なので、教室の中に残っているのは俺、スズ、護国さんの三人の他には、子牛寮の名前を知らない生徒が一人居るくらいだ。
ちなみに羊歌さんは護国さんからの頼み事をやるためなのか、早々に大漁さん、瓶井さんの二人と共に教室の外に出て行った。
「じゃあ先ずは確認だ。小隊については、俺、スズ、イチ、マリーの四人で組む。これでいいんだよな?」
「うん、それで大丈夫。小隊の代表はナル君にお願いするけれど、面倒な書類作業の類については私たちの方で担当するよ。あ、イチとマリーの二人への打診は済んでいるから安心して」
「確認作業くらいはするから、必要なものは回してくれ」
「うん、分かった」
「まあ、こちらについては想定通りですね。普段から一緒に居るわけですし」
確認事項の前半、小隊の結成については問題なし。
ぶっちゃけ、普段の俺たちの延長線上の話だ。
なので、護国さんもこちらについては何もないと流す。
「で、サークルを設立ってのはどういう事だ? 俺はまだどんなサークルがあるのかすら確認していないんだが」
「うーん、簡単に言えば、ナル君の、ナルちゃんによる、私たちの為のサークルを作ろうかなって」
「またなんか、どっかのスローガンとか標語みたいな事を……幾らなんでもそれは無理があるだろ」
「そうですね。確認したところ、サークルの新規設立が認められるためには、メンバーが四人以上居る事に、活動内容が既存のサークルと被っていない事が条件としてあります。なので、内容次第、と言うところでしょうか」
問題は確認事項の後半、サークルについてだ。
護国さんの言葉の通りなら、既存のサークルと活動内容が被っていないのなら、確かに条件は満たせてしまえそうだが……。
それ以前の問題としてだ。
「いや、まず先にイチとマリーの二人にだって入りたいサークルや委員会があるだろ。つまり人数不足だ」
「イチとマリーには打診済みだよ。なんならマリーが書類を用意してくれて、イチが先生方に問題が無いかの確認はしてる」
「ひゅっ……」
「翠川様。水園さんがそこで躓くはずないじゃないですか。翠川様以外の確認するべき相手への確認は済んでいて当然だと思いますよ」
前提を覆そうとしたら、既に外堀が埋まっていた。
おかげで思わず変な声が出てしまった。
と言うか、スズだけじゃなくてイチとマリーも積極的に動いているのは聞いてない。
「待て、待て。まずスズはどんなサークルを作ろうとしているんだ? さっきのような標語ではなく、具体的な内容を提示してもらいたい」
「簡単に言えば、ナル君及びナルちゃんをモデルとした写真を撮影し、写真集としてまとめるサークルだね」
「支援いたします。幾ら必要ですか?」
「護国さん!?」
「その申し出はありがたいけど、ナル君に理解してもらうのが先だから待ってね、護国さん」
大前提を確認しようとしたら、こちら側よりの立場に居ると思っていた相手が寝返った。
いやしかし……。
「ナル君は自分の美貌を写真に残しておこうとは思わないの? 今なら昔と違って高性能のカメラも、立派なスタジオも、素敵な服や小物も用意できるけど」
「……。思う。ぶっちゃけ残したい」
俺の写真を撮って、写真集として残すのか。
それ自体は有りか無しかで言えば有りだろう。
俺と俺の仮面体の美貌にそれだけの価値がある事は間違いない。
しかし、しかしだ。
それでも無理があるはずだ。
「だが、既存のサークルと活動内容がモロに被るはずだ。そうなると、サークルの設立は認められないんじゃないか?」
「例えば?」
「あー、写真部とか?」
「決闘学園の写真サークルは決闘中の風景か、校外の自然か、校内行事とかを撮るのがメインで、特定の被写体を持ったり、衣装を用意したり、スタジオを用意したりはしないね」
「えーと……」
俺はそこから複数のサークルの名前を挙げてみるが、その悉くがスズが立てようとしているサークルとは違う事を示されてしまった。
例えば美術サークル。
彼らが行うのは写真の撮影ではなく、絵を描いたり、石や木を削ったりすることである。
例えば映画サークル。
彼らが行うのは世間の映画の批評であったり、自作映画の製作であって、誰か個人を常に対象にしたりはしない。
例えば演劇サークル。
彼らが行うのは演劇であって、写真の撮影会ではない。
例えばアイドルサークル。
これはかなり近いようだが、特定のアイドルを推し、サポートするためのサークルであって、俺をサポートするためのサークルではない。
と言うか、このサークル『カラフル・イーロ・サポーターズ』なる集まりがあったからこそ、スズは俺の為のサークルを立てる事を決めたらしい。
「ぶっちゃけて言うと、このサークルはナル君の為でもあるけど、周囲の為でもあるんだよね」
「と言うと?」
で、どうやら、スズにはまだ表に出していない理由もあったようだ。
しかも、どちらかと言えば、そっちの理由の方がメインのようだ。
「ナル君が普通のサークルや委員会に入ったら、ナル君に気に入られたくて暴走する人が出てくるでしょ。ほぼ間違いなく」
「あー……否定は出来ない……」
「それは……そうですね……」
思い出すは小中学生の頃の放課後活動や部活動。
確かに俺目当てで先輩や同級生の女子が押しかけてきて、他の生徒がマトモに活動出来なくなったことがあったな……。
いやしかし、国立決闘学園の生徒だぞ?
基本的に俺より頭がいい連中ばかりなんだぞ。
それなのに、暴走するのが出てくる?
そんな事が……無いとも言えないか。
改めて思い返してみれば、綿櫛のような怪しい挙動の生徒が……居たような気も……するな。
「かと言って、入らなかったら入らなかったで、勧誘合戦が拙い事になりそうな気もするし、だったら今後控えているナル君のモデル業務と絡めて、これから起きそうな問題を一通り潰しつつ、それでも起きた問題に対処する際の大義名分を得ちゃおうかなって」
「なるほど……サークルを得れば、サークル関係者以外立ち入り禁止の部屋を得たりすることも出来る。それがあれば、色々と楽は出来そうではありますね」
「分かったような、分からなかったような……」
えーと、とりあえず問題を幾つも未然に防いだり、解決したりは出来るようだ。
と同時に、俺やスズの望みを叶える事も可能。
他の人たちに嫉妬されることはあっても、大半の人に迷惑をかける事はなくなる。
つまり、総合的には……皆が得する事になる?
「あー、いやでも、これだけは分かった。とりあえず三方丸く収まるんだな」
「うん、ナル君はそれで大丈夫だよ。あ、たぶんだけど、学園の外務部広報課とはその内に協力する事になると思うから、それは覚えておいて」
「分かった。覚えておく」
「なるほど。問題はなさそうですね。なら私から言う事はありません」
うん、突拍子もない提案ではあったけれど、よくよく聞いてみれば納得のいく提案だったな。
そう言う事なら、イチとマリーの二人も望むのなら、サークルを設立してしまった方が都合が良さそうだ。
なお、話がまとまった事で教室から去る際に、残っていた子牛寮の生徒とスズがハンドサインのようなものを送り合っているのは見えた。
もしかしなくても、残っていたのはスズの協力者の一人とかだったのだろうか。
うーん、スズの持っている繋がりがよく分からない。
いったいどこまで広がっているのだろうか……。




