第76話 グリーンドレイク
俺達は翌朝、朝食を食べてから南門を出た。
今日の南の門番は猟師のロビーさんだった。
「エリアス様、どちらへ」
「素材が貯まって来たので、街まで売りに行こうかと思いまして」
「ウォルド領までですか?お気をつけて」
「行ってきます」
俺達4人は門を出て走り始める。
1時間くらい走ればウォルド領に行けるはずだ。
しかし道が悪い。
ヴィラーの村へ続く道は馬車の轍なのか、凸凹している。
これでは村への出入りも大変だ。
何とかならないだろうか?
そんなことを考えながら俺は走る。
しばらく走るとウォルド領に向かう街道に出た。
ウォルド領には大きな湖があり、鮎や海老が美味しいとか。
しかしただ走っているのは退屈だ。
道の駅でもあれば、少しは気がまぎれるが。
街の人達は商人や貴族でもない限り、生まれてから死ぬまで街を出ることはない。
街の外は魔物が多く、危険がいっぱいだからだ。
だから旅先で困ったことがあっても、誰かに出会う可能性は低い。
例えば今、目の前の道を塞いでいる馬車の様に。
貴族らしい馬車が3台あり、その真ん中の馬車の車輪が轍にはまり、動けなくなっているようだった。
近づいてみると護衛する騎士が10~12人で、馬車を押している。
「お困りのようですね」
「あぁ、見ての通りだよ」
後ろ側に居た騎士に俺は話しかける。
「手伝いますよ」
俺はそう言うと車輪がはまっている馬車に近づいた。
いかにも貴族です!と言う格好の恰幅のいい40代の男性。
そして20代前半から半ばの男女と、12~3歳くらいの女の子が居た。
この人達が乗っていた馬車の様だ。
「誰だおまえは!」
側に居た騎士が警戒し身構える。
「通りがかりの冒険者です、手伝います。見ていてください」
そう言うと俺は 轍のところにしゃがみ込んだ。
左手に魔力を通し轍に手を置く。
そしてストレージで轍を覆い、空間を持ち上げるイメージをした。
ガシッ!
馬車が少し持ち上がった。
「今です。馬車を出してください」
「お、おう」
ガタ、ゴト。
馬車は轍から出せた。
「やった~!」
側にいた騎士たちは喜んだ。
そんな時だった。
「「「「「 バンッ!! 」」」」」
大きな音がしたかと思うと3台目の馬車が消えていた。
そして上を見ると大きな魔物がいた!
【スキル・鑑定】簡略化発動
名前:グリーンドレイク
種族:魔物
年齢:150歳
性別:オス
体長9m/翼長15m
【特徴】
鋭い前脚、ワシの様な後脚、針が生えたような尾を持つドラゴンの下級竜。
飛行速度が速く知能は獣並みで、ドラゴンと比べると小型で弱い。
グリーンドレイクの脚には馬車が捕まれていた。
そして空高く舞い上がり、山脈の方に飛んで行った。
あっという間の出来事だった。
「ま、まさかこんなことになるとは」
50代の男の貴族の人が口を開く。
「最近、ドラゴンが現れ旅人を襲うと聞いてはいたが、まさが侍女達が乗った馬車が襲われるとは」
「前から襲われていたのですか」
「おい、公爵様に無礼だぞ!」
騎士が遮ろうとする。
「まあ、よい。私はウォルド領の領主、ノルベール・シュレーダー・ファイネン だ。君達は冒険者か」
「はい、そうです」
「対応には動いてはいるが、空を飛ぶ魔物のため手が出せないのだよ」
「でもこれでは安心して旅が出来ません」
「そうだ、そこが問題なのだ。ウォルド領を行き来する商人が減れば、街は疲弊してしまう。分かっていることはバーク山脈に巣くっていることぐらいだ」
「討伐隊は出さないのでしょうか?」
「相手は空を飛ぶ。森の中を進み山脈に向かい、しかも出せる兵も500人だな。攻めてくれば別だが、こちらから攻めるのは得策ではない。そして空にいる魔物にどの様な攻撃手段があるというのか。侍女達には可哀そうだが、攻めても勝ち目はない」
攫われた侍女達は見捨てるということか。
これだと安心してウォルド領に来ることは出来ないな。
「では俺達はこれで」
「あぁ、気をつけてな」
馬車を轍から出した謝礼をもらい、俺達は公爵と別れ先を急いだ。