第71話 貯蓄
生活の安定と引き換えに、笑顔と自由が無くなった。
冒険者をやっている時は、生活は不安定だったけど楽しかった。
でも男爵となり収入と身分を得たことにより、今までと違い自由には出来ない。
エリアスはそう思った。
だが実際は違っていた。
【メンタルスキル】沈着冷静のレベルが上がり、魔物に対峙しても慌てることがなくなった。
だが表に出る感情も乏しくなり、何を考えているのかわからなくなったのだ。
だから妻達は不安になる。
そして不安そうな顔をした妻達を見て、エリアスも不安になる。
お互いに口に出せない、わからない事だった。
だが森に入り果物を採取し魔物を狩ることで、みんなが連携することで前の様に気持ちが一つになった。
今日はワイルドボアの他に、人に害を与えそうな魔物も倒していった。
キラービー(殺人バチ)、ポイズンスネークなどだ。
冒険者ギルドに行けば素材としては売れるが、食べ物としては売れない。
だがそれで良いと思った。
楽しかったからだ。
ヴィラーの村の北門に戻って来た。
門番は無償の当番制だと聞いている。
お土産として麻袋に、ナシ、柿、ざくろなどを入れて渡した。
すると門番さんはとても驚いていた。
これくらいのことは、してあげなくては。
俺達4人は屋敷に向かって歩いて行く。
「今日は楽しかったね。また行こう」
俺はそう言うと、みんな頷く。
「えぇ、久しぶりに楽しかったわ」
「そうね、私達にはこっちの方が合っているのかもね」
「魔力が上がっているのが分かって嬉しい」
それぞれが答える。
「ワイルドボアはどうする?俺達は解体できないからね」
「どこか冒険者ギルドがある街に行って、売るのも良いわね」
俺のストレージは、時間が経過しないのを嫁達も知っている。
「家に着いたら、みんなに話があるんだ」
俺はそう言うと、屋敷に向かった。
「どんな話?」
屋敷の入るとルイディナさんが聞いて来た。
今のテーブルに着き話を始める。
「みんな、今は楽しいかな?俺は楽しくない。男爵になり村からの、収入を充てにしている自分が居る。そして混合農業が上手くいけば、更に収入が増えると思ってた」
「何が言いたいのエリアスっち」
「今日、森で狩りをしてとても楽しかった。みんなもそうだったのでは?」
「確かに、楽しかった」
「そうね、久しぶりに体を動かしたわ」
「魔法が思った以上にきまり、魔物を倒せるからとても充実してたね」
「そこで思ったんだ。男爵なんてガラじゃなかったと。だから今まで通り冒険者をやって行こうと思うんだ。どうせ領主なんて名前だけだし」
「具体的にはどうしたいの?」
ルイディナさんが聞いてくる。
「今日みたいに森に入り、アレンの街にいた時の様に狩りや果物採取をするんだ」
「でも買い取ってくれるところは、この村にはないわよ」
「ここのヴィラーの村から南に4~6時間くらい歩くと、王都の東側にあるウォルド領に行ける。俺達なら走れば1時間くらいで着くからそこで売ろう」
「でもエリアス君。冒険者ギルドで、ただ売るだけだと安くなるわよ」
「だからオルガさん。冒険者をやるんですよ」
「また冒険者やるの、エリアスっち」
「えぇ、俺達の冒険者登録はまだ抹消されていないはずですけど、新たに登録しましょう。キングの件で騒がれるのは嫌ですから。それに人は働かないと駄目になります。まして毎日、何もせず税金だけもらって生活するなんて」
「それは、そうだけど」
「ルイディナさん。例えば俺達が冒険者の仕事をした他に、村から税収があるとしたらどうでしょうか?」
「それは凄いわ、生活に余裕ができるわ」
「みなさんが動けるうちに、稼いでおきましょう」
「それは、どういうこと。エリアス君?」
「はい、オルガさん。そ、それはいつかは子供ができるはずですから。それまでに貯えをしておこうと思いまして」
「「「 まっ、子供なんて! 」」」
3人の顔が赤くなる。
「そうね。その為にも今は貯えが必要ね」
「そうだな、私も協力しよう」
「私は魔道を極めたいから、しばらくはこのままで良いけど」
「ある程度、魔物が狩れて溜まったら、観光を兼ねてウォルドの街に行ってみましょうか?」
「楽しみです」
「良いわね」
「賛成~!」
「魔物の素材を定期的に冒険者ギルドに売れば生活できるし。肉などはこの村に卸し、この村で捌けないものは冒険者ギルドで売りしましょう」
「え~、安いと思うわよ」
「ではパメラさん。夕食に肉が出て来なくなったら、どうしますか?」
「それは肉がないと嫌かな」
「猟師も少ない様だし、肉を売らないとお店で俺達も食べられない、てことですよ」
「自分たちで狩った肉を売り、料理をしてもらい食べる、てことね」
「解体と料理を覚えますか?」
「「「 無理です! 」」」
全員が口を揃えて、俺にそう言った。
「ではワイルドボアを卸に、アルマン食堂にいきますか」
俺達は屋敷を出てアルマン食堂に向かった。