131:希少であるが故の闇
「それにしてもナルはユニークスキル二個持ちですカ。しかモ、そのどちらもが個人で使うのに便利止まリ。正直、羨ましいですネ」
授業が終了し、本日の夕食を俺たちは戌亥寮で取る。
で、周囲に他の生徒が居ないからか、マリーが今日の午後の授業中に確かめた事について、どうしてか羨ましがる発言をした。
「その言い方から察するに、俺のユニークスキルの内容次第では何かあったのかもしれないのか?」
まあ、もしかしなくても話を聞いて欲しいんだろうな。
と言うわけで、俺はマリーに話を振る。
「ですネ。そもそもとして、ユニークスキルと言ってもその実態は様々なのですよ。何の役に立つかも分からないようなものもあれば、一流の決闘者の力を更に高めるようなものもあります」
どうやら真面目な話であるらしい。
マリーが普段語尾にわざと付けているアクセントを消している。
スズとイチの二人も、一瞬だが、周囲に不審な人間が居ないかを確かめるような動きを見せたな。
じゃあ、俺も真面目に聞くべきだ。
「俺のユニークスキルは……俺の力を高めるだけだろうな」
「ですね。しかしユニークスキルの中には、他人の力を高めるものもありますし、社会的に重要な何かを秘めている可能性があるものを生み出せてしまうユニークスキルもあります」
マリーの『蓄財』のように、か。
口には出さないが、俺とマリーで思い描いたものはおなじだろう。
マリーの『蓄財』は魔力を物質化した上で、マスカレイドを解除しても保存しておけて、必要な時に自分の魔力として利用できる。
マリーの『蓄財』で生み出される金貨が他人でも利用可能かどうかは聞いた事が無いので分からないが、例え魔力として利用する事が出来なくても、固形化した魔力と言う時点で、色々な研究に使えそうな気配はあるので、社会的に重要と言うのは、うなずける話だ。
「そうした様々な効果をユニークスキルは持つわけですが、ナルのユニークスキルのように解析も再現も可能そうであるものもあれば、再現どころか解析すら受け付けないものだってあります」
「解析すら出来ないんじゃ、スキルにする事も夢のまた夢、ってのは分かるな」
話の流れから察するに、マリーの『蓄財』は再現どころか解析も受け付けないユニークスキルなんだろうな。
だからこそ、体育祭の前に『シルクラウド・クラウン』を試した時にも堂々と金貨を使ったのだろうし。
いや、違うか。
マリーとしてはむしろ……解析してもらった方がいいのか?
だって解析が出来たのなら、効率などが著しく悪くても、スキルとして作り出せる可能性があるのだから。
いやしかし、マリーがそんな事を望むとなるとだ。
「……。解析も出来ないのに、研究などの面で極めて有用なユニークスキルを持つ一族。となると、相当に自由とか制限されそうだな」
「実際、制限されまくりでしたね。パパママの話では、昔は真っ当だったし、優遇されていたそうですが、十数年前ぐらいからは色々とおかしくなっていて、魔力の扱いを誤る事による各種危険も顧みない児童労働も始まっていましたから」
「真っ黒か」
「真っ黒でしたね。国と女神が割って入り、関係者を処分する程度には」
どうやら、マリーの生まれ故郷は中々に真っ黒な事になっていたらしい。
女神が介入したのであれば、今はそこまで酷い事にはなっていないのだろうけど。
「それでマリー。マリーはどうして今この話を? ナル君がユニークスキル持ちだと確定したからだけじゃないんでしょ?」
と、此処でスズが割って入る。
「ユニークスキル持ちには妙なのが絡んでくる可能性があると言う警告はもちろんありますよ。後は……勘もありますし、今後の為にナルにはさわりだけでも知っておいてもらいたかったと言うのもあります。迷惑をかける分だけ働くつもりはありますけど、何処かで何か起きた時に、先に知っておいてもらった方が心証もいいですからね」
「なるほどな。ちなみにスズとイチはマリーの事情を……ああうん、言わなくても分かった」
要するに、この先何かが起きた時に俺が動揺しないためか。
うん、それなら、今知っておいてよかったと思うべきだな。
なお、スズとイチは当然のようにマリーのそこら辺の事情を知っているらしい。
「ちなみにですガ、何があったのか詳しく聞きますカ? ぶっちゃケ、長くなりますのデ、マリー個人としては此処では話したくないですガ。資料とか用意したいぐらいには面倒な話ですシ」
「う……そのレベルか……。期末テストも近づいてきている今の時期にそのレベルは……火急でないなら……ちょっと遠慮したいかもな……」
「でハ、またの機会といたしましょウ」
「はぁ、ナル君……」
「仕方が無いと思います」
マリーのアクセントが戻った。
どうやら、この場では本当にさわりだけであるらしい。
なら聞かないでおこう。
決して、聞くと授業で習った内容が吹っ飛びそうだからと言う理由ではない。
断じて違う。
いざ聞いたら、吹っ飛びそうな予感はしているけど。
「ああそうダ。ナル、ユニークスキルの先達として言っておくこととしてハ、ただ一ツ。日々の研鑽を忘れない事でス。血筋依存のユニークスキルであってモ、デバイスを介さない以上ハ、日々の努力が諸に出ますヨ」
「そうですね。その点についてはマリーの言う通りです。イチも日々の研鑽があるからこそ、アレを使えるわけですし」
「なるほど。覚えておく。と言っても『恒常性』も『ドレッサールーム』も何をしたものかって思いがあるんだけどな」
「それじゃあこの後、ナル君の部屋でその辺についてちょっと話し合ってみようか。ちょうど燃詩先輩から、ナル君のユニークスキルの解析結果をまとめたメッセージも来たみたいだし」
「分かった」
夕食後、俺は自分の部屋で、ユニークスキルの『恒常性』と『ドレッサールーム』について、説明を受けた。
詳しい理屈はよく分からなかったが……どうやら俺の中には仮面体や『ドレッサールーム』で取り込んだ装備の設計図があって、『恒常性』はその設計図通りに仮面体や装備を治してくれるのだとか。
ただ、今日の授業だけでは解析しきれなかった部分もあるとかで、また今度機会を見て、『ドレッサールーム』の装備品の取り込みから記録させてほしいとの事だった。
なお、数日後に同じような話が、樽井先生と『シルクラウド』社の両方から届いたので、解析結果に間違いは無いとみていいようだ。
とりあえず日々の研鑽としては、夜に自室で一人ファッションショーでもやっていればいいようだ。
うーん、仮面体で使える服の種類が足りないな。
後で増やしておこう。




