11:昼食時の会話
「はー、疲れた。いや、理解は出来るけども」
「流石は国立決闘学園と言うべきか、授業は分かり易いんだよな」
「それでもワイたちは疲れている。それは何故か……」
「馬鹿だからっすね! とりあえず昼飯食って、午後に備えるっす!」
俺たち四人は無事に午前中の授業を乗り切った。
授業の難易度は……たぶん適切なんだろう。
先生たちの説明も分かり易かったし、後で少しだけ出た宿題をこなしていけば、順調にステップアップできそうな感じはある。
で、頭を使いまくった午前と、この後の午後の授業の間には、当然ながら昼食の時間がある。
ここは重要な栄養補給の時間だ。
昼食は基本的に俺たちが今居る本校舎にある食堂でなら格安で食べる事が出来る。
また、購買で売られているおにぎりやパンを買って食べることも出来るし、寮で朝の内に自分で作ったお弁当を持ち込んで食べる生徒も居るようだ。
まあ、基本的に俺は食堂になるだろうな。
と言うわけで、俺たち四人は食堂で適当にメニューを選んで購入。
四人揃って席に着く。
「ナル君。隣いいかな」
「スズか。構わないぞ」
「では失礼します」
「スズの正面はいただきますネー」
そしてここでスズ、イチ、マリーの三人も合流。
スズが俺の隣に座る。
なお、食堂の席には現状ではだいぶ余裕があるので、スズの行動は敢えてという事になる。
「女子生徒!? しかも明らかに親しい!?」
「え、翠川、お前そっち側なのか!?」
「うわー、一気に華やかになったっす」
「ん、ああ。紹介しておくか」
俺は徳徒たちにスズたちの事を紹介する。
また、甲判定者という事で既に知っている可能性は高いが、スズたちに対しても徳徒たちの事は紹介する。
そしてその結果として。
「くっ、幼馴染の上に自分を追いかけて学園だなんて、それどう考えてもリア充爆発しろとか言うべき案件じゃねえか……」
「コケーコココ、コケコー(この裏切り者ー!)」
「遠坂が壊れて鶏語しか話せなくなったっす!?」
「すまない。俺のイケメン力は遠坂の言語野を破壊してしまったようだ……」
「リア充爆発しろ……でもそれって、私とナル君がカップルに見られているってことだよね……キャッ」
「……。イチはスルーします」
「~~~~~~~!(マリーは腹を抱えて笑っている)」
場がカオスな事になってしまった。
いやでも、俺の顔と体が良い事は事実だから、そこを否定するわけにはいかないからなぁ。
なお、言うまでもなく俺たち男子四人側のノリは分かっててやっているし、完全にギャグのそれである。
だから、食べ物を零したり、周囲の耳目を集めるほどの騒ぎにはしていない。
「あ、そうだ。ナル君」
とまあ、そんな事がありつつも、無事に昼食は完食。
俺たちは水を飲みながら、もう少しだけ話をする事にする。
「どうした?」
「午後の授業はマスカレイドの授業で、どうにも今回は甲判定者も乙判定者も一緒に受けるみたいなんだけど、授業中近くに行っていい?」
「あー、その事か……」
話題は午後の授業について。
国立決闘学園一年生の午後の授業は、基本的にマスカレイド関係の授業になるらしい。
で、今日はグラウンドに一年生全員が集合して何かをやるそうなのだが……。
「悪い。マスカレイドの授業なんだが、俺は暫くの間は別で授業を受けることになりそうなんだ」
「えっ……」
スズには悪いが、俺は例外である。
別の場所に来るように指定されてしまっている。
「ナルさんのマスカレイドがアレだからですか」
「アレだからだな」
「丸出しだったもんな。翠川」
「一糸纏ってませんでしたネ」
「まあ、あの状態のまま外には出れないよなぁ」
「間近で見ていたウチらは腰を抜かすかと思ったぐらいっすからねぇ」
「ナル君は別授業……」
理由は言うまでもない。
俺の仮面体が全裸だからだ。
アレをまた公衆の面前に晒してしまったら、今度こそ手が後ろに回されることになる。
流石にそれは勘弁してもらいたい。
「ナル。仮面体の改造は結構大変な事だと聞いていますガ、予習などは大丈夫ですカ?」
「それが学園からの指示には予習の類をしないで来いと書かれていたんだよな。この通りだ」
俺はマリーたちにスマホの画面に映した『マスッター』を見せる。
そこには何処で授業を行うかや、その際の注意事項が書かれているのだが、赤文字で大きく予習をせずに来いと書いてある。
「本当だ。なんでだ?」
「余計な先入観を持たせないため、でしょうか」
「となると、この話題はここらで打ち切った方がいいかもしれないっすね。学園側の意図を邪魔しないためにも」
「かもな。ワイたちの言葉のせいで何かあったら、誰も得しない」
「ナル君は別授業……」
学園側の意図としては、曲家が言った通りだろうな。
たぶん、余計な先入観を俺に持たせたくないんだろう。
ただ、現時点でも既に何かがあるんだろうなと言う先入観は持ってしまっているので、それが悪影響を出さなければいいのだが……うん、考えても仕方がないな。
本当に厳密に先入観なしで何かをやらせたかったのなら、昨日のお披露目会からそのまま、やらせたかった何かへと移行しているはずだし。
「……。おい、翠川。お前の彼女は放置しておいていいのか?」
「あー、慰めようと思っても慰められる状況じゃないからな……。流石に放置するしかない」
徳徒が俺に耳打ちをしてくる。
しかし、助け船を出そうと思っても助けられないのが現状である。
下手に約束をすると、それが守れなかった時が怖いしな。
「いやそこは何かしてやれよ、彼氏」
「そうっすよ。そうっすよー」
「え、あー……そうだなぁ……」
後、否定すると怖いので口には出さないのだが……実を言えば、生まれてからこれまで、俺はスズに愛の告白はした事が無いし、スズからも告白されたことは無い。
幼馴染で、ずっとこうして一緒に居るから、周囲からも俺自身も半ばそう言う風に扱ってはいるのだけど、スズが本心ではどう思っているかは、実のところ不明である。
いやまあ、俺を追いかけるためだけに国立決闘学園に入学したと言っているくらいだし、普段の態度がそうなのだから、俺の勘違いではないと思うのだけど。
とりあえず今はスズに何か言うか。
「スズ」
「なに、ナル君?」
「俺のマスカレイドが人前に出ても問題なくなったら、その時は一緒に活動しよう。それでいいか?」
「うん、分かったよ。ナル君」
と言うわけで、期限を決めない約束をする。
我ながらどうかと思うが、これが落としどころだろう。
「さて、俺の授業場所はちょっと離れたところだから、先に行くな。じゃ、徳徒たちも午後の授業頑張ってな」
「おう。そっちもな」
「翠川もな」
「みんな頑張るっすよー」
「頑張ってください」
「上手くいくことを願ってますネ」
「ナル君。待ってるから!」
そうして俺はスズたちから離れると、食器を返却口へと戻して、午後の授業を受ける場所へと移動した。
さて、俺はマスカレイドの授業で何をする事になるのだろうか?