100:体育祭一日目・精密歩行・ダンス
「さて始まったな」
精密歩行・ダンス。
この競技も決闘の舞台を利用して行われる。
だが、飛び石と違って、参加者全員か半数程度が舞台の上に集まって、一度に競技が行われる。
そのため、舞台上にはマリーの他にも、曲家、吉備津、大漁さんと言った面々が上っている。
ルールとしてはシンプルで、各自がマスカレイド発動前に特殊な機器を着用。
マスカレイド発動と共にスタートし、その機器を通じて送られてきた指示通りのポーズを取っていく。
そして、マスカレイドが解除されるか、指示を複数回間違えると失格となり、舞台外へと転送される。
で、最終的には取る事が出来たポーズの数が、そのまま点数となる。
なお、本競技では他人への攻撃は厳禁であり、確認された場合には即座に失格である。
「うーん、これは壮観だな」
「そうだね。最初は人数が多い分だけ指示も画一的なんだけど、だからこその派手さと言うか威圧感があるよね」
「皆さん、一斉に動き出しますからね」
最初の頃の指示はシンプルで、一歩前に足を踏み出すとか、手を前に伸ばすとか、その程度だ。
誰も間違えたりはしない。
ただ、そこまで制限時間が長いわけでもないので、自然と動きが揃い、行進のような威圧感がある。
「お、失格者が出た」
時間が進むと、段々と指示が細かくなると共に、制限時間も短くなっていく。
その為、指示についていけなかった者から順番に、姿を消していく。
また、舞台上の人数が少なくなった隙間が自然と埋まるよう、各自の立ち位置が変わるようなステップの指示が出ているのだが、そのステップに合うように上半身の動きも指示されるため、一人一人に出される指示が変わっていく。
こうなると、指示ではなく周囲を見ていた人間も、ミスが多くなって、姿を消してしまう。
「この競技。仮面体の性能を競うと言うよりは、仮面体を扱っている術者の集中力と魔力量を問う競技なんだよね。だから、その辺が途切れた人から脱落するし、その二つに優れている人が自然と残るんだよね」
「そうですね。なので流石と言うべきか、甲判定者の人が圧倒的に強い競技です」
「うーん、俺が出られれば、もっと圧倒的だったんだけどな」
「本当にね。各競技一人は出さないといけないと言うルール上、ナル君をダンスに持ってくることはしたくても出来なかったんだけど……ちょっと悔しいよね」
今残っているメンバーは……当然ながら指示は完璧に守っている。
しかし、その指示は細かいと同時に間隔が短くなっているため、傍目にはもうポーズとポーズの間に切れ目はなく、ダンスを踊っているようにしか見えない。
「しかし、ダンスの指示を出している人は凄いな。最初からそう決められていたようにしか見えない」
「本当だね、ナル君」
「噂では、プロが基本の動きを監修し、調整部分では最新のAIが次に繋がるように組んでいるとかで、相当な技術が使われているようです」
「「へー」」
腕を伸ばし、体ごと腕を振り、ステップを刻み、指一本の動きにまで拘ったポーズを取り、またステップを踏んで、ターンし、跳んで、頭を振り、屈んで反って……あー、まあ、指示に従ってやるのなら出来なくはないのだろうけど、だいぶ難しいな。
しかし、淀みのない、本当に奇麗な動きではある。
マリーだけを見ても、喪服のようなドレスを適度にはためかせ、傘と腕を優雅に動かし、正に舞踏会で踊っているかのような動きになっている。
うーん、指示を出している人は本当に凄いな。
「うーン、悔しいですガ、魔力切れですネ」
「そっすか。翠川によろしく言っておいて欲しいっす」
「お疲れ様。いい踊りだったよ」
「ナイスダンスだったぜ。アタシたちはまだまだ踊ってるから、見て行ってくれ」
と、ここでマリーが魔力切れで脱落。
姿を消す。
時間は……8分ちょっとか。
マリーの魔力量は550前後だったと思うので、それを考えると中々のものだろう。
「戻ってきましター。頑張りましたヨー」
「お疲れ様マリー。いいダンスだった」
「お疲れ様、マリー」
「ミスなしで魔力切れまで。素晴らしいです」
「ふふフ。みんなありがとうでス」
そして、マリーが観客席に戻ってくるので、俺たちは健闘を称える。
で、マリーから、曲家たちが最後まで見ていって欲しいと言っていたのを聞いたため、俺たちはこのまま競技を見守る事にする。
どうせこの後はお昼休みで、何処かへ急いで向かう必要があるわけではないしな。
「さて、最終結果は吉備津、曲家、大漁さんの順番になったか」
「妥当なところだね。魔力量そのままと言い換えてしまってもいいけれど」
「当然と言えば当然ですネ」
「ミスなしが続くのなら、何かしらの方法で魔力を供給したり節約をしなければ、こうなるのは当然です」
と言うわけで、甲判定者三人が魔力量の順番通りに脱落していったところで競技終了。
順当かつ問題なく終わった。
なお、言うまでも無いことだが。
俺がこの場に居たのなら、俺のやる気がなくなるまで、競技は続けられた。
ダンスをしている程度では俺の魔力は消費しないからな。
それともう一つ。
実を言えば、マリーはまだまだ踊っている事が出来た。
と言うか、その気になれば、吉備津よりも長く踊っている事も可能だっただろう。
ただそれはマリーのユニークスキルである『蓄財』の使用を前提とし、蓄えた魔力の金貨を大量消費する事になる行為である。
だが、そうして消費した金貨を取り戻すのにかかる時間も相応のものになるし、なにより悪い意味で非常に目立つ。
なので、マリーは金貨を消費せず、自身の魔力が切れたところで、切り上げたのだった。
「じゃ、午後の為に昼飯を食べに行って、その後は10000mの為のウォーミングアップと行くか」
「頑張ってねナル君。応援してるから」
「ふふフ、何を食べましょうカ」
「祭りなので普段とは違うものが出ているはずです」
俺たちは会場を後にすると、ショッピングモールが出している出店がまとまっている場所へと向かう事にした。




