114:体育祭三日目・休息時間-1
「さて……」
ミノタックルスとの決闘を終えた俺は、マスカレイドを発動したままの状態で控室まで戻ってきた。
そしてまずはスマホでマスッターを調べて、これからの予定を確認。
どうやら俺が今居るこの会場は特殊決闘プロレスのメイン会場であるらしく、決勝までここで開かれ続けるらしい。
よって、俺は勝っている限り、この会場から移動する必要はないようだ。
「テレビを点けておけば、二年生と三年生の特殊決闘プロレスも流れるようだし、これでだいたいの時間は計れるか」
予定を見る限りでは、午前中にもうひと試合、午後に決勝と言う予定に一年生の部はなっている。
二年生の部、三年生の部は参加人数が違うので、もう少し日程が詰まっていそうだ。
まあ、いずれにしても、俺の次の決闘までそれなりに時間が空くのは確かだし、此処は控室なのだから関係者以外が来ることも無い、なので……うん、大丈夫だな。
「キャストオフ!」
と言うわけで、人目に触れない事を確認した上で、俺は自分が着ている服を爆散させた。
「ふぅ……気持ちいいな。やっぱり、裸こそが俺が本来あるべき姿だ。この状態の方が全身に力が漲り、心身ともに充実している事を感じずにはいられない。うん、俺の体は今日も美しいな」
そして、控室備え付けの鏡の前でポージング。
全身の肌、筋肉、骨の状態を感じつつ、ゆっくりと全身を動かして、自分の状態を正しく理解していく。
そう、これは必要な事なのだ。
普段から夜遅くに自室で同じような事はやっているのだけれど、毎日同じ場所で同じ事をやるのは確認にはちょうどいいが、マンネリと言うものはどうしても感じてしまう。
マンネリがあると、気を付けていても確認がおざなりになってしまう部分が生じる。
それを解消できるこういうタイミングは大切にしなくてはならない。
だって、俺の美しさを維持出来ている事を確かめるのは、俺の決闘の能力に陰りが無いことを確かめるためにも必要なのだから。
胸部と股間を隠すスキル『P・Un白光』による謎の白い光が若干邪魔ではあるけれど……まあ、これについては万が一の事故防止だから、仕方がないか。
コンコンッ!
「ん? 誰だ?」
と、ここで唐突にノックの音がしたので、俺は誰が来たのかと問いかける。
「イチです。自身の借り物競争は終わりましたので、ナルさんの応援をするために来ました」
「そうか。入って来ても大丈夫だぞ」
「はい。それ……では?」
どうやらイチがやって来たらしい。
なので俺はイチを部屋の中に招き入れる。
そして部屋に入って来たイチは俺の姿を目視し、数秒停止し……。
「何をやっているんですかナルさん!?」
それから直ぐに控室の中へ入り、扉を閉め、施錠し、窓や監視カメラの類を確認した上で、何処からか取り出した布を手にしつつ俺に詰め寄って来た。
どうやら布については俺の姿を隠すためのものであるらしく、俺の胸に押し付けてきている。
「何って。自分の仮面体の状態を確認していただけだが?」
「それでどうして裸になるんですか!?」
「いや、裸にならないと無理だろう。俺の仮面体はこっちが本来の姿なんだし」
「どうして控室の扉を施錠していないんですか!?」
「身内以外が来た場合には服を出すなり、マスカレイドを解除するなりしていたから大丈夫だ」
「イチが一人ではない場合もあったでしょう!?」
「それならイチはノックの時点でそう答えるじゃないか」
「次の決闘の準備!?」
「これからだな。魔力量については、この状態でも勝手に回復していくから大丈夫大丈夫。マスカレイドを解除すれば、もっと早まるし」
「ああ言えばこう言う!?」
「俺としては当たり前の事しか言っていないつもりなんだけどなぁ」
どうやらイチとしては今の俺の状態を問題だと判断しているらしい。
うーんでも、此処は控室なんだから、身内しか来ないはずなんだけどなぁ。
「はっ! ナルさん! 借り物競争でナルさんが指定されることもあるので、控室は身内以外も来る可能性がある場所です。そこで今のような恰好をしていたら、風紀委員を呼ばれてしまいます。なので、マスカレイドを解除してください。お願いします」
「ん? そうなのか? じゃあ、仕方がないか」
どうやら借り物競争で身内以外が来る可能性があるらしい。
じゃあ、誰が来てもいいように備えておいた方がいいか。
と言うわけで、俺はマスカレイドを解除する。
「ほっ……」
「しかし、借り物競争でピンポイントで俺が指定される事ってあるのか?」
「あり得ます。借り物競争のお題は本当に多種多様なようですから。簡単な物ならば、イチの得たお題のように『虎卯寮の女子生徒』くらいに緩いですが、『自分の好きな人』ですとか、『戌亥寮の食堂にあるお皿』ですとか、『ショッピングモールの○○と言うお店にある○○』のようなものまでありますから。そう考えれば、『特殊決闘プロレスに参加している、参加していた戌亥寮の生徒』くらいまでは普通にあり得ます」
「なるほどなぁ……」
どうやら借り物競争のお題は俺が思っていたよりもカオスと言うか、対策不可能なレベルで多種多様であるらしい。
と言うかだ。
「そうなると、借り物競争は半分くらいバクチか」
「七割くらいバクチですね。何処に何があるかや、そこまでのルート選び、体の動かし方は事前練習で対処できる範囲ですが、それ以上にお題のランダム性が高いので。『自分の好きな人』のような特定個人を指定するお題だと、適当な誰かを選んで二次元コードを読むわけにもいきませんし」
「それはそうだよな」
借り物競争の順位はほぼ運頼みになりそうだ。
各寮、校舎、ショッピングモールの特定の場所にあるものなら、距離があるだけだが、人がお題になってしまうと、それを満たせる人が何処に居るか次第なので、更に運次第になってしまう。
最速なら一分と必要とせずにゴールできるだろうが……場合によっては一時間以上かかる可能性もありそうだ。
ちなみに、競技開始から五分経過してもお題のものが見つからない場合には、お題の再抽選が出来ると言う救済措置は一応あるらしい。
「ところでナルさん。ナルさんの次の試合は?」
「ん? 俺の次の試合か? ああ、もう決まったみたいだな。子牛寮のチョウホウだそうだ」
「チョウホウ……」
俺の言葉を聞いてイチがスマホを弄る。
どうやら事前に情報収集をしておいてくれたらしい。
さて、その情報を聞くべきか聞かないべきか……いや、聞く以外の選択肢はないな。
イチが折角調べてくれたものであるし、決闘は全力を尽くすべきもの。
情報を知る機会があるのなら、活かすべきだ。
「ナルさん」
「ああ、聞く」
「はい」
なので俺はイチから次の決闘相手であるチョウホウについて話を聞く、
で、聞いた話を基にスキルを弄るつもりはあったのだが……そっちは良いものが見つからなかったので、変更なし。
ちなみに、スズの方は無事に勝って、次は綿櫛さんが相手であるらしい。
「さて、それじゃあ行ってくるか」
「頑張ってください。ナルさん」
やがて決闘の時間となり、俺は控室から舞台へと向かった。
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