129:特殊決闘プロレスの検証
「……。皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます」
午後の授業。
俺はマスッター経由で指名された教室へとやってきた。
で、時間になったところで集まったメンバーはと言うと……。
「検査か……」
「先に検証からだけどね」
「決勝は色々な意味で凄まじかったですからネ……」
「一部修正された記録映像の閲覧が止まらないそうですからね」
まずは俺、スズ、マリー、イチの四人。
つまりは当事者組と言ってもいい。
「あの、私も居ていいのでしょうか?」
「いいんじゃない~水園さんも~翠川さんも~認めているし~」
「……。そうですね。二人には外部の人間だからこそ気づいたことを話して欲しいかと」
続けて護国さん、羊歌さん、樽井先生の三人。
三人とも特殊決闘・プロレスの決勝には関わりが無かったメンバーなので、ある意味では部外者組と言えるだろうか。
ちなみに護国さんと羊歌さんは移動中に偶然会って、話をした結果、招かれることになった。
割とよく居る残りの二人……瓶井さんと大漁さんは、興味の有無の都合もあって、本日は別行動である。
「お招きいただきありがとうございます。翠川様、水園様」
「「「ありがとうございます!」」」
最後に楽根さんを筆頭とした『シルクラウド』社の社員さん方。
樽井先生と合わせて、専門家として検証と解析をお願いする感じだろうか。
「ナル君。戌亥寮の先輩でとても優秀な人が居るんだけど、その人をリモートで参加させても大丈夫?」
「スズが大丈夫だと判断したなら構わないぞ」
「ありがとう。じゃあカメラとマイクをセットしてっと。これで良し」
なんか追加でスズが招いた……正確にはリモートでの参加を望む人が来たようだ。
俺から離れたところでイチとマリーの二人がスズに誰なのかを尋ねていて、その結果漏れ聞こえてきているのが燃詩と言う名前であるが……まあ、スズが優秀と言っている人なら、大丈夫だろう。
「……。では、各自準備も整ったようなので、先日行われた体育祭の三日目、特殊決闘・プロレスは一年生の部、その決勝についての振り返りと、それに合わせて翠川君のユニークスキルについての確認を始めたいと思います」
「分かりました」
「……。なお、この場には決勝の相手である水園さんも居るので、水園さんについても気になった事は逐一指摘して構いません。答えるかどうかや検証するかは本人の意思次第ですが」
「はい。お願いします」
そうして検証が開始されて、俺とスズの決闘の様子が教室内に用意されているスクリーンに映し出される。
で、気になった事が早速一つ。
「スズ。マスカレイドを発動する時の文言が普段のと違ったのはなんでなんだ?」
「ア、それはマリーも気になってましタ」
「イチもです」
「ああそれね」
スズがマスカレイドを発動する時は、これまでは『映せ』とか『映して』とか言っていたはずだ。
しかし、ツインミーティアの時は『黒を映せ』、俺との決闘の時は『濃藍を映せ』になっていたはず。
ちょっとした言い換え程度は気分の範疇だが、これほど変わるのはスズの性格からすると意図的なものだろう。
なので尋ねずにはいられなかった。
「簡単に言えば乱数調整かな」
「ランスーチョーセイ?」
「私の仮面体のバッグの中身はランダムでしょ? そうなると、最初に欲しい素材がバッグの中に無いって事が無視できない確率であるの。で、それを少しでも回避できるように考えて、試行錯誤をした結果、マスカレイドを発動する時の文言を変える事で、多少の調整が出来る事を発見したの」
「へー……なるほどなぁ……」
なるほど、欲しい薬品が確実に手に入るようにするためのものだったのか。
それは確かにスズには必要そうだな。
「水園様、その変化具合のデータを取る事は?」
「うーん、この後でやっておきましょうか。もしかしたら、専用デバイスの改良で確実性をもっと上げる事も出来るかもしれませんし」
「ありがとうございます」
そして、スズの表情からして、まだまだ未検証の分野であるらしい。
まあ、偏らせるであって確実ではないっぽいもんな。
そうなると、検証自体が大変そうだし……場合によってはまた後日時間を設けるべきかもな。
「水園さん~この情報だけでも~結構な価値があるのでは~? 萌たちに聞かせて良かったんです~? マスカレイド発動時のアレコレは~未だにブラックボックスが多いはずですよ~」
「それはそうだけれども、私だけの仕様かもしれませんし? 羊歌さんたちが独自検証をしてくれるなら、むしろ願ったりと言うところですね。私だけでは手が足りませんし」
「そうですか~まあ~こちらとしても利益がありそうなので~伝手を頼って~ランダム要素がある系の決闘者に流しておきますね~」
「お願いします。上手く流してくださいね」
なんだろう、羊歌さんとスズの間で政治が行われている気がする。
ちなみにスズの話を聞いた時点で護国さんは何かを考えこんでいる。
きっと、自身で利用できるかどうかを考えているのだろう。
「……。さて、この辺りの各自のスキルの使用や仮面体の機能によって起こされている現象についてはさて置くでいいでしょう。誰かが勝手に解析と研究をするはずです」
「テレビでの放映もされていましたからね。見ていた人は少なくないはずです」
「ですネ。その内に結果もライブラリに上がるはずですヨ」
スズの調合で何が出来ていたのか、どうやってこうしたのかはスルー。
まあ、流石にこの辺はスズにも明かす気はないだろうし、今回の集まりの主題でもないから当然だな。
「……。問題は此処ですね。水園さんから毒と思しきものを受けた翠川さんは、特殊な魔力の挙動で以ってこれを治療しました。この時の魔力の挙動がユニークスキルか否かが今回問われている部分ですね」
そう、主題はこっち。
スズの毒を受けた俺が魔力で治した部分だな。
その後のスズの呟きからして、スズはユニークスキルと確信しているわけだが……。
俺としては……どうなんだろうな?
「うーん、ユニークスキルの定義はデバイスを介さない魔力の動きで妙な現象を起こす事、ですよね」
「……。だいたいそうですね」
「つまり、マスカレイドをしていない時でも同様の現象を起こせるのなら、ユニークスキルという事になるんです?」
「……。仮面体の機能やデバイスの効果で強化されている部分もあるでしょうから、生身で起こすのなら、この時の劣化版でも問題はありませんね」
「なるほど。そう言う事なら……」
俺は自分の魔力を意識してみる。
そうして意識して、動かして……確信する。
「ユニークスキルで間違いないと思います。思えば俺は昔から傷が残らない体質でしたし」
「あー、そうだね。ナル君が怪我をしたところは見たことがあるけど、ナル君の体に傷跡は見た事が無い」
俺の肉体を決まった形で保つようにしているのは、間違いなく俺の魔力の働きだ。
普通の決闘者:予め決めた手札で戦う(使った手札はターン終了時に帰ってくる)
ユニークスキル持ち決闘者:予め決めた手札に加えて、独自手札を別に持っていて行使できる。(独自手札の動きは個別のルールによる)
スズ:数十枚のカードでデッキを作り、その中から特定枚数のカードを引いて、それらをコンボさせて戦う。(使った手札はデッキの何処かへと戻っていく)
と言うぐらいには差があるので、スズがマリガン(最初の手札を任意で引き直す)が出来るようになると、そりゃあ強くなります。




