1話:白衣の悪魔は立ち上がる
この世界は病魔が存在している。
病魔とはその名の通り人々を病に罹らせるモンスターだ。
風邪のようなものから精神的な病まで全てはこの病魔によって引き起こされている。
その病魔を祓う存在こそが魔導師。
闇魔法は強力な攻撃呪文によって病魔を祓い、光魔法は癒しや、成長の力を与える。
しかし、闇魔法と光魔法のパワーバランスは決して平等では無かった。
人々は"病魔を祓う"ことばかりに目を向け、力を発展させてきた。
それに加え、「病魔を払える魔導師にこそ権威がある」と主張してきた貴族派閥により攻撃呪文が得意な闇魔導師ばかりが持て囃され、光魔導師はすっかり「役立たずの落ちこぼれ」の烙印を押されることになってしまった。
◇◇◇
(あぁ、そうか、これは私の前世の記憶か)
西野柊、今世の名前はベティ・シャドウ
齢11歳
偉大なる闇魔導師の名家シャドウ家の令嬢である。
「がはっ、が、げほ、」
冷たい水が口と鼻へ流れ込む感覚でぼんやりしていた意識がすっかり覚醒した
「おいおい、どうした?泳ぎ方は習ったろ?」
下品な笑い声と共に此方を陸から見下ろすのはアイザック、15歳。ベティの実の兄だ。
先程庭の池の魚たちに餌をやっていたところアイザックに後ろから突き飛ばされ落水、この状況というわけだ。
(死因と同じ状況になった事で記憶を思い出した…と)
となればやる事は決まっている。ベティは軽く水を掻き泳ぐと岸へ上がるついでにアイザックの足を思い切り池の方へと引っ張った
「うわ!?」
ばしゃんと派手な音を立ててアイザックは池へ落ちていく
「がふ、お、おい!ベティお前ふざけるなよ!早く引き上げろ!」
「お兄様どうしたの?泳ぎ方なら習ったでしょう?」
「ふざけるなよ!光魔導師風情が!」
チラリとアイザックを一瞥すると濡れた服を引き摺り屋敷の中へと戻っていく。
部屋に戻る途中でメイドたちはベティを見てギョッとした顔をしたが不自然に顔を逸らすと忙しそうに業務へ戻っていった
◇◇◇
シャワーを浴びて新しい服へと着替えるとベティは真っ直ぐ図書館へと向かった。
魔導師の家系であるシャドウ家には魔法・魔術に関する様々な専門書が保管されている。
いくつかめぼしそうな本を手に取り中を確認するが殆どが闇魔法や病魔の祓い方に関する内容ばかりで光魔法はおろか、病魔によって病気になった人間の治療法、対処法、予防法などはちっとも書かれていない。
「病魔をいくら祓った所で、治療ができなければ患者は増えるばかり、清潔な環境で生活している貴族は病魔に罹りにくいけどそうでない平民の安全は?国は何をしているの?」
ベティは久しぶりに沸々と怒りが湧いてくるのを感じた。
「この世界を、国を変えなければ」