133:六月半ばのミーティング・小隊について
「……。皆さん既にご存じとは思いますが、時間もありますので、念のために前提となる知識の共有から行きましょうか。味鳥先生」
「うむ。分かった」
どうやら必要な話を最初からやってくれるらしい。
うん、ありがたいな。
たぶん俺も知っている話だとは思うのだけれど、もしもそうでなかった時が困るから、説明してくれるのはありがたい。
「決闘は基本的には一対一で行われるものである。しかし、時には一対一以外の形で決闘が行われることがある。例えば、二対二、四対四、数十人同士、三つ巴、一対四と言った具合にだ」
二対二は……ペアマッチとでも呼びべきものだろうか。
四対四は、たぶんこれからの話に大きく関わってくるものだな。
数十人同士と言うのは……初めて聞いたが、とりあえず大規模なのは間違いなさそうだ。
三つ巴と言うのは、ある種のバトルロワイアルになるのだろう。
一対四と言うのは……ハンディマッチと言う奴だろうか、何処かで聞いた気がする。
「そのような決闘が開催される理由は様々だが……基本的には事前の取り決めの結果として、そうなるものと考えていい」
事前の取り決めの結果……ああなるほど、当事者同士で決闘したいと言う場合に、どちらの陣営も二人だから二対二にするとかか。
後は、人数を増やした場合が有利だから四対四にするとか、大きな利権が関わる話だから総力戦として数十人規模でやるとか、生き残ったのが総取りになるので三つ巴とか、決闘に賭けているものに差があり過ぎるからハンディマッチとか、そんな感じか。
勝ち抜き戦とかも……あるんだろうな、きっと。
とは言え、勝ち抜き戦は一対一を何度も繰り返してやるものなので、この場の話題からは少しずれるか。
「ちなみにナル君。変則的な多人数戦として、味方側の特定の誰かが負けたら終わりとかもあるし、ある種の特殊決闘として自陣の旗を取られたら終わりとかもあるよ」
「へー……」
「翠川様。この手の多人数戦は、実質的に毎回ほぼ別のルールで行われると思っておいた方が都合がいいです。なので、ルールが記された書類はしっかりと読むようにしておいてくださいね」
「あ、はい」
どうやら俺が思いついたもの以外にも色々とあるらしい。
うん、俺がそう言うものに参加するかは分からないけれど、特殊なルールが無いかの確認はしっかりとしておこう。
「もう一つちなみに。ナル君は他の人よりも多人数決闘や特殊なルールでの決闘に巻き込まれることが多いと思うから、覚悟しておいた方がいいよ」
「え……」
「水園さんに同意します。これまでの決闘、体育祭の強行突破にプロレス決勝、あれらを見て、一対一で翠川様に挑んで勝てると思える人間が居るとは思えませんので」
「……」
本当に気を付けようと思う。
どうやら思っていた以上に特殊な決闘をする事にはなりそうだ。
「そんな多人数決闘だが、特に行われることが多いのが二対二、四対四、三つ巴の三種類となる。行われることが多いだけにこの三種類については研究が進み、セオリーなどもあるわけだが……そう言った話は、そのための時間を別に割いて行うべきであろうから、今は割愛する」
二対二、四対四、三つ巴は多いのか。
あー、うん、なんとなく分かる気はするな。
二対二や四対四なら、サポート専門の仮面体の人を入れることで、戦力を大きく増す事が出来るとかで戦術と戦略の幅が大きく広がる。
三つ巴なら、漁夫の利を狙うような形で以って波乱を引き起こす事が出来るかもしれない。
そう考えたら、確かにやる事は多そうだ。
「今重要なのは、多人数決闘の中ではよく行われるものの中でも、四対四については、要素の多さから日頃の連携訓練や綿密な打ち合わせが大切である事。そして、その訓練や打ち合わせを円滑に行うためには、学園側が組み合わせを把握しておくことが必要である事。これだ」
ああなるほど、これで小隊の結成許可とやらの話に戻ってくるわけだな。
「学園側では、この四対四の決闘を行うための四人組を小隊……あるいはスクワッドと呼称している。今日のミーティング終了と同時に解禁される事の一つが、この小隊を結成し、学園側へと登録する行為になる」
「ふむふむ」
「小隊結成の大きなメリットは、小隊を組んで行動する事になる授業や行事の際に、学園側が融通を利かせてくれる事。具体的には集合場所や物資の受け取り、決闘の相手の調整などがそうだな。デメリットは……基本的にはない」
「……。そうですね。基本的には無いです。仲が拗れたりした時にも、簡単に解除できるようにはしていますし、小隊内部で問題が発生した事が明らかになった場合には学園が調査へ入る事も可能ですので」
なるほど、小隊を結成して、学園側に自分たちはそうであると提示しておくことによって、小隊を組んで動く時にはスムーズに動けると。
何かしらのトラブルが起きても、学園側が割って入って仲裁する事も可能です、と。
そして、小隊を組んで、日頃から一緒に過ごすことによって、いざ決闘の時には緻密な連携を取る事が可能となり、小隊全体で見た場合の戦闘能力が跳ね上がる。
確かにメリットばかりだな。
「とは言え……」
「ナル君?」
「翠川様?」
「いや、この場に居る人間はだいたいもう小隊を組む相手が決まってそうだなと思ってな」
「それはまあ、そうだろうね。私はナル君と組む気満々だし」
「そうですね。知っていたなら、入学時点からそのために動いているのは当然の事かと」
まあ、俺については、ほぼ間違いなく、俺、スズ、イチ、マリーの四人で組むことになるんだろうな。
スズもその気のようだし、イチとマリーの二人についても同様だろう。
護国さんについても、ほぼ間違いなく、護国さん、瓶井さん、大漁さん、羊歌さんの四人で組む事だろう。
甲判定の女子四人はだいたい一緒に居るイメージもあるしな。
徳徒たちにしても、徳徒、遠坂、曲家の三人までは確定で、此処に後一人、見知らぬ誰かが加わるか、吉備津が加わるかの二択な気がする。
こうなると、一年生の甲判定組で誰と小隊を組むかが不明瞭なのは縁紅くらいじゃなかろうか。
まあ、縁紅なら実力は確かなので、引く手数多だろうけど。
「さて、こんな所だろうか。おさらいになるが、今日のミーティング終了後から、サークル及び委員会への所属と活動が可能になる。要綱をきちんと確認して、自分に合う集まりがあったのなら、ぜひ参加してもらいたい」
「……。そして、小隊を結成して、それを学園側へと登録する事も可能になります。別に組まなくとも問題はありませんが、組んでおけば小隊関係の授業や行事の際に優遇措置を受けられますので、組んでおくことを先生としてはオススメしておきます」
「では、本日のミーティングはこれまでとする。解散!」
そうしてこの日のミーティングは終わった。
「それじゃあナル君。早速だけど、私とナル君とイチとマリーの四人で小隊を組んで、サークルも設立しちゃおうか!」
「分かっ……んんん?」
と同時に、スズが前半は理解できるけれども、後半は理解しがたい言葉を発するのだった。
10/25誤字訂正




