117:体育祭三日目・特殊決闘プロレス・準決勝 スズVSツインミーティア-後編
本日は二話更新となります。
こちらは二話目です。
「『クイックステップ』程度でどうにかなると思っていますの!?」
スズはスキル『クイックステップ』によってツインミーティアの初撃を回避した。
だが、ツインミーティアにとってその程度は想定の範囲内であり、初撃のモーションから繋げるように、ツインミーティアは振り返りながらスズに向かって光刃を振るう。
その刃の速さも初撃の時と同様に非常に素早いものであり、普段のスズならば回避する事は叶わなかっただろう。
「と」
「っ!? 敏捷性のドーピングをいたしましたわね!」
が、スズは難なくそれを回避し、続く攻撃もリング際に詰められないように慎重かつ的確に回避していく。
スズの速さは明らかに回避に特化した仮面体に並ぶものだった。
だが、スズの仮面体の本来の身体能力はそこまでのものでは無い。
その矛盾を解決しているのが、スズの仮面体の機能によって調合され生み出された薬であり、今回のスズは敏捷性、体幹、認識能力と言ったものを大幅に向上させていた。
「ですが! それも永遠ではない! 私に反撃が出来るほどに速くなったわけでもない! 他の調合が来ても混ぜさせるだけの暇を与えなければいいだけの事! このまま攻め続ければ結局先に魔力が尽きるのは、魔力量に劣る貴方の方ですわ! スズ・ミカガミ!!」
しかし、ツインミーティアは慌てない。
攻撃が当たらないだけで、反撃が来ないのであれば、魔力量と言う生来の才能がものを言うとしか言いようのない領域で勝っている自分が勝つと分かっているからだ。
そして、次の調合が行われそうになっても問題ないとも思っていた。
これほど激しく攻めている間に調合をすることは出来ない。
仮に自分に向かって薬をそのまま投げつけようが、床に落として割る事で調合をしようが、スズの仮面体の機能は効果を発揮し始めるまでタイムラグが存在するのだから、そのラグの間に弾いてしまえば、何も起こらないと判断していたからだ。
「はぁ……」
そんなツインミーティアの様子にスズは溜息を吐く。
心底下らない、どうでもいい、考えが足りない、言葉こそないが考え得るあらゆる侮蔑の意図が込められた溜息を、ツインミーティアに聞こえるようにわざとらしく吐き出す。
「下賤の分際で……」
その意図が正しく伝わったのだろう。
激高したツインミーティアはこれまでよりも少しだけ深く踏み込みつつ、切りかかる。
対するスズの行動は、複数のフラスコを指で挟んで手の内に収めた右手をツインミーティアに向けると言うものだった。
「『ハンドミキサー』」
「!?」
スズの言葉と共に右手の内にあるフラスコが粉砕される。
粉砕されたフラスコがかき混ぜられていく。
まるでスズの手の内に破壊と撹拌を行うためのミキサーが生じたかのように、あっという間に混合されていく。
そうして混合された液体から光と熱が発せられて……。
爆発する。
「がはっ!? な、なんですの、今のスキルは……!?」
「スキル『ハンドミキサー』。手を保護するように障壁を発生させた上で、手の内にあるものを激しく撹拌するスキルだよ。ライブラリに上げられたのは数日前。撹拌に伴う破壊の作用は私のフラスコぐらいしか壊せないくらいに脆弱だけれど、調合の手間を省けるのは便利だよね。まるで私の為に用意されたスキルだと思うくらいには」
爆発の衝撃によってツインミーティアはリングの四隅に立つポールに叩きつけられる。
吹き飛ばしを優先したものであったためか、ダメージは殆どない。
だが、叩きつけられた衝撃よりも、何をされたのか分からないと言う未知の恐怖によって、ツインミーティアの動きは止まった。
そして、ツインミーティアの動きが止まった事によって生まれた時間をスズが有効活用しないはずがなかった。
「そうですの。ですが、手の内で調合を進められるようになった程度で私……」
ツインミーティアが攻撃の為に一歩踏み込む。
「をっ!?」
その瞬間、ツインミーティアの体は空中で一回転半の前方宙返りをするほどに激しく回って、リングに叩きつけられた。
「何が起き……っ!?」
そして立てない。
リングに手足を立てようとしても滑ってしまい、剣を握る事も出来ず、どうしてか身に着けているドレスの布も柔らかくなっていく。
「ただの油だよ。無色透明無臭で、触れているものの摩擦抵抗を元の1%も無いくらいに減らすだけの、私が調合した油」
「油……ですって!?」
ツインミーティアが立てなくなった原因は油。
ただし、スズの仮面体の機能によって調合され、生み出された特製の油である。
そう、スズは吹き飛ばされたツインミーティアに『ハンドミキサー』の説明をしつつ、既に次の調合を終えて、リング上に油をばら撒いていたのである。
「そう、油。ちなみに可燃性についても極めて高いの。『ティンダー』」
「!?」
スキル『ティンダー』、本当に小さな火を起こすだけの、本来ならば決闘に用いられるようなスキルではない。
だが、そんな火でも可燃性に優れた油に触れたのならば。
「ーーーーー~~~~~!!?」
一瞬にして燃え上がり、高温の炎を発するようになる。
正に今、全身が燃え上がって、文字通りの火だるまと化しているツインミーティアのように。
「ーーーーー~~~~~!!?」
「念のためにっと」
もはや勝負は付いたかのように見えた。
火だるまとなったツインミーティアはその熱と痛みで、その場で転げ回り、叫び声を上げるだけになっているのだから。
だがスズは最後まで油断をする気はないと言わんばかりに、何かを調合して飲み干す。
「ーーーーー~~~~~……ーーーーー!!」
そしてスズの判断は正しかった。
痛みに悶え苦しんでいるツインミーティアは、正に破れかぶれと言った様子でスズに向かって切りかかって来たのだから。
ツインミーティアを動けないようにしていた油は既に燃えていた。
だから、剣を握る事も、リングを蹴る事も出来た。
スズに切りかかるツインミーティアの姿は正に大気圏へ突入し、空気の抵抗によって燃え尽きようとしている流星のようであり、その執念が為せる技か、全身火だるまの状態であってもなお、二つの光刃は正確にスズの首を捉えていた。
「!?」
だが、飛んだのはスズの首ではなく、二つの光刃の切っ先であった。
切り付けられたはずのスズの首には、傷一つ痣一つ付いていなかった。
「硬化薬。ナルちゃんほどじゃないけど、デバイス性能も合わせれば、貴方の貧弱な刃くらいなら折れる」
「そん……な……」
「そして、ナルちゃんと違って私の拳も硬く……なるっ!」
「っ!?」
そして反撃として繰り出されたスズの拳はツインミーティアのドレスも腹も突き破り、ツインミーティアの背から拳が突き出る。
その様は誰の目から見ても致命傷。
そんな周囲の認識が正しいことを示すように、ツインミーティアは仮面体を維持できなくなり、姿を消した。
『そこまでだ! 勝者は赤コーナー、戌亥寮、スズ・ミカガミ!』
「「「ーーーーー~~~~~!!?」」」
「よし、決勝進出」
スズの勝利が告げられる。
そしてスズは一回戦の時と同じように、自らマスカレイドを解除して、控室へと転移した。
仮面に隠れて見えないはずのその顔からは、緊張と恍惚の気配が色濃く漂っていた。
スズ「私の調合で作った今回の油は可燃性は高いけれど、高過ぎて相手が倒れる前に火が止んでしまいます。そうでなくとも、一般的な仮面体は痛みに強いので、耐えようと思えば反撃を試みる事くらいは出来ます。なので、反撃に備えておく必要があったわけですね(硬化薬グビー)。はい、狙い通りなので腹パンします。金輪際ナル君に近寄るんじゃない! この根性なしのクソ女が!!(貫通)」
と言う感じの思考が行われていたとか居ないとか。




