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火災戦術指揮官  作者: レッドライト
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第1出動

消防ポンプ車の車内で聞くサイレンの音は少しくぐもって聞こえ、併せて鳴っている鐘のカーンカーンという音と相まって体を高揚させる、午前2時まで書類整理をしていたせいで、起ききれていない体が少しづつ熱くなる。指揮隊長からの無線が聞こえてきた。

 「本火災は、都中消防署指揮隊長が指揮をとる、活動方針は人命救助最優先、延焼拡大の防止、部隊の安全確保とする。」

 その口調は滑らかだ。

 正直、このフレーズは聞き飽きた、火災現場で他の方針なんて言ったことないじゃないか、と思う。

 形式ばった物言いが気に入らない。たまには、地形や建物の構造を踏まえた方針を語ってみろと言いたくなる。

 7月の朝4時、ポンプ車のフロントガラス越しに、まだ薄ぐらい空に立ち上るように白煙が確認できる。

 火災事象を目撃すると体がさらに熱くなる、次々とやるべきことの断片が頭の中で繋がっていく。

 複数の可能性から最善を選び行動に移す。


 都中消防署第1小隊、私の所属している消防署の消火隊だ。町の中心部に位置する都中消防署は最も出動件数が多く、慣例としてエース級の職員が配属されている。ただし、今出動中の隊の隊長は、現場歴が浅く、現場で固まってしまうことがしばしばだ。今も無線に了解するのみで自らが指示する余裕はない。


 位置関係から、自分たちの小隊が最先着になるはずだ、同じ消防署から救助隊と指揮隊が同時に出動しているが、我々が先行している。

 車載端末を操作して、火災現場付近の水利状況と建物構造を確認する。近くの交差点付近に消火栓があるようだ、構造は鉄骨造2階建、1階が商店で2階が住居、市街地のため隣の建物には近接している。


 現場到着まで3分もない、無線も他の隊の情報共有のため渋滞している。得られる有用な情報は1つでもあれば上等だ。

 「通信センターから各隊、本件火災は現場建物の家人からの通報、通報者避難済み、逃げ遅れなしの模様」

 「指揮隊長了解、本件火災については、隣接建物・・・」

 この先延焼防止にあたれ、と言うだろう。させてたまるか!

 指揮隊長の無線を邪魔するように即座に、無線機の送信ボタンを連打する。

 「おい、永瀬!何やってんだ、聞こえねーよ!」小隊長!が呆れ顔で言う。

 また、延焼防止を言うには早い。主導権をとって、早期決着をつける。

 「通信司令課から指揮隊長、無線断続して聞き取れない、再送せよ、復唱する、通信・・・」

 よし、同級の通信指令の田中が察して、時間を稼いでくれている。

 すかさず、小隊長に声をかける

 「隊長、指揮隊が到着するまでの指揮宣言してください。」

 「同時出動してるのに、先着も何もあるか。」

 「まだ白煙です、屋内進入を試みましょう。現着時ダメそうなら諦めます。」

 小隊長は、こちらをしばし見つめて無線機を取り、無線の隙間を縫う

 「都中第1小隊長より、各隊、指揮隊到着までの間都中第1小隊長が指揮を取る、都中小隊は直近消火栓につく、状況に応じて屋内進入または延焼防止にあたる。後着の他の隊は指揮隊の指揮のもと延焼防止にあたれ。なお、救助隊同着の場合、援護注水にあたる。」

 「鈴木機関員は水利確保し放水準備にあたれ、直島は2本分の余裕を持ってホース延長後予備注水、佐藤は建物の状況を確認だ」

 「了解!」3人の復唱が重なる。

 2つ先の交差点に現場が見えてきた、通報が早かったのか白煙がたちのぼり炎はまだ見えない。外壁は鋼板製だが、壁内は木も使われているだろう、屋根は陸屋根でパラペットに看板が固定してある。

 車を降り、呼吸器の点検を済ませた後、1階を観察すると商店のシャッターが閉鎖されており、玄関ドアのガラス部から炎がチラチラ見えている、炎が天井に移り黒煙に変わるところだった。

 まだ、中性帯がはっきりしているように見える。建物側面に換気用の高窓があるから破壊すれば煙も抜けそうだ。

 後ろを見ると、救助隊が到着し屋内進入の準備をしている、指揮隊は指揮所の設定中だ。

 傍に立つ小隊長に話しかける

 「フラッシュオーバーまで5分はあると思います。屋内進入可能と見ました。このタイミングなら救助隊の後方から援護注水が良いと思います。」

 「よし、指揮隊長に進言してくる。お前は筒先を持って屋内進入準備だ。」

 すかさず救助隊長に声をかける

 「援護注水します、屋内進入準備してください。」

 「準備はするが、まず入り口から火点方向に放水して室内の温度を下げてくれ、このクラスの建物は、周りが早いから進入は消防力優勢になってからだ。」

 「放水したら中性帯崩れて入れないですよ!」

 「だから、入らないってことだよ!すでに指揮権は指揮隊長に移っている。指揮隊長指示がなければ入らない。今のうち火点を叩くのは効果的ださっさと放水しろ」

 「ーーわかりました。」

 命令系統からすれば、救助隊長が断然上だ、指揮隊長の指示に従えと言うのも筋がとおっている、仕方ない。

 この好条件でも、屋内進入しない、いや、できないのでは何のための消防か!

 ストレスを抱えながら、消火活動を終えた。

 結局、2階は全焼、1階は入り口付近を除き焼損となった。延焼は、隣接建物のガラスや雨樋の焼損ですみ最小限となった。

 隊長連中は安堵しているだろうな、延焼が最小限ってところで。


 その日の非番はそのまま火災原因調査にあたった。


 その時、1階奥の浴室付近から大きい声が上がった

 「見つかりました。性別不明、全身3度熱傷、社会死状態と思われます!」

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