第70話 代償
俺達4人は木工屋を出た後、北門に向かった。
このヴィラーの村の正面玄関は南の入り口だ。
北側は農地があり、そこから森林が広がっている。
狩りなどで森の中に入る時は、北門から出ていく方が近い。
俺達はアレンの街のいる時と、同じことをしようとしていた。
稼ぎがないなら森に入り、果物を採り魔獣を狩る。
しばらく働かなくても良いだけの貯えはあっても、減っていくのは気持ちが不安になるからね。
俺達は北門の門番さんに声を掛け、通してもらった。
門番さんは50代の人で森に果物採取に出ると言うと、気を付けてと言って見送ってくれた。
俺が領主だと知っているのだろう。
こちらは知らないのに、相手は知っていると思うとなにか変な気持ちになる。
芸能人てこんな気持ちなんだろうか?
そんなことを【メンタルスキル】高速思考で考えながら俺達は走る。
タッ、タッ、タッ、タッ、タッ!
タッ、タッ、タッ、タッ、タッ、タッ!
しばらく山の中を探すと果物が見つかった。
ナシ、柿、ざくろ、イチジク、リンゴ、赤ブドウ、栗などだ。
そして周りを探索しキノコもたくさん採った。
こんな時、鑑定は役に立つな。
鑑定できなかったら、キノコなんて怖くて食べられないよ。
村人の数が少なく、山の中は荒らされていないから食材は豊富だ。
もう十分だ。
今度は狩りをしよう。
【スキル】鑑定サーチ発動!
どんな魔物も魔石を持っている。
鑑定サーチは鑑定眼を使い、その魔物の魔石を探すスキルだ。
だが目がチカチカして、とても疲れる技だ。
そして魔石を探している間は魔石検知に特化し、視界がぼやけてしまう。
信頼できる仲間が側にいないと出来ない技だ。
良かった。
俺にはみんなが居て。
ついエリアスは、微笑んでいた。
だが感情表現が乏しくなっている今は、それは微笑むというより『ニヤリ』と笑ったようにしか見えなかった。
そしてそれがクールに映る人も居る。
『エリアス君♡』
オルガであった。
『あの方向に魔石の反応があります』
俺は小声で指を指す。
『わかったわ、任せて!』
パメラさんが俺が示した方向に、ワンドを向けエアガンを撃つ!
これは風魔法を圧縮して放つ技だ。
「「「 パン、パン、パン、パン! 」」」
ガサ、ガサ、ガサ。
ガサ、ガサ、ガサ。
ガサ、ガサ、ガサ。
茂みの中からエアガンで追い立てられ、何かが出てくる音がする。
〈〈〈〈〈 ガァウ~~! 〉〉〉〉〉
「ワイルドボアだ!!」
俺は思わず叫ぶ!
ワイルドボアはイノシシのモンスターだ。
イノシシタイプなので魔獣かと思うが魔物だ。
魔物と魔獣の違いは魔石が体内にあるか無いかだ。
ワイルドボアは魔石があるので魔物になる。
そして魔物の体は魔獣に比べて、大きい場合がほとんどだ。
今回のワイルドボアは背の高さが1m近くあり、全長は2mはあると思う。
「それ!」
「シュンッ!」「シュンッ!」「シュンッ!」「シュンッ!」
ルイディナさんがAir shotを放った。
これは弓矢に風を纏い高速で放つ技だ。
「ドッ!」「ドッ!」「ドッ!」「ドッ!」
ワイルドボアの左側面に弓矢が刺さる!
それでもワイルドボアは止まらない。
俺は左腕にスモールシールドを付けストレージを纏った。
『収納防御』だ。
俺のストレージの使い方は特殊だ。
ストレージは生き物を収納できない。
それを利用し部分的にストレージで覆う。
そして今はスモールシールドに纏い、物理攻撃は受け止め衝撃は収納する。
だが欠点は異常に魔力を消耗することと、部分的にしか纏えないことだ。
〈〈〈〈〈 ドカンッ!! 〉〉〉〉〉
俺はワイルドボアの前に立ち、左腕のスモールシールドで勢いを止めた。
力が強くてもワイルドボアが生き物である以上、ストレージは収納しない。
だからストレージにぶつかれば勢いは止まり、衝撃は収納すればいいんだ。
「オルガさん!」
「はい!」
俺がワイルドボアを止めた隙にオルガさんはAgility UPで素早さを上げプレートアーマーを着ているとは思えないほど素早く動いた。
一瞬でワイルドボアの側まで来て、バスタード・ソードを掲げ振り下ろす。
ただそれだけ。
「「「 シュ~~~!! 」」」
首の動脈を切り血が飛び散る。
俺とオルガさんは血が掛からない様に数歩下がる。
ミスリルのバスタード・ソードだからと言っても、ここまで切れ味はよくない。
オルガさんは俺と同じように風魔法を剣に纏い、真空状態で切るVacuum swordが使える。
段々と動きに磨きがかかり、威力が上がっているようだ。
ワイルドボアの首から血が出なくなった。
血抜きが出来たのでストレージに収容する。
血抜きをちゃんとしておかないと、肉が臭くて美味しくないからね。
そして俺達はその後も山の中を歩き、人に害を与えそうな魔物を倒していった。
俺の鑑定サーチで魔物を探し、パメラさんがエアガンで追い立てる。
出てきたところをルイディナさんのAir shotで攻撃。
それでも対応できない時は俺の収納防御で抑えている間に、オルガさんのVacuum swordでとどめを刺す。
少しレベルが上がった。
俺達は楽しかった。
久しぶりに冒険者に戻ったようだった。
レッドキャップを倒し、俺は男爵になった。
オルガさん達も妻になり、明日の生活を心配しなくてよくなった。
だがみんな笑顔が無くなった。
それは生活の安定と引き換えに、笑顔と自由が無くなったことに気づいた。