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マスカレイド・ナルキッソス  作者: 栗木下
1:入学式編
12/488

12:初めてのマスカレイド授業

「此処がそうか」

「……。来たね。翠川君」

「こんにちは、樽井先生」

 指定された教室へとやってくると、そこには樽井先生が居た。

 室内には様々な機材が用意されているのだが、その中にはダンベルやバーベル、握力計のような分かり易いものから、何に使うのか見当もつかないものまで色々だ。


「おっ、時間前に来ているのは良い心構えだな。翠川」

「こんにちは、麻留田風紀委員長」

 そして、俺がやって来て間もなく、鉄のような金属質の髪の毛を持った少女、麻留田風紀委員長もやってきた。


「こういう場でなら麻留田でいいぞ。一々風紀委員長と付けるのは長いだろ」

「では麻留田さんで。それで麻留田さんはどうしてここに? 俺は一緒に授業を受ける人が居ると聞いていませんし、三年生の麻留田さんに俺が受けるような授業を受ける意味もないと思うんですけど」

「簡単に言えば助手と監視だな。助手はそのままの意味で。監視は……翠川、お前の仮面体についてちょっとした疑惑が出ているからだ」

「なるほど?」

 どうやら麻留田さんは手伝いでやって来てくれたらしい。

 しかし、その詳細を明かさない辺り、やっぱり先入観を持たせるべきでない何かはあるようだ。


「……。では、時間になったので授業を始めます。翠川君」

「はい」

 と、ここで定刻を告げるチャイムが鳴った。

 授業開始だ。


「……。機材はもう準備し終わったから、とりあえずマスカレイドを発動して」

「分かりました」

 俺は授業の為に持ってきたデバイスとフードを着用。

 そしてデバイスを起動して、マスカレイドを発動。

 光が溢れて……。


「発動、完了しました」

 俺は全裸の女性姿になった。


「……。では、計測を開始。翠川君はそこでじっとして……ああ、折角だから、そこの鏡で自分の姿を見てみたら」

「分かりました」

 俺は樽井先生の指示に従って、その場で仁王立ちして、大きな鏡を見る。


 うん、一目見て美しいと断言できる姿だ。

 銀色の髪は腰まで伸びていて、絹糸のように細くてサラサラとしている。

 目の色は鮮やかなターコイズブルーで、宝石のように輝いている。

 顔の造形は一切の化粧をしていないはずなのに人目を惹き、整っている。

 肌は白磁のようであり、黒子もシミも傷も見当たらない。

 胸は大きく、けれどしっかりと張っていて、垂れとは無縁。

 あそこについては……幾ら自分のものであっても、ノーコメントであるべきか、奇麗とだけは言っておくが。

 衣服については、アクセサリの類も含めて、やっぱり一切なし。


 そんなわけで、最初にも言ったが、総評するならばこうなる。


「うん、俺は美しいな。絶世の美女と言う奴だ」


 と言うわけで、素直に、胸を張って、ドヤ顔で俺はそう言い切る。

 そこには一点の恥じらいも臆する心もない。

 ただ、事実をそのままに伝えただけの事だ。


「実際に見た目が良すぎて、そっち方面からだと批判したくても出来ないのが面倒だな、コイツ」

「ふふふ。そうでしょう」

 俺は麻留田さんの言葉に応えつつポーズを取る。

 どの角度、どういう体勢なら、この俺の姿をより美しく見せられるかの検証であり練習だ。


「……。検査終了。あ、翠川君、マスカレイドはそのままで。折角だから維持時間の計測とかもしていくよ」

「分かりました」

「……。麻留田君、何か違和感の類は?」

「無いな」

「……。じゃあやっぱりそう言う事だね」

 と、検査が終わったらしい。

 しかし、そのまま他の事柄の計測もしていくようだ。


「……。そうだね。とりあえず握力測定に反復横跳び。この辺りから始めようか」

「普通の身体検査みたいですね」

「……。実際、普通の身体検査だね。ただ、数字には驚かされると思うよ」

「?」

 俺は指示されたとおりに、室内で出来る簡単な検査をしていく。

 そうして検査の結果が出ると……自分のことながら驚かされた。

 握力のような単純な物なら、中学三年生の頃に計測したもののの二倍から三倍の数字が簡単に出る。

 反復横跳びなら、もはや滑らないように急停止する方が難しく、けれど息切れは一切しない。

 身体能力が強化されているなんてものでは無かった。


「翠川の計測結果はどうですか? 樽井先生」

「……。偏りもあるし、出力が妙なところもある。ただ一番おかしいのは……そうだね。翠川君、少しいいかな?」

「なんでしょうか?」

 と、ここで樽井先生から声がかけられた。

 俺は持ち上げていた100キログラムオーバーのバーベルを定位置に戻すと、樽井先生の言葉に応える。


「……。魔力が無くなる、切れる、そう言うはっきりしたものでなくても、息が切れるとか体が怠いとか、そう言う感覚はある?」

「? そう言うのは一切ないですね。この感じなら、後数時間くらいは余裕だと思います」

「……。やっぱりそうかぁ」

「マジか」

 俺の言葉に樽井先生は納得がいったように頷く。

 逆に麻留田さんは極めて驚いた様子を見せている。

 俺は何かおかしなことを言ったのだろうか?

 いやまあ、反応からして言ったんだろうな。


「……。さて、このままだと何時間かけても、翠川君の魔力限界は探れないだろう。そう言うわけだから、麻留田風紀委員長。翠川君」

「あ、はい」

「なんでしょうか」

「……。模擬決闘……ではないか。でもまあ、一応はそうなるかな。うーん、微妙なライン。翠川君が一方的に殴られ続ける事になるだろうけど。とにかく殴って殴られて」

「「は?」」

 そんな事を考えていたら、今度は樽井先生が妙な事を言いだして、俺も麻留田さんも唖然とさせられた。

 殴られて?

 いやまあ、決闘学園だし、決闘者の仕事の性質を考えたら、殴り殴られは今後ある事なのだろうけど、今この場で?


「……。簡単に説明すると、翠川君の魔力量が膨大過ぎて、このままでは計測が終わりません。そして、他にも確認するべき項目が幾つもあります。これらの課題をまとめて解決するには、スパーリングをするのが一番手っ取り早い。けれどこの場では翠川君以外には私と麻留田君だけで、私は計測と記録に専念しなければいけない。となれば、翠川君と麻留田君で戦うしかない。何、結果がどうあれ、決闘の記録には残らないから、安心するといい」

「ええっ……」

「……」

 理屈は通っている。

 通っているんだが……麻留田さんと俺が殴り合う?

 俺が麻留田さんを殴る?

 女性を、年上とは言え自分よりも小柄な相手を殴る?

 いやそれが、決闘者の仕事と言えばそうなのかもしれないが……今この場で?


「このくらいの広さがあれば大丈夫か。翠川」

「なんでしょうか、麻留田さん」

 俺が混乱している中で、麻留田さんが少し離れた場所から俺へと声をかける。


「心配しなくても、仮面体が受けたダメージはどれだけ酷くても元の体には反映されないから大丈夫だ。死ぬどころか、擦り傷一つ負わねえよ。それと、女は殴れないとか思っているなら、別に今回は殴らなくてもいいぞ。来い、『鋼鉄の巨兵』シュタール」

「……」

 麻留田さんが俺が使っているものによく似たデバイスを顔に付けている。

 そして、どちらかと言えば黒っぽい光が発せられ、光の向こうで麻留田さんの体が膨らむ。


「私が一方的に殴るだけだからな」

「え、ええっ……」

 現れたのは身長3メートル近い、全身に金属製の鎧を身に着けた巨人、いや、ロボ。

 顔はカメラや金属を組み合わせてそれっぽくしたもの。

 両手には、昨日投げつけられた金属製の檻を二つ、鎖で繋げてヌンチャクのように握っている。

 背中からは巨大な砲塔が複数生えて、こちらに砲門を向けている。

 他にも、色々と細かいパーツが各所に付いていて、金属同士がこすれ合う音や、火花を散らしている。


 ついでに、いつの間にか俺と麻留田さんを囲むように光の幕のようなものが張られていて、幕を超えるように移動することは出来なくなっていた。

 どうやら準備完了らしい。


「いやこれ、マスカレイドじゃなくてロボでは!?」

「仮面には違いないから安心しろ!」

 ただそれでも俺は現状を把握しきれずに思わず叫んでいた。

 そして、その叫びをかき消すように麻留田さんが檻の片方を投げつけて来て、それは見事に俺の頭部へとクリーンヒットした。

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― 新着の感想 ―
樽井先……なんとなくだけど仮面体は露出の激しい異形の妖精の姿で能力は色んな邪眼が使えるとかな気がするなあ。なんとなくだけど
[良い点] 謎のパン屋女店主B「ではリコリス体操 第1から第4まで流しでいくぞー」 [一言] 麻留田「君の乳がもげ飛ぶまで僕は殴るのを止めない!」 ナル「なんでだよ!」 麻留田「はっ!今そこに、軍服を…
[一言] 恥じらいとか無くて、裸婦像鑑賞している様な気分になる主人公。 わあ、消費が軽すぎて計測していられないとか前代未聞なのでは? 仮面体、概ね人型なら、ほぼ何でも有りなのではなかろうか。
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