表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/98

第91話 帰る場所

 私はメイドのアーネ。

 この家に来てから1ヵ月が過ぎた。

 

 エリアス家のみなさんの朝は……、遅い。


 最初の日は陽が昇っても起きて来なくて焦ったわ。

 まあ、その分みなさんお若いから夜、寝るのも遅い様だけど。

 そして4人で部屋に集まって、何やら騒いでいるわ。


 私は魔法が使えないから灯りは油を使わせて頂いているけど。

 エリアス様達は灯り(ライト)の魔法が使えるから、灯代は気にしないし。

 勉強会だってパメラ奥様は言っていたけど。


 みなさんとても仲が良くて、まるで夫婦と言うより家族や兄妹ね。

 ルイディナ奥様が母親代わりでオルガ奥様がお姉さん。

 エリアス様が弟でパメラ奥様はやんちゃな妹の様な感じね。



 そして一般人が仕事に出かける、7時頃にみなさん起きてくる。


 朝はパンと軽い食事で良いと言うので、野菜炒めとかスープ物が多い。


 そして2時間くらいすると、冒険者の格好をしてみなさんどこかに出かけていく。

 聞くところによると来年の春の収穫まで、領主様なのに収入がないとか。

 だから冒険者をして働いているらしい。


 それなら領主になった意味が無いのでは?

 冒険者で食べていけるなら、冒険者をやっていた方が良いのでは、と私は思ってしまう。


 何でも冒険者をやっていて功績をあげ男爵様になったとか。

 そしてこのヴィラーの村の領主になった。


 いいえ、王国から押し付けられたのかしら?

 誰もなりたがらなかった、このヴィラーの村の領主に。


 前の領主様が酷くて村人の気持ちは荒れていた。

 貴族出の人がまた来たら反発される。


 でもエリアス様は違った。

 素朴て笑顔が可愛くて。


 そして村の為に農機具を、自腹で作って貸し出してくれている。

 聞くところによると、それがとても使いやすく開墾がはかどるとか。

 こんなに自分たちの事を考えてくれる、新しい領主様の為にも来年の春はたくさん収穫するぞ、とみんな頑張っている。


 特にこの村は中高年が多く、若い人は出て行った。

 そのため、みんな自分の子供達より若いエリアス様家族が気になるようだ。



 そのエリアス様は雨の日以外は、ヴィラーの村を出て狩りをしているみたい。

 狩った素材は歩いて5時間も掛かるウォルド領まで行き、お金に換えているみたいだわ。

 驚くことに2~3日に一度、魔獣を狩って格安で村に卸していることだ。



 この前はホーンラビットの群れが居たとかで20匹狩って帰って来たわ。

 ホーンラビットくらいなら、私でも捌けます、と言うと5匹を渡され解体した。


 残りはアルマン食堂に卸した。

 そして肉を捌いて残った毛皮だけを引き取り、仕立屋のトルベンさんのところに持っていったみたい。

 何やら加工を頼んだらしく、数日すると『はい、プレゼント』と言われ私に渡されたものがあるの。


 ホーンラビットの顎の下にクリップを付け、首に回してシッポをクリップに挟み巻く襟巻えりまきだったの。

「これから寒くなりますから、温かくしてくださいね」

 エリアス様にそう言われ、私は涙が出そうになった。

 襟巻の加工を仕立屋に頼んでいたのね。


 毎日、奥様方を含めエリアス様のご家族4人はみなさん、襟巻をして出かけて行かれる。

 その襟巻を頂けた私も、家族の一員だよと言って頂けたようで嬉しかった。




 そして困ったことにメイドの仕事があまりない。

 お屋敷の中はとても綺麗になっている。

 掃除はエリアス様のマジック・バッグで、埃や汚れを収納しているとか。


 庭の雑草はオルガ奥様やパメラ奥様の魔法で刈り、こちらもマジック・バッグに。


 恐るべしマジック・バッグ。

 こんなに便利な物なら誰も手放さないわ。

 だからマジック・バッグは高価なのね。

 これ1つで一生遊んで暮らせるくらいの価値があるのも分かるわ。

 だってこんなに家事に役立つんだもの。



 そして洗濯もやらせて頂けない。

 みなさん恥ずかしいと仰って。


 エリアス様のお使いになる清潔クリーンと呼ばれる便利な魔法があって、それを使えば汚れや臭いを収納して綺麗にできるからと。


 私も時々、清潔クリーンの魔法を服の上からかけて頂くことがあるけど、汗の臭いも取れる。


 まるで服は洗濯したばかり、体はお風呂に入ったようにとてもさわやかな気分。





 私はここに何をするために居るんでしょう?


 せめてできることは美味しい食事を作って差し上げる事ね。

 普段なら手がでない調味料も揃っているわ。

 塩、胡椒だけではなく、街で噂のマヨネーズ、味元あじげん、醤油、ソースも使わせて頂けるなんて。


 オルガ奥様から食材費として、5人の8回分の食事として2万円頂いているけど。

 そんなに食べるのかしら?と、最初は思ったけど。


 どうやら奥様方は料理が出来ないらしく、一食作るのに食材がいくらかかるのか分からないようだったわ。

 確かにお店で食べると一食500円くらいが相場だけど、作るのは違うからね。



 本当に奥様達は知らない事ばかりのようで。

 雑貨屋のマティのところに集まる向かいの奥さんのペニー。

 2軒左隣のレジーナ、斜め向かいのフリーダと私と奥様方3人と女子会なる物をやっている。

 どうやら美味しいものを食べ、お茶を飲み、お話をして憂さ晴らしをする会の様だけど、とても楽しいわ。

 


 奥様方に貴族としての礼儀を教えるにも、『その時はお母さんが相手をしてあげて』と言われ、覚えようとはしないわ。

 でも最近では時々、『お母さん』て、呼んでくれるのよ。

 ふざけて、言っているのはわかるけど。

 それがとても嬉しいときがある。

 私の亡くなった息子より年下のエリアス様達。


 エリアス様の両親は、もう他界されていないとか。

 奥様方も村が貧しく生活のため、村を出て冒険者になったとか。

 みなさん帰る場所がないそうだ。


 それなら私がみなさんの帰ってくる場所になろう。

 そして毎日、笑顔になれる美味しい食事を作ろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んで頂いてありがとうございます。
もし面白いと思って頂けたら、★マークを押して応援して頂けると今後の励みになり、とても嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ