3話:白衣の悪魔は策を練る
この世界の暦は元いた世界と同じ様な基準で助かる。
アイザックとの勝負の日まであと3日、アイザックが言った様に光魔導師が闇魔導師に勝つ事など普通に考えればほぼ不可能だ。
しかもアイザックは魔導師育成の為の魔術学校に通っている。
魔法の知識に関しても実践経験に関してもアイザックはベティよりも一回りも二回りも上なのである。
しかしそれはあくまで"普通に"考えればの話である。
ベティはアイザックが学校へ行ったのを見届けるとすぐさま図書室へ駆け込む。
ベティの今使える光魔法
・回復魔法(小)
・解毒魔法
・植物の成長促進魔法(小)
・防御力向上魔法(小)
どう考えてもこのラインナップではアイザックに傷一つ負わせる事はできないだろう。
かといって今から攻撃魔法を覚えられるか、と言えばそれも無理である。
記憶が戻る以前に何とかして闇魔法を使える様にならないかと躍起になって訓練した時期もあったがさっぱりだったのだ。
「お兄様の得意魔法属性を考えると……」
アイザックの得意魔法は水魔法だ。
おそらく当日も水魔法を駆使して水辺に追いやってくるだろう。
ベティはパラパラと水魔法に関する書物をめくる。
「これは……」
ベティは更にその項目を読もうと椅子に座り直そうとした時、
「あの、お嬢様……」
恐る恐るこちらに声をかけてきたのはエリー、シャドウ家に仕える新人のメイドで歳は18歳。栗色の髪をボブカットにしグリーンの瞳は心配そうにこちらを見つめてくる。
ベティに唯一友好的に話しかけてくる人物だ。
「エリーですか。どうかしました?」
「あの、すみません。昨夜アイザック様とお話しされているのを聞いてしまって、勝負すると。」
「ああ、そうですね。なので今から対策を練ろうと思い、
「無茶です!」
エリーは悲痛に叫んだこちらを見つめた瞳は今にも泣き出しそうである。
「アイザック様の魔法の腕は確かです。私はこれ以上お嬢様に辛い目に遭って欲しくありません、」
言葉はだんだんとしりすぼみになっていきエリーはそのまま俯いてしまった。
「エリー、気持ちはありがたいですが。このままでいていいわけがありません。変わるために必要な事なんですよ。」
ベティがそう告げるとエリーは顔を上げ、しばしベティの顔を見つめると
「お嬢様、なんだか大人っぽくなられましたね。」
と呟いた。
「お嬢様がそういうのなら、力不足かもしれませんが、エリーはいつでもお嬢様の味方だという事を忘れないで下さいね。」
エリーはベティの手をぎゅっと握りしめたあと一礼をしてまた仕事へと戻っていった。
「さて、では準備に取り掛かりますかね。」