127:『ユニークスキル『強化』事件』
本事件は完全なるフィクションであり、参考にした事件などは存在いたしません。
予めご了承ください。
『ユニークスキル『強化』事件』
この事件は1980年代にC国の都市Dで開催された、バレーボールの学生大会中に発生した事件あるいは事故である。
本件発生当時は、チームEとチームFとバレーボールのコート上で試合を行っていた。
両者の実力は伯仲しており、試合は最終セットのマッチポイントをどちらが取るかと言う状況であった。
チームEとチームFの実力は僅差であったが、差も存在していた。
具体的には、チームEは選手全員の能力が平均的に高く、チームプレイによって点を得ていた。
対するチームFは選手αの能力が飛び抜けて高く、他の選手の能力はチームEと比べると一段劣っている事が明らかであり、選手αの能力に頼って点を得ていた。
チームFの選手α以外の選手たちは、長引いた試合によって本件発生時点では既に疲労がピークに達しており、これ以上試合が長引けばどちらが勝つかは明白と言ってもよい状況だった。
この事実は選手αも当然ながら把握していた。
そんな状況下で、選手αはスパイクを打つチャンスに恵まれた……恵まれてしまった。
選手αは相手コートに向けて全力のスパイクを打ち込んだ。
チームEの選手たちはそのスパイクを防ごうと動いた。
結果。
まずネット際で選手αのスパイクをブロックしようとした、チームEの選手二名。
彼らの右手または左手、選手αのスパイクに触れた部分が、抉れて消失した。
続けて、反射的に軌道上に入りレシーブを試みてしまったチームEの選手。
選手αのスパイクに触れた彼の両腕と胸部が抉れて消失し、即死。
貫通したボールはコートの床に着弾、めり込んだ。
と同時に、破壊されたコートの破片が周囲へと散弾のように射出されて、チームEの選手の他、コーチ、スタッフ、観客、そして選手αを除くチームFの選手へと襲い掛かった。
この時射出されたコートの破片は極めて高い貫通能力を有しており、重軽症者及び死者多数を発生させた。
と同時に、会場外にもコートの破片の一部が飛散。
こちらは死者こそ出さなかったものの、最大で会場からコートから200m近く離れた場所にまで届いたことが記録されている。
その後の調査にて。
選手αの魔力量は、当時の不正確な機器でも魔力量1500を確実に超えている事が確認された。
しかし、選手αはスポーツの天才として将来を望まれており、本人の希望もあったため、決闘者としてではなくスポーツ選手として生きようとしていた。
そのため、魔力の扱いについては一切教わっていない状態であった。
また、当時のC国には特定量以上の魔力を持つ人間を強制的に決闘者にするようなルールも存在しなかった。
それと女神の協力もあり、スパイクに用いられたバレーボールのボール及び飛散したコートの破片に大量の魔力が込められていることも確認。
同時に、込められた魔力によってユニークスキル『強化』が発動していたことも確認された。
もはや常識であるが、魔力による干渉が行われている物体は、そうでないものに対して著しい干渉能力……言い換えれば、破壊能力を有しており、魔力による攻撃を生身の人間が受ければどうなるかは自明の事である。
つまり、本件は優れた魔力量を持つ人間が、追い詰められたことで意図せずユニークスキルを発動してしまった事によって起きた事件であった。
本件以降、どの国においても、一定量以上の魔力を持つ人間は魔力の扱いに対する教育が施されることが義務化される事となった。
それは我が国日本でも同様である。
なお、選手αが罪に問われることは無かったが、一通りの調査が終わった後、自責の念から自ら命を絶ってしまった。
彼らの無念に応えるためにも、本件を風化させる事は決してあってはならないだろう。
■■■■■
「「「……」」」
教室が重たい沈黙で満たされる。
いやあの、事故なのは分かっているし、昔の事で色々と対策が進んでいなかったのだろうけれども、まさか此処までヘビーな話が唐突にお出しされるとは思ってもいなかった。
淡々と、殆ど感想や感情にまつわる話を入れていないにも関わらず、悲惨で悲壮な気配が漂ってきていて、当時どれほどの阿鼻叫喚な状況が生み出されたのかを想像させてくる。
と言うか、こんな事件どうしろと言うんだ、防ぎようがないだろ。
いや待て、それよりもまず気にするべきは……。
俺は徳徒の方を向く。
徳徒は中学生時代は野球をしていて、しかもエースだったと聞いている。
競技の差はあれど。選手αに最も近い立場だったと言えるだろう。
だから俺は徳徒の事が気になってみたわけだが……。
「その辺の話は昼休みにする。それでいいか、遠坂、曲家、翠川」
「あ、ああ……」
「分かったっす」
「了解した」
徳徒は真剣な表情で、何かを考えながら、映された画面の方を見つつ、後で話すと言うだけだった。
「コホン。お前たちが真剣に考えてくれているようで何よりだ。さて、先述の通り、ユニークスキルが使えるようになる理由は様々だ。ただ一つ、確実に言える事として、魔力を多く持つ人間ほどユニークスキルには目覚めやすい」
「はい」
「つまり、魔力量丙判定の人間がユニークスキルに目覚めることはあり得ないと断言しても良いが、魔力量甲判定の人間がユニークスキルに目覚める可能性は無視できないほどに高い。これは世界的に見ても共通認識と言っていい」
「うっす」
「だから日本では、中学三年生時点で魔力量の一斉検査を行って、甲判定となったものを決闘学園へと強制入学させているわけだ。血筋によるものを除いた過去の事例から考える限り、中学生の頃にユニークスキルに目覚めることはまずないが、高校生になると目覚める可能性が急激に高まるからと言うのもあるな」
「なるほど」
「もしかしたら、此処に居る四人の中にも既にユニークスキルに目覚めているものも居るかもしれない。もしも自分が目覚めたと思ったのなら、一度検査をして、その正体を確かめておいた方がいいだろう。そうすれば、不慮の事故が起きる可能性もだいぶ下がるはずだ」
「分かりました」
なお、その後の先生の話が進むにつれて、俺以外の視線の向きは徳徒から俺へと移行していった。
どうやら何かしらのユニークスキルに目覚めているんじゃないかと思われているらしい。
……。
いやまあ、スズとの決闘の最中でやった事もあるし、他にも普段から魔力を使って色々とやっている自覚もあるから、ユニークスキルの一つや二つぐらいは持っていると判断されてもおかしくないのかもしれないが……。
はい、後でスズたちに相談した上で、検査を受けてみよう。
「ちなみに本件は、一般市民でも緊急時にはマスカレイドを使って構わないようにする、と言う法律の制定にも大きく関わっている事件でもある。そう言った意味でも、覚えておくように。七月の期末テストにも必ず出すぞ」
「あっ」
「ひゅっ」
「今嫌なワードが……」
「聞こえないっすぅ……聞こえないっすぅ……!」
「出すぞ。冗談でも何でもなく出すぞ。決闘者として、この事件とその周囲に関係する話は重要事項だからな。出さないと言う選択肢は先生にはない。だから覚えておくように。お前たちが泣こうが喚こうが、期末テストがやってくることに変わりは……ない」
「「「はい……」」」
ちなみに期末テストは約一月後との事。
成績如何によっては夏休み後の座学がマンツーマンとなる可能性もあるし、夏休みが合宿の時以外は補習漬けになる可能性もあるそうで……。
ある意味ではこの瞬間こそが、俺たちの背筋が最も凍った瞬間だったかもしれない。
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