104:体育祭二日目・投擲・射撃・射的
「さて、まずはイチの所だな」
「はい、応援お願いいたします」
体育祭二日目である。
今日の俺は基本的に単独行動で、イチたちも同様なのだが、二日目が始まって直ぐに一年生の部の射的があるので、今の俺はイチと一緒に射的の会場に向かっている。
「ああ、任せておけ。と言っても、競技の性質上、騒がしくするわけにはいかないだろうけどな」
「それもそうですね」
と言うわけで、何事もなく射的の会場に到着した。
さて、射的競技のルールだが。
ブースと呼ばれる射撃スペースから、仮面体の機能またはスキルによる攻撃を放ち、50メートルほど離れた場所にある直径50センチ程度の的へと命中させる競技である。
的に命中させた際に、命中位置に応じて得られる得点が違い、的の中心に近いほど高得点。
10回の攻撃を行って、その合計がそのまま記録となる。
なお、的の得点範囲を複数跨って命中させるような攻撃……飛ぶ斬撃だとか、砲弾だとか、的目前で爆発する火球だとか……を用いた場合には、命中した範囲の中で最も低い点数が、その攻撃での記録として適用されるので、用いる攻撃は矢や銃弾のような相応に細いものである事が望ましい。
との事だった。
要するに、遠くまで届く攻撃を、出来る限り正確かつ精密に行う事が求められる競技という事である。
『それでは只今より射的競技、一年生の部を始めさせていただきます。参加者の方は名前を呼ばれた順にブースの中へ入って……』
「では行ってきます」
「ああ」
イチ……ファスの名前が呼ばれ、自分の射撃スペースへと入っていく。
同様に名前を呼ばれて、他の生徒たちも射撃スペースに入る。
どうやら、一度に6人ほどの生徒が競技を行うようだ。
そして、開始の合図がアナウンスされて、静かに射的競技は始まった。
「『ハイデクスタリティ』」
開始の合図とともにファスが使用したのはスキル『ハイデクスタリティ』。
スキル『ハイアジリティ』やスキル『ハイストレングス』などと同様に、仮面体の身体能力を一時的に上昇させるスキルの一つだ。
強化対象は器用度……と言うと分かりづらいが、要するに神経伝達のスピードや精度を上昇させて、術者が思い描いた通りに体を動かせるようになるらしい。
それはつまり、狙いを付ける時に、より自分が思った通りに狙えるという事でもある。
その性質上、普段とは体を扱う感覚が変わってしまうので、一般的には有用な場面でも、人によっては使わない選択肢も存在しているスキルなのだが……。
「……」
「おおっ、ど真ん中」
ファスには問題ないらしい。
両手で持ち構えたクロスボウから放たれた矢は、的のど真ん中を撃ち抜いている。
ちなみにだが、射撃関係の競技で用いられる的は魔力で作られたものであるらしく、攻撃が命中した際には記録を取った上で自動的に再生するようになっているらしい。
「……」
しかし……静かだ。
選手の集中を乱してはいけないという事で観客たちも基本的に静かで、選手たちもマナーとして無駄口を発さないのが基本となっているらしく、静かだ。
なので、スキルを発動するための発生と、攻撃に伴う各種音だけが響く、非常に静かな環境になっている。
人によっては地味と思うかもしれないな、これ。
「……」
あ、中心から少しだけズレて、その分だけ点が下がったな。
となると、ファスには悪いが、一位を取るのは厳しそうだ。
と言うのもだ。
「「『ズームアイ』『ハイデクスタリティ』『ボディスタビライザー』『カームロード』」」
この競技には縁紅……ゴールドバレットと吉備津……サンコールの二人も参加しているからだ。
ゴールドバレットは自前のリボルバーを片手で構えて。
サンコールは自前のマスケット銃を両手で構えている。
二人は魔力量甲判定者という事もあって、ファスも使っている『ハイデクスタリティ』以外のスキルも使って競技を進めているらしい。
そして、二人が放った弾丸は、どちらも自身の狙う的のど真ん中を正確に射貫いていて、それは今までの全ての弾丸がそうだった。
となれば、必然的にファスの順位は二人より下にならざるを得ないだろう。
とは言え、これについては仕方が無いことでもある。
仮面体の操作精度についてはファスも負けてはいないのだろうが、他のスキルの影響があまりにも大きい。
えーと、スズが昨日の内に準備しておいてくれた早見表によればだ。
スキル『ズームアイ』は簡単に言えば望遠機能であり、視野角を狭める代わりに遠くのものがはっきりと見えるようになる。
スキル『ハイデクスタリティ』と組み合わせる事で、正確な狙撃を可能とするだろう。
スキル『ボディスタビライザー』は簡単に言えば手振れ補正で、呼吸や筋肉のブレなどに伴う手の震えを軽減する。
先述二つのスキルと合わせることで、狙撃の正確さはさらに増すことになる。
スキル『カームロード』は銃口から的の間に無風の領域を作り出すスキルであり、放たれた弾丸の軌道がブレるような外的要因を排除する事が出来る。
もちろん、魔力によって作られた弾丸はただの風の影響など殆ど受けないのだが、今回は他の選手の行動によって発せられた風対策として用いているのだろう。
とまあ、こんな具合に、ゴールドバレットとサンコールは自身の豊富な魔力量を生かしたスキルによる底上げと、十分な基礎を組み合わせる事によって、満点を量産している。
これに乙判定者が勝つならば、狙撃に特化した仮面体で無ければ厳しいだろう。
「……ふぅ」
「ちっ、同点か」
「みたいだね。子牛寮としてはこれで良いんだろうけど、僕個人としてはちょっと悔しいと言うか、煮え切らないね」
「そりゃあ、こっちの台詞だよ。ワンツーフィニッシュと同率一位じゃ点は同じでも別物だ」
と、そんな事を思っている間に競技終了。
イチはそれなりの成績で終わった。
で、縁紅と吉備津は二人揃ってパーフェクトを出してしまい、同率一位。
後で何かしらの競技が行われて順位が付くかもしれないが、少なくともこの場ではどちらも一位だ。
「イチ、ナイスシュートだった」
「はい。やれるだけの事はやらせていただきました。ではナルさん」
「ああ。俺は他の所に行ってくる。イチはこのままここで競技終了までは待機なんだよな?」
「はい、なので気にせず行ってきてください」
「分かった」
俺はイチに労いの声をかける。
それから、射的の会場を離れて、次の会場へと向かった。




