116:体育祭三日目・特殊決闘プロレス・準決勝 スズVSツインミーティア-前編
本日は二話更新となります。
こちらは一話目です。
『観客の皆様、お待たせいたしました! 只今より特殊決闘プロレス一年生の部、準決勝第二試合を始めさせていただきます!!』
「「「ーーーーー~~~~~!!」」」
ナルが別の会場で決闘しているのとほぼ同時刻。
準決勝のもう一つの試合が始まろうとしていた。
『それでは早速選手の紹介と入場と参りましょう! 青コーナー! 一回戦では二振りの流星を以って、美しき舞を伴いつつ相手を圧倒してみせました! 戌亥寮一年、ツインミーティア!!』
「「「ーーーーー~~~~~!!」」」
「おーっほっほっほっほっ!」
司会の紹介に合わせて綿櫛が姿を現し、高笑いを上げながら、舞台へと向かっていく。
その顔に着けられているのは、ルビーやサファイア、ダイヤモンドと言った本物の宝石と金銀の装飾によって彩られた、高級感を漂わせる以上に派手と言う印象を見る者に与える仮面型のデバイス。
綿櫛は舞台の上に設置されているリングの脇に立つと、マスカレイドを発動していないにもかかわらず、一足飛びでリングを囲うロープを飛び越えてリングの中に立つ。
『対するは赤コーナー! 一回戦では脅威の回避能力と不可思議な技術によって、相手に何が起きたのかを理解させぬままに倒してみせました! 戌亥寮一年、スズ・ミカガミ!!』
「「「ーーーーー~~~~~!!」」」
「……」
続けて『シルクラウド・クラウン』を身に着けたスズが姿を現し、落ち着いた足取りで舞台へと近づき、普通にロープを軽く押し退けてリングの上に立つ。
『それでは両者並び立ちましたので……』
「少々お待ちになってもらってもよろしいかしら? 私、スズ・ミカガミに対しては色々と申し上げたいことがありますの」
『えーと……』
決闘する人間が揃ったことで、司会の生徒は決闘を始めようとする。
が、綿櫛はそれを止めると、手で自身の口を隠しながら、スズへと語り掛ける。
「スズさん。貴方は恥ずかしくないのかしら」
「何がかな?」
「老婆のような髪色に、パッとしない容姿、成績優秀とは言い難い座学に、学園の生徒としては少ない魔力量、拙い実家や支援者との伝手。どれもこれも劣っているとしか言いようがないのに、幼馴染と言うだけで、あの方の隣に妻のような風体で立って、その行動を縛り付けるように口やかましく囀ると言う在り方がです」
「「「……」」」
綿櫛の口調それ自体は穏やかなものである。
だが、その内容は侮蔑以外の何物でもなかった。
それも容姿も実力も家も性格も否定し、蔑むような言葉である。
そんな言葉をこのような場で恥ずかしげもなく口にすると言う、その在り方に、司会と観客たちは何を考えているのだと思わずにはいられないほどだった。
しかし同時に恐怖も覚えた。
観客の全員がツインミーティアの正体が綿櫛であると把握しているわけではない。
けれども、この場でそんな言葉を口に出来て、しかもそれを司会も観客に混じる教師たちも止められないと言う事実から、綿櫛自身あるいは綿櫛の家の力を察する事が出来てしまったからである。
「ふうん。言いたいことはそれだけ? 根性なしのツインミーティアちゃん」
「!?」
「「「……!?」」」
だからこそ司会と観客たちはざわついた。
それほどの言葉を言った綿櫛を、スズは何でもないように根性なしと言ってのけたのだから。
「わ、私を、私が根性なしですって……!? いったい何を根拠に!!」
「そこまで私が気に入らないのに、本気の決闘を持ち掛けないからだけど? 何だったら、今この場で決闘を売ればいい。なのに、最初に出てくるのが根性なしと言われたことを気にする言葉。これが根性なしで無ければなんだって言うの?」
「「「……」」」
スズの堂々とした言葉に会場は凍り付く。
そして、そんな会場の空気とは対照的に、綿櫛の体は羞恥と怒りで震える。
「折角だから、私からも言わせてもらうね。私はツインミーティア、貴方が大嫌い。貴方は自分で作る事をせず、出来上がっているものを奪い取り、自分だけを飾り立てる事にしか興味が無いお嬢様。そんな貴方をナル君の隣に立たせる事は私が許さない。あ、でも、もう先日の時点でナル君自身から拒否されていたんだっけ。ツインミーティアは」
「!!」
スズのヴェール越しでも分かる嘲笑と侮蔑の言葉に対して、仮面越しでも分かるほどに綿櫛は怒気に満ちている。
その気配の満ち方は、もはやマスカレイドを発動せずに取っ組み合いが始まるのではないかと観客たちが不安を覚えるほどだった。
「わ、私が誰だか分かっていてものを申していますの!? 貴方の家などどうとでも出来ますのよ!?」
「本当に根性なしだね。此処まで言われて出てくるのがお家自慢だなんて。はぁ……私から貴方に決闘を挑むわけにいかないのが残念で仕方がないね」
「~~~~~!?」
だがそれでも、どちらの口も止まらない。
綿櫛がもはや脅迫とも取れる言葉を吐けば、スズは言外に本当の決闘の成立を女神が認めないほどに格下だと返す。
ただ一つ確かなのは、言葉でのやり取りの勝者は間違いなくスズである事。
それは怒髪天を衝きそうなほどに怒る綿櫛と、未だに落ち着き払っているスズ、二人の様子を見れば明らかだった。
『いい加減にしろお前ら。自分の主張が正しいと言うのなら、決闘で勝って示せ』
司会の声が変わる。
それまで担当していた生徒のものから、風紀委員長である麻留田のものへと。
「私は……」
『黙れ。これ以上進行をごたつかせるなら風紀委員長の権限を以って、貴様を不戦敗にするぞ、ツインミーティア』
「っ!?」
『スズ・ミカガミもだ。お前の口の達者さは理解した。だが今は体育祭の最中だ。お前ら二人の個人的事情に基づく突発的な口喧嘩に割いている時間などない。これ以上余計な口は開かずに、決闘を始めろ』
「……」
麻留田の言葉に、綿櫛は怒りに震えながらも、渋々と言った様子で定位置について、自身のデバイスに手を当てる。
対するスズは落ち着いた雰囲気のまま、同じように定位置につき、デバイスに手を当てる。
『よろしい。では行くぞ。3……2……1……決闘開始!』
「マスカレイド発動! 双星煌きなさい! ツインミーティアァァッ!!」
「マスカレイド発動。黒を映せ、スズ・ミカガミ」
ゴングが打ち鳴らされる。
二人がマスカレイドを発動する。
先にマスカレイドを終えたのは、デバイス性能の差もあって、やはりスズだった。
だが、その発動の様子は一回戦の時とは大きく異なり、黒い……墨のような液体で出来た円盤を通り抜けると言うもの。
しかし、現れたスズの仮面体は、一回戦の時と変わりないように見えた。
そして、1秒ほど遅れてツインミーティアのマスカレイドも完了する。
仮面から発せられた二つの光球が流星のように、螺旋を描きながら、全身の上を駆け巡って、その姿を変化させていく。
やがて現れたのは石膏製の仮面によって顔を完全に隠し、裾の広がったドレスを着用した仮面体。
最後に二つの光球は腰に止まり、変形し、光り輝く細い刃を持った二本の剣となった。
そうしてお互いのマスカレイドの発動が完了した直後。
「殺して差し上げますわ!」
ツインミーティアは抜刀した勢いそのままにスズへと切りかかる。
二本の光刃が挟み込むようにスズの首へと向かっていく。
刃は速く、刃自身が輝いている事もあって、光の軌跡を軌道上に残しているが、その事実を観客たちが認識するよりも早く、スズの首へと届こうとしていた。
「『クイックステップ』。やれるものならやってみせてよ。無理だけど」
そして、スズはスキル『クイックステップ』によってそれを難なく避けると、バッグから取り出したフラスコの中身を飲み干した。




