第68話 鉄製農具
「これから、どうなされますかエリアス様」
「村を見て回ろうと思います、アーマン村長」
「そうですか、では何かありましたらお寄りください」
俺達4人は村長の家を後にし、ペニーさん達とも別れた。
田畑は村の入り口が南側なので、村から北に移動すると山間に田畑が広がっている。
村の人口からすれば100人以上は、農業に携わっているはずだ。
俺達は畑道を歩く。
子供が自分より小さい子供の面倒を見ている。
親が働いている間、子供達は親の側に居たり手伝いをしているようだ。
そして気になるのは農機具だ。
この世界の農機具の大半は木製で、刃先だけでも鉄製ならましなほうだ。
木の刃先を固くするために、適当に焼きを入れたものが使用されている。
これでははじめから、土を深く掘り起こすことは無理だ。
どの家も牛や豚が飼われ、森林に自由に出入りさせ放牧している。
穀物生産よりもむしろ、家畜飼育に重点が置かれるやり方だ。
畜産するにも人口に対して家畜の数が少ない。
これでは混合農業を始めても、効果はそれほどでない。
穀物生産をメインにしていかないと駄目だ。
それに必要なのは鉄製農具の普及だ。
鍬や鋤、いいや鋤ではなくてシャベル、そして土地を耕すことができる重い鉄製の犁だ。
鉄製の犁を2~4頭の牛や馬に引っぱらせる。
※犁:フレームに固定された垂直の木の棒の先端を尖らせ、地面に刺し、引きずり重さで土地を引っ掻くように開墾するのに使われる。
これがあれば森林を切り開くことが容易になって、耕地面積が飛躍的に増大するはずだ。
「どうしたのエリアス君、急に黙り込んで」
黙り込んでいる俺にオルガさんが話しかけてくる。
農機具が木製では効率が悪いことを話した。
「確かにそうだけど、私達の居た村でも農機具は木製だったわ。鉄で作ってもらったら高いもの」
「それなら私の風魔法で、ぱ~とやってあげるわよ」
最近、風魔法が上がったパメラさんは、魔法を使いたくて仕方がないらしい。
「それは駄目です、パメラさん」
「えぇ、どうして?」
「俺達がやってしまうと、依存する事を覚えてしまうからです。そして俺達が居ないと開墾をしなくなるのも困りますから」
「そうね、私達が魔法で手伝わないと、やらないのでは困るわね」
オルガさんも賛同する。
「ではどうするの?」
今まで話を聞いていたルイディナさんが口を開く。
それをどうするのか、アーマン村長のところに相談に行くことにした。
「こんにちは!」
俺達はアーマン村長の家に寄った。
「これはこれは、いかがされましたかなエリアス様」
奥からアーマン村長が出てきた。
俺は鉄製の農機具のことについて話した。
そしてストレージから羊皮紙とペンを出し鍬やシャベル、そして土地を耕すことができる重い鉄製の犁を書いて説明した。
鍬は土を掘り動かす。
シャベルは地面を掘り土砂をかき寄せたり、土の中の雑草の根を切るのに使う。
鉄製の犁は開墾するのに使うことを話した。
「確かに農機具が鉄製になれば、効率もよくなるでしょう。ですが鉄製の農機具は高価で農家の負担が多くなりますからな」
農民は収穫した穀物を食べ、その一部を売り生活用品を購入している。
そのため、貨幣自体をあまり持っていないからだ。
「ではこういうのはいかかでしょう。この村には確か鍛冶屋と木工屋があったはずです。農機具を作れるか聞いてみます。そしてその値段によって私達が出しましょう」
「なんですと、農具を与えて下さるのですか?」
「それは違います、正確には貸すのです。そして作業性が良くなったら、収穫時に大麦や小麦を使用料として頂ければ結構です」
「それではエリアス様のご負担が多いのでは?」
「まずいくら掛るのかですね」
「そうですか、それなら私も鍛冶屋と木工屋にご一緒致しましょう」
そう言うとアーマン村長は出かける用意をしだした。
まず俺達は村長から近い鍛冶屋に向かった。
「ジーンは居るかい?」
中に入るなり、村長が声を掛ける。
「なんだ、村長かい。どうしたんだい?こ、これは領主様、このようなところへ」
朝の挨拶の時に居たのか、俺の顔を見て誰だか分かったようだ。
「実は領主様が相談があるそうだ」
「領主様が俺に、なんでしょうか?」
ジーンさんは50代後半で腕の筋肉が凄い人だ。
羊皮紙に書いたものを見せた。
「これを作りたいのですか。木の部分もあるからそこは木工屋の仕事となりますね」
「では、木工屋のキアランところに一緒に行かないか」
アーマン村長がそう言い、ジーンさんを連れ木工屋に向かった。