第75話 日常
アーマン村長の家の広間に畑仕事をしている人達の顔役オズワルド。
サブリーダーのラルフ、サムソン。
農家の青年団のリーダー的な存在、フレイザーが顔を揃えた。
「やはりエリアス様はお金に執着しない方の様だ」
農家の青年団のリーダー的な存在フレイザーが話す。
「肉が無料だと貰う方も体裁が悪いから、わずかでもお金を払えば形になるからな」
「新しい農法だけではなく、農機具を貸し出してたり、食料の肉も格安で分けてくださる。領民思いの領主様だ」
オズワルドも相槌を打つ。
「だが、このままでは余りにもお可哀そうだ」
「あぁ、そうだなフレイザー。他の村に話が伝わったら聞こえが悪い」
「だからそれまでに畑仕事を頑張って、春の収穫にはたくさん納税できるようにしないとな」
「そうですね、アーマン村長」
「そう言えば最近、北門の門番役をやりたいという希望者が多くてな。いったいどうしたんだ」
「南門の当番の奴も、北門をやりたい、て言ってたぞ」
「北の門番が麻袋に果物を入れて歩いているから、どうしたのか聞いたらエリアス様が北門から狩りに出て、戻って来られた時に採ってきた果物をもらったそうだ」
「本当ですか、アーマン村長。俺、明日から門番やります」
「俺もです」
ラルフとサムソンが口を揃えて言う。
「なにを馬鹿な事を。北と南の門番は当番制だ」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
季節は冬、そんなある日の事…。
最近では俺達4人は森の奥まで行くようになった。
それは果物も同じところばかりで採る訳にもいかず、人に害を及ぼす魔物も近くに居なくなってきたからだ。
俺達は森を移動しており、木々が少なく岩山が多い場所を歩いていた。
「「「 ワォ~~ン!! 」」」
突然、狼の様な鳴き声が響く。
そして何かが争っているような音がする。
「みんな、行ってみよう」
俺達は音を立てない様に、静かに歩きながら音のする方へ近づいていく。
岩場の間から顔を出し伏せる。
見ると遠くに人型の魔物が5体と、狼の魔物の群れが戦っている。
鑑定してみると人型がオークだ。
身長2mくらい、棍棒を持って振り回している。
狼の魔物がブラック・ファングだ。
大型犬より一回り大きい大きさだ。
そして更に大きいホワイト・ファングがいる。
レベルはファングの方が低いが、ブラック・ファングの数は20匹は居る。
4匹に分かれて1体づつオークの手や足に噛り付いている。
1体のオークが横倒しにされた。
するとホワイト・ファングがもの凄い速さで近づいていく。
「「「 ガァッ!! 」」」
横倒しになったオークの首を噛み、ホワイト・ファングが首を横に振った。
〈〈〈〈〈 ゴリッ! 〉〉〉〉〉
嫌な音がしてオークの首が変な方向に曲がった。
オークの手や足に噛り付いていた4匹のブラック・ファングは、他の1体のオークに向かって行く。
8匹のブラック・ファングに噛まれたそのオークは、そしてあっと言う間に横倒しにされる。
そしてさっきと同じようにホワイト・ファングが、横倒しになったオークの首を噛み止めを刺す。
今度は8匹のブラック・ファングは二手に分かれ、2体のオークに向かって行く。
そしてオークを横倒しに止めを刺していく。
ファングの群れはオークと比べると、明らかに知能が高く連携が取れていた。
そして最後の1体を同じ方法で倒した。
「「「 ワォ~~ン!! 」」」
ホワイト・ファングが勝利の遠吠えをする。
そして他のブラック・ファングも同じように遠吠えを始める。
「「「 ワォ~~ン!! 」」」 「「「 ワォ~~ン!! 」」」
「「「 ワォ~~ン!! 」」」 「「「 ワォ~~ン!! 」」」
「「「 ワォ~~ン!! 」」」 「「「 ワォ~~ン!! 」」」
そして一通り鳴くとオークに食らいついた。
狩りが終わり食事が始まる。
食事中の今なら、襲ってくることもないだろう。
「みんな音をたてないようにして引き返そう」
俺はそう言いながら、腰を低くして後戻りをした。
ふと見るとホワイト・ファングと目が合った気がした。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺達は村に戻って来た。
そして村に入る時に森の果物を、門番にお土産にあげるのが恒例になっていた。
門番は当番制でお金も出ない。
それならそのくらいはあってもいいだろう。
鉄製農具の評判は思った以上で、希望者が殺到している。
開墾がはかどり農地が広がっていく。
農民は収穫が多くなった分だけ、生活が楽になるからやる気が出る。
鍛冶屋のジーンさんと木工屋のキアランさんは、鉄製農具作りに追われている。
そろそろ討伐した魔物がストレージの中に貯まって来た。
王都の東側にあるウォルド領に行って、冒険者登録を新たにして売ってこよう。
「ねえ討伐した魔物が貯まって来たから、ウォルド領に行って売ってこないか?」
「そうね、ウォルド領観光も良いわね」
「討伐も飽きたよ~」
「エリアス君、明日行かない?」
みんなが答える。
そろそろ、村に飽きてきたようで丁度良かった。
「そうだね、行こうか!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今夜はルイディナさんと一緒に寝ている。
最近、嫁達は空想話をせがむ様になった。
中二病はパメラさんだけだと思っていたのに。
この世界は娯楽が少ない。
文字を読むことをできる人も限られる。
その代わり言葉は娯楽として成り立ち、旅の楽士、商人、見知らぬ人の訪問は日常の、ありえない驚きや感動を与えてくれる。
ましてファンタジー系の話なんて誰もしないだろうから。
面白いと思うのかもしれないな。
胸に七つの傷を持つ男の話。
ドラゴンが荒れ狂い地上は敗退し世界は滅んだ。
荒廃した世界で国は機能しなくなり、生き残った人達は怯えながら、または略奪や殺戮を繰り返し本能のまま生きるようになった。
そんな時に現れたのが、胸に七つのホクロがある男だった。
彼はツボを突き人々から肩こりや腰痛を解き放つ!
そして荒廃した世界を、食の力でまとめようとする長兄、ラ王。
こうして俺達は翌朝、ウォルド領に向かって出かけた。