132:六月半ばのミーティング・サークルについて
俺がユニークスキル持ちだと確定した翌週の月曜日は午後。
体育祭が終わって最初の月曜日という事で、久しぶりに一年生はミーティングをする事になった。
「こんにちは、翠川様」
「こんにちは、護国さん」
メンバーは……体育祭の準備が始まる前のミーティングと同じだな。
と言うわけで、俺や護国さんたち甲判定組十人。
「体育祭はお疲れさまでした。翠川さん」
「特殊決闘プロレス、一年生の部のワンツーフィニッシュおめでとうございます」
「そっちこそお疲れ様。おかげで俺は楽を出来たよ、諏訪さん、獅子鷲さん」
「二人ともありがとう。二人が寮をまとめてくれたおかげの結果だよ」
それに諏訪さん、獅子鷲さん、それにスズと言った、乙判定組の中から選ばれた生徒十人。
合わせて二十人の生徒が集まっている。
席の座り方は……やっぱり寮ごとに分かれているな。
ただ、体育祭前はギスギスしている感じだった子牛寮の空気が落ち着いているので、体育祭の間に改善は図られたらしい。
「素晴らしい。久しぶりのミーティングだが、きちんと全員集まっているようだな」
「……。そうですね。今回も欠け無しで、素晴らしい事だと思います」
さて、味鳥先生と樽井先生もやって来たので、ミーティング開始である。
「コホン。ではまず最初に、諸君らの働きによって、体育祭は無事に成功で終わった。非常に素晴らしい! 先達として、諸君らに惜しみない称賛を送らせてもらいたい!」
ミーティング開始と同時に味鳥先生が拍手をし、俺たちを褒めてくれる。
ただ、ここでの評価は個人での成績ではなく、それぞれの寮の取りまとめを上手くやった件に対するものである。
なので、そちらに対しては殆どノータッチと言ってもよい俺は、自分はこの称賛の対象外だと思っておこう。
口や顔には出さないが。
「……。個人の成績については、皆さんそれぞれの思いがあると思うので、先生たちから全体へ言及する事は止めておきましょう。ただこれだけは言っておきますが、例え成績が振るわなくても、何かしらの気づきを得たならば、それは卑下するような成績ではなかったと思って構いません。決闘学園の体育祭とは、そう言う場です」
「「「……」」」
気づきかぁ……とりあえずユニークスキルについては気づいたな。
うん、10000m徒競走はアレだったが、強行突破と特殊決闘プロレスは好成績だったし、俺の個人成績については中々のものだったとは思う。
他の人たちの表情は……ちょっと何かを抱えてそうな表情の生徒も居るが、スズや護国さんを筆頭に、基本的には満足しているような感じの表情をしているな。
つまり、良成績か気づきか……とにかく、何かしら得るものはあったという事だろう。
「さて、体育祭についての話はこれくらいにしておくとして、お知らせの時間だ。樽井先生」
「……。はい、味鳥先生」
次の話が始まるようだ。
樽井先生が機械を操作して、何かの表を……いや、スライドを映し出す。
スライドの内容は人を募集する内容のポスターのようだ。
そして、それは一枚だけではないようで、時間経過と共に新しいポスターが次々に表示されていく。
「入学から二か月半ほど経ち、体育祭と言うイベントも終えたことで、一年生諸君も決闘学園での生活に慣れて来たことだろう。そこで、本日よりサークルや委員会活動と言ったものへの参加が正式に許可される運びとなった」
「……。今、スライドで映し出しているのは、新人勧誘をしているサークルや委員会のポスターですね」
なるほど、普通の高校だと四月時点で部活動に新人を勧誘すると聞いているけど、決闘学園ではこの時期に新人の勧誘をするのか。
いや、思い出してみれば、体育祭の一日目の昼休みに、麻留田さんが風紀委員会や生徒会がメンバーを募集するとか言っていたな。
これがそうか。
「ただ、これらの活動については幾つかの注意事項があるので、この場で説明をさせてもらう」
ただ、決闘学園だからこそのルールがサークル活動にも存在しているらしい。
「まず、運動系のサークルは幾つか存在するが、これらのサークルは基本的に学園外部の組織が主催する大会の類には参加できないか、参加できても正式な記録は残せず、参考記録として扱われることを覚えておいて欲しい」
「「「!?」」」
「ユニークスキル『強化』事件、ですか?」
味鳥先生の言葉に何人かが驚きの表情を示し、徳徒が質問の意図を以って声を出す。
「それもある。だがそれ以上に我々は決闘者なのだ。決闘に備えて力を蓄える事が本分であり、その為に各種競技へ挑む事は推奨されるが、それに懸ける事まではするべきではない。また、そのような立場の人間が、本気で競技に人生を懸けているものの邪魔をするべきでもない。と言った理由から、このような話になっている」
「なるほど……」
「他にも幾つかの事情があって、決闘学園の中では対戦形式のスポーツについては壊滅的と言ってもいいほどに人気が無い。サークル自体が存在しなかったはずだ。先生も心苦しくは思うのだが、こればかりはどうしようもない」
「いえ、大丈夫です」
えーと、つまりだ。
野球やサッカーと言った集団でやるスポーツのサークルは存在しない。
徒競走や砲丸投げと言った競技のサークルは存在するが、その記録は学外では参考記録の扱い、と。
うーん、何とも言えない気持ちになるな。
けれど、味鳥先生の表情からして、どうしようもない話なんだろうな、これは。
「あー、代わりにはならないだろうが。所謂文科系のサークルについては、ほぼ無制限と言っても良い。新規設立も人数と書類さえしっかりとしていれば、まず間違いなく通るはずだ」
文科系のサークル……文学部とか、美術部とか、吹奏楽部については自由に参加できるようだ。
新しく設立する事も、そんなに難しくないらしい。
珍しいところだと、スキル開発部なんてものもあるようだ。
スズは……何か指折り数えているな。
「委員会については、様々な物が存在するが、こちらはサークル活動と違って、学園の業務の一部に参加してもらうような形になる。参加者には当然ながら内申点の追加と言ったメリットが与えられるが、相応の責任も伴うため、入る前に面接もあるし、責任者が合わないと判断したら参加を断られる場合もある。他にも色々と注意事項があるので、先に『マスッター』の該当項目にも目を通しておくように」
「……。生徒会と風紀委員会も分類上はこちらですね。今この場に居るメンバーなら、この両者への参加希望も通りやすいはずなので、検討しておいてください」
委員会についても……色々とあるようだな。
各種イベントの取りまとめ役になる生徒会。
学園内の風紀を維持し、違反者を取り締まる風紀委員会。
他にも図書館を管理する図書委員会や、各寮の炊事を手伝う給食委員会、学園内の各種メンテナンスに従事する整備委員会、主に決闘での司会業務などを担当する放送委員会、外務部と協力して宣伝活動を行う広報委員会などなど。
本当に色々だ。
この場に居るメンバーで生徒会と風紀委員会に入りたいと思う人間は……うん、居そうだな。
なんか、吉備津が子牛寮の人たちから熱心に誘われているのが見えるし。
「サークル関係についてはこの辺りか。それぞれが望む集まりに参加できることを先生は願っているぞ」
さて、これで話は終わりだろうか?
と、俺は一瞬思ったのだが、まだ何かあるようだ。
樽井先生がスライドの内容を切り替える。
「……。では続けて小隊の結成許可についてです」
どうやら話が大きく変わるらしい。
スライドは四人分のシルエットが横並びに立っているものに変わっていた。




