126:ユニークスキルとは
三日間に及ぶ体育祭が無事に終わり。
最終日が土曜日だったことによる振替休日も終わって。
本日は2024年6月11日。
国立決闘学園は通常通りの授業が行われている。
「今日の授業はユニークスキルについてだ」
「ユニークスキル……」
と言うわけで、本日の午前中の座学、この枠を使って学ぶのはユニークスキルとそれにまつわる歴史になるらしい。
「麻留田風紀委員長のアレか」
「アレだろうな。檻だけ出して投げてた奴」
「アレ凄いっすよね。翠川を一瞬で捕まえていたっすから」
「アレなぁ……俺の火力だと一度捕まると脱出出来ないから、現状だと本当に天敵なんだよな」
「そうだな。麻留田のユニークスキルは有名だし分かり易いものだ。アレを軸に話をする方が分かり易いか」
教室に居るのは徳徒、遠坂、曲家、俺の生徒四名に、教師一名の計五人。
いつものメンバーとも言う。
「では定義から話そう。ユニークスキルとは、デバイスを介さずに魔力を用いり、魔力発見以前の物理法則から外れた現象を引き起こすこと全般を指す言葉だ。一般的には仮面体の機能やスキルに類する現象を引き起こす事からユニークスキルと呼ばれているが、定義的にはスキルのような現象で無くても構わない」
「「「へー……」」」
「ユニークスキルの有名どころとしては有力な決闘者の名前と能力を出すのが早いが……今回は麻留田にしておこう」
そう言うと、教室内に用意されているプロジェクターを先生が操作して、麻留田さんのユニークスキルについて公表されている範囲の情報が出される。
それによればだ。
麻留田さんのユニークスキルの名称は『部分展開』。
マスカレイドの為のデバイスを用いずに、自身の仮面体の一部を出現させることが出来るユニークスキル。
公表している範囲だと、俺に投げられた檻だけでなく、仮面体の体を覆う装甲板、関節の隙間から出てくる小銃も展開する事が可能であるそうだ。
また、マスカレイド発動中でも、このユニークスキルを用いることによって、追加の装甲板を出したり、一時的に火力を増強したりすることも出来るらしい。
普段は威力を調整した上で、主に檻を風紀委員会の活動に利用しているようだ。
「あれ? もしかしなくても麻留田さんって銃刀法的に相当拙いんじゃ?」
「拙いぞ。だから、銃刀法については、麻留田は国から特別な許可を得ている。他にも特別な許可を色々と得ているはずだ。なにせデバイスを取り上げても、仮面体の能力を用いる事が出来るわけだからな」
「はー、持っていたら便利。だけじゃ済まないんだな」
「言うて。麻留田風紀委員長は特殊な場合だとワイは思うけどな」
「そうっすね。例えばっすけど、翠川が『部分展開』を使えたとしても、そこまで問題にはならないと思うっす」
どうやら、強力と言うか、法的に問題のあるユニークスキルだと、国と色々とやり取りを重ねる必要が生じるらしい。
俺がそう言うユニークスキルを持っていたなら……うんまあ、とりあえずスズに相談して、交渉そのものは投げてしまおう。
使うなと言われればそれまでで、素直に従おう。
後はマリーとイチの二人もユニークスキル関係のお話では頼れそうか。
マリーは『蓄財』と言うユニークスキルを持っていて、魔力を金貨状の物体に変換して蓄え、必要な時にそれを開放して使用する事が可能だ。
イチもユニークスキルは持っていて、こちらの防御をすり抜ける事が出来る。
二人なら、ユニークスキルの関係で何か対応が必要になったのなら、色々と教えてくれるはずだ。
「さて、そんなユニークスキルだが、使えるようになる理由は人によって様々だ。本当にただの偶然から使えるようになるもの、仮面体の機能から逆算して使えるようになるもの、生来そうであったもの、努力、血筋、本人にしか分からない理屈、本当に様々で、一部の有名な血筋にまつわるものでもなければ、ほぼ個人個人の技能。故にunique……唯一の、他に類を見ない、独特な、目立つ、特有の、などと言った意味を冠する言葉が付いたスキルと称されるわけだな」
「なるほど。ちなみに麻留田さんの場合は?」
「本人曰く、偶然、だそうだ。気が付いた時には出来るようになっていたらしい。とは言え、練度を上げるために相応の努力も重ねているようだ」
ユニークスキルが使えるようになる切っ掛けは人それぞれか。
まあ、マスカレイドの技術が人類にもたらされてからまだ六十数年、世代にしてみれば三世代か四世代程度だから、まだ分かっていない事も多いだろうし、ユニークスキルが使えるようになる理由も、その分かっていない事の一部なんだろう。
「血筋なぁ……血筋でユニークスキルを使えるようになるなら、その一族は婚姻関係については引く手数多になるんですかね?」
「いや逆じゃないか? 秘匿されて、付き合いが極端に制限されるかもしれない」
「どっちも極端っすねぇ。けど、決闘で有用なユニークスキルとなったら、確かにそう言う話にはなりそうっすよね」
「その辺はどうなんです? 先生」
「どちらもあり得る。と言うところだな」
そう言うと先生が再びプロジェクターを操作する。
すると画面に外国同士の間で起きたらしい一つの騒動が出される。
それは五十年ちょっと前に起きた事件のようで、有用なユニークスキルを持つとある一族が国Aによって特定の集落にまとめられていて、外との付き合いが国によって完全に管理されていたらしい。
そんな集落へと国Bの工作員が侵入して、その一族の若い娘を誘拐しようとしたそうな。
その後は血を血で洗うような騒動へと発展して行き……最終的には、積年の恨みもあったとかで、国Bが滅ぶ事態にまで至ったようだ。
なお、その後まもなく国Aもまた周辺諸国からの攻撃によって滅ぼされている。
実に恐ろしい話だ。
ただ、その一族が持っていたユニークスキル自体は別の国に嫁いでいた一族の女性を起点に再び広まっている。
ある意味で引く手数多で、ある意味では制限されていて……国や政治の道具として利用されていた、あるいはしていた、と言うのが正しい表現になりそうか。
そしてもっと言えばだ。
「ちなみに、この一族のユニークスキルは現在完全に解明されて、仮面体のスキルとしてライブラリに登録もされている。デバイスなしで使えるのはその一族だけかもしれないが、おかげで有用性は大きく下がり、今ではその一族の婚姻は自由になっているそうだ」
「あ、解析とか可能なんですね」
「可能だとも。要するに同じ結果を得られるようにするだけの話だからな。ユニークスキルの定義に解析や再現についての文言が入っていない理由でもあるな」
「なるほど」
「もっと言えば、ユニークスキルと仮面体の機能は似やすいし、補強しあう事が良くある。この事実からも、大抵のユニークスキルはデバイスを利用して再現できることが窺えるな」
ユニークスキルのユニーク性はあくまでもデバイスを介さずに使える点であって、決闘者的には仮面体の機能とそこまで変わらないのかもな。
「さて、そんなユニークスキルであるが……もっと直接的に悲劇を招く事もある。そしてこれはお前たち甲判定者が強制的に学園へ入学させられる理由でもある」
「「「?」」」
「……」
「一つの事例を出そう。この事件については四人ともよく知っておくように」
これまでとは明らかに空気が変わった先生が再びプロジェクターを操作する。
そして出されたのは……。
『ユニークスキル『強化』事件』
と言う文章だった。




