101:体育祭一日目・昼休み
「モグモグ。お祭りの時の鉄板はやっぱり美味しいな」
「モグモグ。うん、そうだね。ナル君」
「モグモグ。美味しいですよね、焼きそば」
「モグモグ。食べ過ぎには要注意ですけどネ」
お昼休み。
ぶっちゃけ俺などは観戦しかしていないのだが、それでも腹は空くと言う事で、俺たちは昼食を取っている。
メニューは普段からショッピングモール内のフードコートでお出しされている焼きそばの他、タコ焼きやお好み焼きと言った、祭っぽいものをチョイスした。
味は……なんとなくだが、普段より味付けが濃いように思えるな。
体育祭仕様と言う事だろうか。
「翠川様。お隣よろしいでしょうか?」
「護国さん。うん、どうぞ」
俺たちが食事をしているのは、屋台近くに準備された急造の食事場所である。
賑わいはそこそこと言うところで、よほど仲が悪い相手ならともかく、そうでないなら相席を受け入れるのは普通だろう。
「では、失礼させていただきます」
「はぁ、助かった。座る場所が無いのはまだしも、物を置く場所が無いのはな」
「ボクたちが言える事じゃないけど、みんな食堂を使わないなんてノリがいいよね」
「体育祭は~交流もメインだよ~。だから~チラホラ~と、普段ない組み合わせも居るね~」
と言うわけで、俺の隣に護国さん。
その護国さんを囲うように大漁さん、瓶井さん、羊歌さんも席に着いて、昼食を食べ始める。
内容としては……ワッフルやクレープが中心のようだ。
こう、何と言うか、フワフワとしていると言うか、ファンシーしていると言うか、そんな感じのメニューが並んでいる。
「スズ」
「別に気にしなくて大丈夫だよ、ナル君。私たちは私たちで食べたいものを食べているし」
「ですネー。食べたかったラ、マリーは自分で買いに行きまス」
「はい。イチも同様です。好きなものを食べているだけです」
「ならいいんだが」
一瞬、男女差と言うか、俺の希望を優先してスズたちに気遣いをさせてしまったかと思ったが、そうではないらしい。
なら良かった。
「や、お揃いのようだね」
「うーっす。翠川」
「どうもっすー」
「よ、ワイたちも近くの席いいか?」
「いいぞー。別に誰の席でもない訳だしな」
と、ここで吉備津、徳徒、曲家、遠坂の四人がやって来て、いつの間にか空いていたらしい俺たちの背後の席に腰掛ける。
うーん、期せずして今年の甲判定者十人中九人まで集まってしまったな。
これで縁紅の奴まで来たら笑うんだが……。
「は? なんだこの集まりは? 甲判定者ミーティングの連絡は……来てないな」
「ぶふぅ」
「揃ったねぇ。ナル君」
「縁紅。この集まりは完全な偶然です。ええ、偶然なんです」
「偶然なぁ……。まあ、吉備津たちについてはそうか」
縁紅が来てしまった。
なお、その手にはおにぎりとジュースがそれぞれに握られていたが、今はスマホを取り出すためにジュースを机の上に置いている。
後、スズ、地味に俺の心を読まないで欲しい。
そして護国さんはいったい何故そこまで頑なな感じで否定をするのだろうか?
「しかし、流石に今年の甲判定者が一堂に会していると人目を惹くみたいだね」
「お、本当だな。いつの間にかテレビカメラが寄って来てら」
「何もないんすけどねぇ」
「まあ、テレビにそれは分からないだろうし?」
吉備津たちが言う方を見てみれば、確かにテレビカメラがやって来ていた。
遠巻きにして、こちらのことを撮影している。
しかし、撮影に来てもらって申し訳ないが、本当にただの偶然で集まっただけである。
なので会話内容も、何処の屋台の味がどうとか、午前中の競技はどうだったとか、当たり障りが無いものばかりである。
「何をやっているんだお前らは」
「あ、麻留田さん。えーと、俺たちは偶然集まっただけですね」
「偶然なぁ……まあ、そう言う事もあるか。しかし、偶然とは言え、こうして集まって一緒に食事が出来るだなんて、仲が良さそうで羨ましい限りだ」
と、此処で更に麻留田さんまで姿を現した。
その背後には長身の良く日に焼けた肌をした男子の先輩が立っている。
「その言い方だと、例年の甲判定者は仲が悪いように聞こえますけど?」
「仲が悪いと言うよりは付き合いが無いな。私は立場と寮の都合で山統、陽柚、燃詩の三人とはそれなりに付き合いがあるが、陽観とはほぼ無縁だ。だから良い悪いを論じる以前。そして、残りの四人だって山統と陽柚は生徒会同士だから親しいが、他は縁なしだ。青金、お前も同じようなものだろ?」
「そうですね。風紀委員長と同じような理由で以って生徒会の津々とはそれなりに付き合いがありますが、他の三人とはこうして一緒に食事をしたようなことは無いです。そもそもとして、同性の熊白はともかく、赤桐と彩柱の二人は迂闊に一緒に居られませんし」
俺の言葉に麻留田さんと男子の先輩……風紀委員会の青金先輩が応える。
なお、会話の流れから読み取れる通り、青金先輩は二年で、甲判定者で、次期風紀委員会の風紀委員長と目されている人らしい。
「つまり、私たちの世代は珍しい、と?」
「そうだな。珍しい。人数が多いだけでなく、こうして一緒に昼食を取っていられる程度には仲がいいと言うのは珍しい」
「お前たちは遭遇していないのだろうが、二年や三年の中には、お互いに顔も見たくない、と言うレベルで仲が悪いものもそれなりに散見される。そう言う連中が喧嘩をしているところに仲裁で赴くことはあるが……疲れるぞ、アレは」
「ああそうだな。アレは疲れる。いっそ決闘でもしてスッキリさせてしまえと言いたくなるが……」
「風紀委員長。そう言う話の流れにしたのは俺ですが」
「分かってる」
「「「……」」」
なんか、麻留田さんと青金先輩が凄い実感のこもった呟きをしている。
俺と言うか、この場に居る一年生の面々は、そう言うのに遭遇した事が無いので分からないのだが、いざ起きた時は中々に面倒なことになるらしい。
「あーそうだ。折角集まってるなら言っておくか。正式採用はもっと後の話になるが、体育祭が終わった後に風紀委員会も生徒会も一年生からメンバーを募集、お試しで加わってもらう事になる。その時に甲判定者はそれだけで採用されやすくなるから、興味があったら応募をして欲しい。じゃあな、一年生たち。問題を起こすなよ」
そうして麻留田さんたちは去っていった。
「風紀委員会なぁ……少なくとも俺はないな」
「そうだね。ナル君はないと思う」
「翠川様はその……」
「お前は取り締まられる側だよ、翠川」
「うん、こればかりはね」
「風紀委員会が風紀を乱すのはなぁ」
「まあ、駄目っすよね」
「むしろどうしていいと思ったって奴だよな」
「ナルさんはあってもイメージキャラクターかと」
「そレ、炎上する奴ですネ」
「炎上するね~確実にね~」
「とりあえず1万メートル組は昼飯食っておかないと、拙いと思うんだけどな?」
「あ、本当だ。もうすぐ時間だね。ボクたちには関係ないけど」
なお、俺の呟きには俺自身も含めて満場一致で賛同が得られたので、俺が風紀委員会に入る事は絶対に無いだろう。
最後の台詞ですが。
上から順に、ナル、スズ、護国、縁紅、吉備津、徳徒、曲家、遠坂、イチ、マリー、羊歌、大漁、瓶井、となっております。
この13名連続台詞が成立するのなら、仲はそれなりと言っていいでしょう。
あ、今話で出て来た甲判定者の先輩たちの名前は、まだ覚えなくても大丈夫です。
登場機会が増えてから自然と覚えられるように露出を増やす予定ですので。




