訳アリ
三題噺もどきーにじゅうよん。
僕の小さな悩み。
お題:悩み・人間・音楽
今、僕には一つ、悩みができた。
一年前、親の反対を押し切り、半ば家出のようにして上京してきた。
音楽をやりたいという、そんな思いだけで出てきたのが悪かったのだろう。
すぐにお金は尽き、その時に見栄を張って住んでいた、少々お高めのアパートの賃貸も払えずに、追い出された。
それでも、何とか稼いで安いアパートを借りることができた。
―しかし、そのアパートというのがワケあり物件だったのだ。
(分かってはいた、わかってはいたケド……!)
そのアパートに住み始めて2ヶ月ほどたった頃。
ワケあり物件と言っていたけど、たいしたことは無いなぁと思い始めていたころ。
突然、ソレは、目の前に現れた。
仕事から帰った僕の目の前には、おかっぱ頭で可愛らしい着物を着た女の子が立っていた。
それだけなら、まだ、座敷童子とか有難い方に解釈出来なくもないのだが、その少女は人間には絶対に無いもの持っていた。
二股にわれた尻尾と、小さな頭からひょっこりと生えている猫の耳。
こちらを見る目は、金色に光っていた。
「ひっ―!?」
引き攣った悲鳴が漏れる。
我ながら情けない事この上ない。
思わず、後ずさりしながら、玄関へと向かう。
すると―
「お兄ちゃん―。」
少女が喋った。
その声を聞き、体が動かなくなる。
金縛りにでもあったかのように、視線は固定され、身体は固まる。
「逃げないで……ごめんなさい。ここに来るつもりは無かったの。でも、私のご主人と似た匂いがしたからつい…。」
悲し気に揺れる金色の目。
「だから、ごめんなさい。もう、出ていくから逃げないで。」
そう言った少女は、少し名残惜しそうに出ていこうとした。
少女が目を離したことが作用したのか、体が自由に動くようになった。
「なあっ―!」
声が出た。
「……?」
彼女がこちらを振り向く。
「良かったら、ここに住むか?」
―僕は何を言っているのだろう。
一緒に住む?人ではないモノと?
自分でも言葉を疑った。
けれど、今更撤回などできはしない。
それに対し、彼女は
「いいの!?」
先程までとは打って変わって、明るい顔を見せた。
パッと明るく笑うその笑顔は、太陽のようだった。
日陰に生きるものに、太陽みたいというのも、なんだか的外れな気もするが。
「あ、うん。別に人なんて来ないし。」
―自分で言ってて、酷く虚しくなる。
けれど、目の前で悲しんでいた彼女の子の笑顔を守るためだと思えば、僕の虚しさなんて…な。
「あ、ありがとう!!!」
全く、僕はどうしてこんな人ならざるものを受け入れたのだろう。
まあ、別に普段の生活が変わることは無い。
明日は、二人分の食べ物を用意しなくちゃ。