壊れた上司と驚きの相手
この話で、第一章は完結です。
最近中将様の様子が変だ。絶対おかしい。いつもどこかぼうっとしている。何を考えているのか、部下の誰にもわからない。
律子様のことが心配なのはわかる。俺だって、人の気持ちを想像できないわけじゃない。これまでだって、律子様のことを想っていたはずだ。俺に依頼するよりも前から、心配自体していたはずだ。それでも、今までと何かが違う。残念ながら俺は恋には疎いし、精神力よりも肉体力で生き延びてきた身だ。やはりこんな時に頼れるのはあいつしかいない。
俺は充孝の家に行った。充孝がいつも通り迎えてくれた。簡潔に切り出す。
「最近中将様がおかしいんだ」
「どのように?」
「定型文で聞いてくるなよ。まあいいけど。いつもボー―――っとしてるってわけだ」
「そこは恋の病だと言え」
「つっこみどころおかしいだろ」
「まあまあ。そういうことなら、」
「何か対処法でもあるのか?」
「いや、ない」
「は? いや、期待させないでもらえます?」
「期待させたのは悪かった。ただ、特効薬はない。天才陰陽師の俺でも、聞いたことはないな」
天才陰陽師というのは自称であるが、どちらにせよ知らないのだと理解する。
「それじゃあ、今俺にできることは?」
「仕事のこと以外では話しかけないほうがいいと思う。間違えて恋の話題を耳に挟ませでもしたら、もっと悪化する」
「分かった。ところで、最近調査の方はどうなんだ?」
「まあ、うまくいっている」
「ならよかった。どんなことが分かった?」
「主に調べたのは、東宮の恋人の噂についてだな。どうやら恋人がいるというのは、共通認識になりつつあるらしい。それが誰なのかは諸説ある。とりあえず確実なのは、政略結婚自体は仕方ないと思っているが、律子様を好きなわけではない、ということだ」
「だとすると、結婚相手同士どちらも乗り気でないってことだよな?」
「そうなる。で、新郎の親も本人が嫌ならそれでもいいと言っている。だから、結婚させたいのは新婦の親だけになる」
「もはや結婚させる意味がなくなってるよな。お互いに恋人がいるなら、二組成立ってことで解決させればいいのに」
「そうもいかないのが貴族なんだよなー」
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それから数日。中将様の様子はおかしくなる一方であった。仕事を休むことこそないが、心ここにあらず、という感じである。部下が質問しても「聞いてなかったから、もう一回言ってくれ」の繰り返しだ。だが、充孝からむやみに話しかけるなと忠告されている以上、何もできない。
充孝が東宮の恋人について調査を進めているが、折角なので俺も調べてみたい。同僚の武官の中にも、もしかしたら知っている者がいるかもしれない。ちょうど駄弁っている武官がいる。
雅之「なあ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、かくかくしかじか…」
同僚い(以下、い)「そのことか。結構有名だぜ」
同僚ろ(以下、ろ)「ああ。でもいくつか候補?があって、誰なのかはわからない」
雅之「お前たちは知ってるのか?」
ろ「いや、知らない」
い「みんなこのことを話すときは『あの人だろう』『いや、あの方だ』みたいな言い方だから、俺達には見当がつかねえ」
収穫はなしか。と思うと、また同僚を発見する。最近は大きな事件も行事もないし、上司がおかしくなったせいもあって俺たちは暇がある。
雅之「なあ、ちょっと…(以下略)…」
同僚は「噂があるのは知ってるけど、あまり知らねえ」
同僚に「俺も」
同僚ほ「俺も。でも、あいつなら詳しいと思うぜ。おーい」
あいつって誰だ?
同僚と「なんだ?」
ああ、噂好きのこいつか。
ほ「実は…」
と「そういうことか。今から話すのは個人的な意見だけど、いい?」
構わない、とうなずいて見せる。
と「まあ、俺と同じ意見のところが最大派閥らしいけどな」
噂の派閥って何だろうか。
と「なんでも、東宮様は母方の従姉である律子様ではなく、父方の従姉である清子様のことが好きらしい」
雅之&は&に&ほ「「「「ええー-ー----っっ」」」」
と「しっ。周りに怪しまれる」
確かに、周囲からの視線を感じる。
に「き、清子様って、先の帝、主上の兄君の三の宮(=三女)様だよな??」
と「ああ、そうだ。清子様は東宮様より一つ年上。今は母君の実家に引き取られている」
ほ「いくら何でも、驚きだな」
と「俺もはじめて聞いたときは驚いたさ。でも、噂の中で一番現実味があるのがこの説なんだよ。で、どうやら片想いらしい。清子様の方は、このままのんびり暮らしたいんだろう。もともと婚約者はいたんだが、先帝の死でうやむやになったらしいしな」
雅之「片想いとは、なかなか面白いな。で、その婚約者って誰なんだ?」
と「藤原一門の誰かだったはずだ。はっきりとは覚えてないんだが…」
ほ「じゃあ、律子様の親戚なんじゃないか?」
と「多分な。大体皇族が嫁ぐような家はそれぐらいしかないだろう」
その時、鐘が鳴り響いた。帰る時間だ。俺たちはそこで会話をやめ、家に(俺は宿舎だが)帰っていった。
翌日。俺は充孝の家を訪れた。そして、昨日の会話を伝え、
「そっちはどうだった?」と聞いた。
「まあ、同じような感じだよ。片想いだってのもな」
「そうか。で、これで調査は一段落ってことだな」
「ああ。だが、本番はこれからだぜ?」
「分かってる。俺たちがしてきたのは『調査』だ。これからみんなが幸せになれるようにしなきゃいけない。そういうことだろ?」
「その通り。俺たちにどれだけのことができるかはわからない。でも、できる限りのことをしよう」
「もちろん。お前と親友でよかったよ」
「それは俺のセリフだ」
二人は互いに微笑みあい、これからの計画を話し合い始めた。
前回分かった東宮の恋人は、雅之たちも知るところとなりました。
第一章はこれでおしまいです。次回から第二章です。お楽しみに。
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