第35話 祝賀会
冒険者ギルドの飲食コーナーでは、夜にお酒や食べ物を出している。
俺が意識を取り戻した事もあり、夜に祝賀会が開かれた。
そしてスタンピードを無事、乗り越えた俺を含めた24人はもてはやされた。
そしてその時の話を、面白おかしくみんなに話すお調子者もいる。
娯楽が無いから多少大げさに言っても、誰も野次を入れない。
スタンピードの時に、遠征でいなかった人達も帰ってきて参加している。
俺がこの街に来た時にお世話になった、Cランクパーティー『赤い翼』もいた。
「やあエリアス。しばらく見ない内に男らしい顔になったな」
『赤い翼』のリーダー、アドレーさんだ。
「それは生死の境を乗り越えたんだから、男前も上がるわよね」
紅一点のエリノルさんが言う。
その後ろにはジェイさん、ランダルさんがいる。
「元々、エリアスは剣のセンスが良かったからな」
「トロールを倒した時のように、あの不思議なスキルを使ったのかい?」
「駄目よランダル。人のスキルは言ってはいけないわ」
そう収納防御はストレージで敵の攻撃を受け止め、衝撃は収納する。
傍から見たら素手の腕で、攻撃を受け止めているように見える。
だからダミーで盾を装備するのも、いいかもしれないな。
「しかし不思議だよな。冒険者の主要ランクが居ない時にスタンピードなんて」
「まるで誰かが見ていて、その隙に襲ってきたみたいだよ」
「誰だよ、それは。あははは!」
アドレーさん達が酔いに任せて、楽しそうに話している。
俺はその場を離れ、スタンピードで一緒に戦った人達のところに行った。
「やあ、|Miracle man(奇跡の人)。目覚めてよかったぜ」
コンラードさんがいて茶化してきた。
「なにを言っているんですか。それを言うなら皆さんもでしょう」
一緒に戦った23人の人達が集まってくる。
そして誰彼となく話しだす。
「しかし凄かったよな、先頭のコンラードさんやBランクの人達がさ」
「そうだな。ゴブリンを切って、舞い上げるなんて見たことなかったぜ」
「後から続く俺達も切って、切り上げての作業の様な感じだったな」
「エリアスの叫び声を聞いたら、勇気と力が湧いてきたんだ」
〈〈〈〈〈 ウォォォォ~~~!!行くぞ~~!! 〉〉〉〉〉
「あの時はまるで、力が湧き上がってくるような不思議な感じがしたな」
「怖いものは何もない、て感じでさ。ゴブリンの群れに突っ込んでいくなんて、普通はしないのに」
「あぁ。その声に力をもらって俺達は戦った、てことか」
「その証拠にあの後、強くなったのか試してみたが今までと変わらなかったぞ」
「お、俺もだ」
「火事場の馬鹿力てやつか!」
「そうかもしれんな、あははは」
そうだ、あの時みんなに補正が掛かっていた。
自分のステータスを見ても、発展スキルにステータス補助がある。
だが自分の意思では発動しない。
本当に『火事場の馬鹿力』みたいなスキルなのか。
そして驚くことに『英雄の卵』もある。
やっぱりファンタジーの転移ものは、主人公はいずれ英雄になるのか。
転移した時、女神ゼクシーは俺にそっけなかったけど。
こんな鑑定や生活魔法、メンタルスキルやストレージだけで、どうやって行けば良いのか、と思ったけどさすがは女神様。
努力すればちゃんと最強のスキルになる力を、与えてくれていたなんて。
疑った俺が馬鹿だった。
女神様の真意が分からなかったなんて。
そう言えば女神様は転移の時、教会に行ってお祈りすれば会えるて言ってたな。
お礼を兼ねて、今度行ってみようかな。
エールを飲みながらみんな楽しそうだ。
俺もたくさんの知らない人から声を掛けられる。
「街を救ってくれてありがとう」と。
「ねえ、オルガ、エリアスのところに行かないの?」
「今夜の主役はエリアス君だもの。ここから見ているわ」
「そうだね。いつも私達はエリアスっちの側にいるから今夜くらいわね」
皆に囲まれ楽しそうにしているエリアスを、今日だけは遠くから見ている『紅の乙女』の3人のメンバーであった。