10:授業初日
「ナルさん、イチたちはこちらですので」
「それじゃあナル君。頑張ってね」
「ナルー。お気をつけテー」
「ああ。スズたちも気をつけてな」
翌日。
俺たちは四人一緒に戌亥寮を出ると、それぞれの成績に合わせた教室へと向かった。
イチとマリーの成績がどの程度なのかは知らないが、スズと一緒に行動するようなので、スズと同じくらいなのだろう。
で、対する俺は……まあ、全国平均的には普通、この学園的には悪いとしか言いようがないからな。
当然ながら教育もそう言うものだ。
「さて、此処がそうだな」
と言うわけで、俺が学ぶ教室に到着。
俺は教室の中に入る。
「お、やっぱりこっちだったか」
「ま、そうだよな。俺たちの側っぽかったし」
「同じ魔力量甲判定組っすしねー」
教室の中に居たのは三人の男子生徒。
そして、昨日のお披露目でも見た三人、丸刈り、赤モヒカン、緑癖毛でもある。
「まあ、何より驚かされたのはあのマスカレイドだったけどな」
「ああ。なんと言うかその……大変だった」
「無茶苦茶エロいのに、エロくないと言う不思議な感覚を覚えたっすね」
「ああ、あれは何と言うか……すまなかった」
なお、まず真っ先に話題として出るのは、当然ながら昨日のお披露目のアレである。
うんまあ、アレはなぁ……インパクトはあっただろうからなぁ……俺自身は自分の仮面体の詳細を知らないのだけど。
「ああうん。とりあえずお互いに自己紹介はしておこうか。こうして此処に居るって事は、学力的にも俺たちは似たようなものだろうし、魔力量の話を抜きにしても、今後も付き合いはあるだろうから」
「だなー」
「そうだな」
「そっすね」
とりあえずお互いに自己紹介をする事にした。
最初は俺で、仮面体がどうしてああなったのかは口に出さず、寮が戌亥寮である事程度だけ伝えて、話は無難にまとめた。
「俺は徳徒真だ。今はこうして丸刈りにしてあるけど、実は真っ青な髪の毛をしてる」
「なんで丸刈りに?」
「楽だから。いやマジで楽なんだって、定期的に丸刈りにするの。色々と気を使わなくていいからな」
次に丸刈りこと徳徒真。
どうしてかは分からないが、なんとなく彼からは猿っぽい感じがしている。
「ワイは遠坂金次。真が髪の毛ネタを出したから言うと、ワイのモヒカンはほぼほぼ天然もの。色だけじゃなくて、どうしてか、このモヒカン部分だけ異常に成長が早くて、しかも硬い。ならいっそのことと言う感じでこの髪型だ」
「魔力の影響ってやつか」
「らしいな。正直、真と違って手入れをしないとみすぼらしくなるから、少々面倒だ」
続けて赤モヒカンこと遠坂金次。
その真っ赤なトサカからはどうしても鶏と言う単語が思い浮かんでしまうが、それは口にしない方がいいだろう。
「ウチは曲家健っす。髪の毛ネタ続いているから言うと、ウチも天然物で、天然緑の上に勝手にモップみたいになるんすよ」
「ちなみに面倒か楽かで言えば?」
「クッソ面倒くさいっすね! 勝手に汚れを巻き取りかねない感じなんで」
「だろうなー」
「まあ、そうだよな」
最後に緑癖毛こと曲家健。
一つ一つの挙動がどうにも犬っぽい感じで、モップ犬と言う存在を知っていると、なおの事そう言う風に見える感じがするな。
「ちなみに俺たちは三人とも申酉寮。他の新入生甲判定組は子牛寮か虎卯寮らしいぞ」
「そう言えば、戌亥寮で俺以外の甲判定組は見かけなかったな。そう言う事か」
「ワイが聞いたところだと、何処の寮も甲判定の人数が同じになるように調整をしているらしいな」
「なんか、学園主催のイベントの幾つかが寮ごとにチーム分けをしてやるらしいっすね。だから、分かり易いところは平等に、って事っすね」
そうして自己紹介を終えたところで雑談。
まずは寮の話。
何処の寮も内装については大して変わらないらしい。
ただ、話を聞いている限りでは、申酉寮の方が生徒同士の交流が盛んであるように思え、戌亥寮の方が個人主義に傾いているように思える。
きっとこれが寮の特色とか、そういう奴なのだろう。
「趣味か? うーん、趣味と言っていいのかは分からないけれど、俺は軽い筋トレをして、体形を保つ努力はしているな」
「なるほど。それであの仮面体の美貌……」
「まあ、影響なしではないんだろうな」
続けて趣味の話。
と言っても、これは現状だと何を好んでいる程度なもの。
俺だと軽い筋トレによって、理想的な体型を保てるようにする努力はしている、ぐらいの話だ。
「俺は野球だな。本音を言えば、決闘学園よりも高校野球で強い学校に通いたかった。中学の頃は4番でピッチャーだったんだぜ、俺」
「エースって奴か。それは残念だったなとか言った方がいいのか?」
「多少はな。まあ、魔力量豊富だって言うなら、今後はこっち方面で頑張るさ。稼げるお金や注目度ならプロの野球選手も有名決闘者も変わらないだろうしな」
徳徒は野球。
明らかに未練が透けているが……まあ、俺と同じで、積極的に決闘学園に来たわけでないなら、そう言う反応になるのも当然の事だろう。
「ワイはカラオケだな。単純な歌唱でもいいけど。とにかく大声を出しているのが気持ちいいんだ」
「なんだか鶏が朝鳴いている光景が思い浮かぶんすけど」
「ああそれな。それは家族友人からよく言われた。ワイ自身、このモヒカンも併せて、自分の事が鶏にしか見えない。だから昔にコケコッコーって、大声で叫んでやった事もある」
遠坂はカラオケ。
ただ、この場において重要なのは、遠坂は馬鹿にするような意味で無ければ、自分が鶏扱いされることは何とも思っていないようだ。
笑いながら返しているところを見ると、むしろ、持ちネタの一つぐらいに思ってそうだな。
「ウチは苔のテラリウムが好きっすねぇ。細かく色々と組んで、奇麗なのが出来ると楽しいし癒されるっすよ。家から寮にも持ち込んだっす」
「へー、そう言うのもあるんだな」
「楽しいっすよー。時々上手くいかなくて酷い事にもなるっすけど」
曲家はテラリウム……小さなガラス容器の中で植物、苔、小動物を育てる奴だったか。
楽しみ方が人それぞれのものであるのだけれど、曲家の場合は奇麗なテラリウムを作る事を目指しているようだ。
「お前たち、授業を始めるぞ。一応言っておくが、マスカレイド関係の成績がどれほど良くても、学力面が壊滅的だと卒業できないからな。テストは出来なくても構わんから、真面目に話は聞いておけー」
「「「はーい」」」
と、ここで教師が来たので、俺たちはそれぞれ適当に席へと着き、授業を受け始める。
内容は……うんまあ、これくらいならついていけそうな感じだった。
徳徒たちも表情を見る限りでは同じような感想を抱いたっぽいな。
「ちなみにお前たちは自分たちの事を馬鹿だと自嘲するかもしれないが、先生はもっとヤバいのも何人か知っている。なので、お前たちぐらいならまだ馬鹿の範疇ではないと言っておくぞ」
「え、マジかよ。俺、そんなに成績良くないぞ」
「こっわ。ワイも自分がダメな方の自覚あるんだけど」
「馬鹿の方向性が違うとかなんすかね」
「いや、この言い方だと学力的な意味でっぽいな」
「そして、お前たちの今後次第では、そのレベルに授業の段階を戻す準備もしてある。折角四人で仲良くなったのに、一人ぼっちにはなりたくないよなぁ? そうならないように気を付けろよ」
「「「……。うす」」」
とりあえず授業は真面目に受けよう。
知識を得て困る事はないのだろうし。
一種の三馬鹿枠なわけですが、主人公も学力的には同じくらいなのでバカルテットの方が正しいかもしれません。