130:ナルキッソスのユニークスキル
「傷が残らない、ですか?」
「ああ。これでも俺は男だからな。小学校低学年の頃なんかはそこら中を走り回っては、時には派手に転んで膝や腕をすりむくんだが……」
「一日もすれば……ううん、翌朝には跡形もなく治ってたよね、ナル君は」
「ああ、治ってた」
「「「……」」」
護国さんの質問に俺とスズで答える。
答えた結果としてマジかと言わんばかりの顔を他の人たちがしているが……事実である。
「後、大病はもちろんした事が無いんだが、風邪についても生まれてこの方罹った事が無いな」
「と言うか、危険なウィルスで小学校が学級閉鎖になった時とかも、おじさんとおばさんが罹った時もナル君だけはワクチン接種が始まる前から平然としてたよね……」
「今考えてみれば、あの時点でもうユニークスキルとしては発現していたのかもな……」
「「「……」」」
更に言葉を重ねたところ、ドン引きされるようになっているが、これもまた事実である。
「……。とりあえず検証と記録を取りましょうか。検証用の結界を展開しますので、翠川さんはその中でマスカレイドをしてください」
「分かりました」
「攻撃役は……水園さんと護国さんの二人でお願いします。水園さんは毒による攻撃を、護国さんは物理的な攻撃をお願いします」
「はい、分かりました」
「了解しました」
とりあえずデータを取るらしい。
と言うわけで俺はマスカレイドを発動して、ナルキッソスになる。
で、その後にスズによる毒物の攻撃をユニークスキルによって潰して無毒化するのと、トモエによる物理攻撃で傷ついた体を急速に治していくのを、各種機器によって撮影し記録する。
「なるほど~。これがナルキッソスのユニークスキルですか~」
「……。やっている事は生物が持っている恒常性の拡張、と言うところでしょうか」
「そうですね。ですが、その精度と速度が桁違いです。その結果、とてつもない再生速度になるようですね」
『ユニークスキルの定義は満たしているな。デバイスを経由しない魔力の動きがみられている』
そうしてデータが取れたところで……羊歌さん、樽井先生、楽根さんたち『シルクラウド』社の人たち、それから聞き慣れない声はスズの招いた燃詩先輩とやらだな。
とにかくスキルについて詳しい人たちが集まって、話し合いを始める。
「これを~スキル化するとどうなるんでしょうね~?」
「……。最もオーソドックスなのは仮面体の再生でしょう」
「そうですね。ただそれだけで終わらせるには勿体ないですし、燃費がそれほど良くない物に……」
『個人的には任意でのセルフスキャンを作りたいところだな』
「……。えーと、研究者の人たちはしばらく放置でいいか?」
「うん、それでいいと思うよ、ナルちゃん」
うん、まるで分からん。
俺のユニークスキルを基に、普通の決闘者でも使えるようなスキルを作るなら、どんなスキルを作るのかと言う話をしているのだろうけど、具体的に何処をどうすれば、そんなものが出来るのかと言う話になったら、横で聞いていても何が何だかと言う感じだ。
「専門の話は専門家の人たちに任せましょう。それよりも翠川様が考えるべきは、ユニークスキルの名前をどうするかだと思います」
「名前か……」
俺のユニークスキルは……俺の体を治して、その状態を維持する事に特化している。
樽井先生たちの話の中から理解できる範囲でまとめるのなら、人間……と言うより、生物が元から持っている機能を魔力によって大幅に強化したような代物であるらしい。
となれば、名前もそれに合わせたものにするのが妥当だろう。
「そうだな、『恒常性』とでも名付けておこうか」
「『恒常性』……なるほど、良いと思います」
「そうですネ。妥当な名前だと思いますヨ」
「はい、良いと思います」
「そうだね。ナルちゃんの能力にぴったりだと思う」
うん、イチたちに賛同も貰えたので、『恒常性』と言う名前でいいだろう。
「と、そう言えばナル君の衣装の色替え、入れ替えと言ったものも折角だから記録して、名前も付けておこうか」
「アレはユニークスキルじゃないだろ?」
「それを検査するためにも記録しておこうという事でス」
「えーと、カメラの準備は問題ありません」
「色替え? 入れ替え? どう言う事ですか?」
で、その後どうしてか、衣装の色替えや入れ替えも見せる事になった。
盾の色を変えたり、着ているものを瞬時に女子制服からブルマへと変えたりと言った行動だ。
その光景を見た樽井先生と護国さんは絶句した様子だが……これはユニークスキルじゃないと思うんだが。
仮面体でないと出来ないし。
『計測出来たぞ。やはりこちらもユニークスキルだな。デバイスを介さない魔力の動きが見えている』
「そうなの!?」
「だからそうだって言ったじゃない、ナルちゃん」
「ちょっと安心しました」
「イチも同意します」
どうやらユニークスキルだったらしい。
いやでも、普段は衣装の構造を取り込むために魔力を物に流し込む事くらいしか……ああいや、それがユニークスキルなのか?
『展開や修復の速さについてはデバイスの機能に『恒常性』と名付けたユニークスキルの影響もあるようだが、そもそも仮面体に後から自由自在に装備を足せて、その足す工程の一部がマスカレイド関係なしの時点でユニークスキルだ』
「あ、はい」
『そうだな。吾輩が調べた限りでは、自分の仮面体を覚えておくスペースとは別に装備を覚えておくためのスペースがあって、そこへデータを登録したり、調整したり、引き出したりするのが、このユニークスキルが行っている事のように見えるな』
「なるほど」
『名前を付けるのなら『ドレッサールーム』と言うところか。これを解析すれば、既存の物体を魔力で強化する時の効率化などに活用できそうだが……』
「へー。じゃあそれで」
「ナルちゃん!?」
うん、ちょうどいい名前を貰えたので、それで良しとしてしまおう。
と言うわけで、今後は衣装や装備の登録や調整する部分の魔力の動きについては『ドレッサールーム』と呼んでしまおう。
「ユニークスキル二個持ちですか……」
「ナルちゃんの価値がまた高まる事になるね」
「ナルさんならまだ何か出てきそうではありますが」
「うーン。面倒なのが絡んでこないといいですガ……」
こうして俺は二つのユニークスキルを持っている事が確定した。
一つは体の異常を検知して治す『恒常性』。
もう一つは自由に装備を取り込んで、仮面体の装備として再現可能な『ドレッサールーム』。
この二つのユニークスキルからどんなスキルが生まれるかは知らないが、今日得られたデータをきっとどこかの誰かが生かしてくれることだろう。
ちなみにですが、ナルの『ドレッサールーム』と麻留田の『部分展開』は似ているようで別なものです。
パソコンで例えるなら、ナルは外付けのHDDからデータを取り出して装着するのですが、データで弄れるのは色などの部分的なものだけになります。
対して麻留田は内蔵のHDDからデータを一部だけ取り出したり、複製したりすることは可能ですが、取り出す範囲の設定以外は出来ません。




