第73話 一番の幸せ
俺達はアルマン食堂で夕食を食べ屋敷に戻った。
そしてみんなで居間に集まった。
「アルマン食堂のアルマンさんの、解体を見たけど誰か出来そうかな」
「私は嫌だな」
「私も~、だってお腹を開いて内臓を出して、骨から肉を削ぐなんて気持ち悪くて」
ルイディナさんとパメラさんがそう言う。
確かにそうだった。
手は肉の油だらけになり、肉から皮を剥ぐのは見ていて気持ちのいいものではなかった。
「オルガさんはどうかな?」
「私は剣士であって料理人ではありません。そういうエリアス君はどうなの?」
「俺も無理かな、( ̄∇ ̄;)ハッハッハ」
パックに入った肉なら見たことはあるが、血の滴る肉を捌くなんて無理だ。
そして全員一致で決まったことは『自分たちでは解体はしない』ことだった。
これから肉を食べるためにまずは狩りをする。
それから、その獲物を店に卸す。
そして食べる時は今までより高い金額を払い肉料理を食べる…。
なにか、釈然としないものがある。
だがそれも仕方がないことだ。
誰かがやらないといけないからだ。
だが今度からは無理に全部売らずに、残りは引き取ることにした。
俺のストレージなら、時間が経過しないから肉は無駄にならない。
それにフライパンなども持っているから、肉を切れば焼肉くらいは出来るからね。
それから毎日、北門から俺達は森に入りワイルドボアは勿論のこと、ホーンラビット、ビッグベアなどを狩った。
そして山の果物を採取しながら、人に危害を加える魔物なども倒していく。
肉は毎日卸すのも変だから、2~3日に1度卸すことにした。
そしてレベルも上がって行った。
そして1週間が経った。
そろそろ鉄製の農機具ができる頃だ。
俺達は木工屋のキアランさんのところに顔を出した。
「こんにちわ、キアランさん。農機具は出来ていますか?」
「これはこれはエリアス様。もちろん出来てますよ、こちらへどうぞ」
そう言われ俺達は店の奥に行く。
「こちらを御覧ください」
そこには鍬やシャベル、鉄製の犁が各5本づつあった。
「ほう、これは奇麗にできてますね」
「もちろんです。鍛冶屋のジーンと、念入りに仕上げましたから」
あ、いえ、農機具なんで奇麗でなくても…。
「では頂いていきます。需要があるようでしたら、またお願いします」
俺は農機具をストレージに収納した。
「もったいない、お言葉です」
あれ?
なんか態度がこの前と違うけど。
「それからキアランさん。時間がある時でいいんですが、こんなの作れますか?」
俺はそう言って15cmくらいの竹の串を、とりあえず100本作ってもらえるように頼んだ。
値段も安かった。
「こんなのどうするんですか?」
「肉を小さく切って野菜を間に挟んで焼いて食べるんですよ」
「肉と野菜ですか…」
「どのくらいでできますか?」
「2~3日あればできます」
「ではまたその頃に来ますから」
「はい、お待ちしております。しかしエリアス様は奥様達と、仲がよろしいのですね」
「そうですか?」
「えぇ、どこに行かれるのも、奥様方と一緒だとみんな言ってますよ」
そう言えばそうだ。
この村に来てから外に出る時は、嫁達みんなと一緒だ。
「まだ新婚ですから。いつでも一緒に居たいんですよ」
そうエリアスは冗談を言って、微笑んだつもりだった。
だが感情表現に乏しくなった今では、寂しげに笑ったようにしか見えなかった。
「そうですか、エリアス様。そんなにお寂しいとは。いつでも言ってください。このキアラン。いつでもエリアス様のお力になりますから」
「あ、ありがとうございます。キアランさん」
コーネリアの妄想話を信じているキアランは、エリアスが可哀そうで何か力になってあげたかった。
「ではキアランさん。また」
そう言って俺達は店を出た。
この村は親切な人が多いと思う。
来て良かった。
エリアスは心からそう思った。
『ねえ、聞いた。オルガ』
『えぇ、もちろんよパメラ。新婚だから、いつでも一緒に居たいなんて』
『さり気なく愛の告白を、間接的にしてくるのね』
ルイディナも喜んでいる。
「みんな、これからアーマン村長のところに行くから遅れないでよ」
「「「 わかったわ 」」」
笑顔の3人の妻の声がハモった。
何事もない、当たり前の日常。
それが一番の幸せだった。