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第72話 たんぱく質

 俺達はワイルドボアの肉を卸に、アルマン食堂に向かっている。

 

 まだ午後2時くらいのはずだから、お店は暇なはずだ。


「こんにちわ!」

「あら、エリアス様。こんな時間にどうしたんだい?」

 ドアを開けるとコーネリアさんとニーナさんが掃除をしていた。


「実はワイルドボアを狩ったので売りに来ました」

「まあ、ワイルドボアを!ちょっと待っててね。あんた、ちょっとあんた」

 コーネリアさんが厨房の奥に消えていく。

 しばらく待つと夫であるこの食堂の主人、アルマンさんを連れて戻って来た。


「やあ、エリアス様。ワイルドボアを狩ったんだって。どこにあるんだい?外かい」

「いえ、ここにあります」

 俺は首からさせているバッグを叩いて見せた。


「マジック・バッグか。さすがに便利な物を持ってるな。ではこちらに出してくれないか」

 そう言われ俺達は裏庭に案内された。

「さぁ、ここなら邪魔にならず、多少の血の匂いがしても問題ないからな」

 そう言われ俺はストレージからワイルドボアを出した。


「「「 ドンッ!! 」」」


「ほぅ~、これはデカいな!これを狩って来たのか、凄いな」

 全長2mはある大きなワイルドボアだ。


「それに血抜きもしてあるのか。これで美味しい肉が食べられるよ」

 アルマンさんはそう言うと、解体用のナイフを用意し解体を始めた。


「コーネリア!いるか」

「なんだい、あんた。大きな声をだして」

「うちの店だけではこの肉の量は捌ききれない。ニーナと2人で他の店や住人に声を掛けて、ワイルドボアの肉が欲しい奴を集めてきてくれ」

「わかったよ、お前さん。ちょっと待ってておくれでないかい」

 コーネリアさんは江戸時代のおかみさんの様な喋り方をして、ニーナさんを連れて出ていった。


 その間、俺達はアルマンさんの解体を見ていた。

 これで多少は手順を覚えたから、自分で出来るかもしれないな。


 そんな事を考えていると、たくさんの人達が鍋を持ってやって来た。

「おぉ、なんて立派なワイルドボアだ」

「これは凄いな、領主様が狩ったのか。俺に1ブロックおくれ」

「はい、まいど!」

「私は2ブロックよ」

「はいよ~!」


 集まった人達が、アルマンさんに欲しい量を言う。

 1ブロックで大体、幅20cmくらいで厚さ5cmくらいの大きさの肉だ。

 そしてアルマンさんがその大きさに切り分けていく。


 各自が持参した入物に肉を入れ持ち帰る。

 代金はコーネリアさんが用意をした鍋に各々が入れていく。


「ほら魔石だ」

 そうアルマンさんに言われ、5cmくらいの魔石を渡された。


「よ~し、残りは俺の店でもらっておくか」

 気が付くと肉は残り3ブロックくらいになっていた。


「じゃあ、解体料金と集客の金額を引くと、これくらいかな」

 アルマンさんはそう言うと、お金を鍋に入れた。


「「 チャリ~ン! 」」


 その音は小銭の響きだった。

 鍋からお金を出し、見ると小銭がたくさんあった。(泣)


「みんなお金なんて持ってないからな。自分の払える金額を入れていったのさ」


 きっと1万円にも満たない額だろう。

 冒険者ギルドに売れば4~5万くらいにはなったかもしれない。

 だがこの村では貧しく、通貨を持っている人が少ない。

 しかも冷蔵庫が無いこの世界では生肉は傷むのが早い。


 冒険者ギルドがあるような人口が多い街なら、すぐに肉も売れるだろう。

 だがこの村では値段が高ければ誰も買わない。

 危険な思いをして狩ってもお金にならない。

 だから猟師が少ない。

 その猟師も魔物ではなく、野鳥などを狩るくらいだから肉は量が出回らない。

 牛、豚を飼ってはいるが、毎日食卓に上がるほどの数はない。



 しかし肉は生活する上で大切な食材だ。

 体を動かすのは筋肉だ。

 その筋肉を作る栄養素で大切なのがたんぱく質だ。


 特に肉は『良質なたんぱく質』が豊富に含まれている。

 肉は筋肉や血液を作るだけでなく、骨を作るメカニズムを促進し、ホルモンのバランスを整える効果もある。

『骨を丈夫にする』のがカルシウムなら、『骨を伸ばす』作用がたんぱく質だ。

 体力維持や子供の成長期にも欠かせないものだ。


 だからこの村の人達のためにも、安いのは仕方がない。

 だから、だから、たくさん肉を食べて健康に過ごしてほしいから。

 安いのは仕方がない。



 ポン。

 誰かが肩に手を置いた。

 見るとオルガさんだった。

「エリアス君、肉はそんなに体に必要な物だったのね。よく分かったわ」

「そうだぞ、エリアスっち。勉強になったぞ」

 おっと、どうやら口に出ていたらしい。


『さすがエリアス君だわ。こんなに安く叩かれても、顔色一つ変えないなんて』


【メンタルスキル】沈着冷静の効果で愕然としているのに、それが顔に出ないエリアスだったのだ。





「こんばんわ!」

 夕食の時間帯になり再び4人でアルマン食堂を訪れた。


 店はいつもよりとても混んでいた。


「今夜はワイルドボアのシチューだよ。滅多に食べれないからね~、大人気さ」


 うん、知ってる。

 狩って来たの俺達ですから。


「だから1人700円だよ」

 いつも1人500円なのに…。

 200円、高くなっていた。


 滅多に食べれないから高くなるのは分かるが…。

 今日の夕ご飯の味は、涙の味がした。


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