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ソーシャルディスタンス

作者: たけだ しろう

ソーシャルディスタンス


2週間ぶりに日が差した夕暮れ時だった。

私は近くの小高い丘の上にある公園の展望台に来て、空いている椅子をようやく見つけて座り、西の空に沈む夕日を眺めていた。こんなにきれいな夕日を見たのは久しぶりだった。それほど、今年の梅雨は文字通り、雨が多いのだ。

その展望台には、長椅子が横に2列、そして、縦に3列、計6つ据えられていて、それぞれの椅子の間隔は2mほどあって、後ろからも景色が良く見える考えられた位置に置かれていた。一脚には2人座れるのだが、新型コロナウイルスの影響で蜜を避けるため、座席の一つには「×」のシールが張られ、1人しか座れないようになっていた。私がここに来た時には、全部の椅子に人が座っていて空きがなかったのだが、1-2分待っていると、ちょうど前列左の前から2番目の長椅子が空いたのだった。私はすかさず駆け寄りそこを確保すると、ようやく落ち着いて夕日を眺めることが出来た。

 すると、私の目の前の長椅子に歳のころは20歳ほどで、半そでの白いワンピースを着て、黒髪を心地よい風に靡かせた女性が座っていることに気が付いた。前に回って顔を確かめる訳にもいかず、後ろ姿だけだったが、たぶん美人だろうと想像された。それからは、目の前の女性が気になり、夕日などそっちのけで、黒髪にちょこちょこと視線を移していた。

 すると、その女性が、隣の長椅子に座っているやはり20歳前後と思われる、背中に『LOVE!』と大きく印刷されたこれまた白いTシャツを着た男性に向かって、

「カズマ、新型コロナウイルスがまた広がり始めたね。本当に嫌になっちゃうわ。早く収束しないかしら?」

「そうだよな、ユウコ。もう半年も続いているんじゃないか? ワクチンはまだ出来ないのかな?」

「今世界中でワクチンの開発をしているみたいだから、早く完成して欲しいよね。そしたら、また元の生活に戻れるのにね」

「そうだな。でもユウコ、俺達は蜜に気を付けているから、感染しないよ。今だって、こんなに離れて、ソーシャルディスタンスをきちんと守っているしな」

「そうよ、カズマ。私たちは大丈夫よね!」

そんな会話を聞いていた私は、恋人通しだろうこの若者たちは、中々考え方や行動がしっかりいているな。テレビでは20代、30代の若者の感染者が急増していることを連日報道しているが、目の前の2人の様に行動出来れば、コロナも収束に向かうのではないかと少しオーバーだがそう思った。

 ちょうどその時、夕日が目の前の女性の黒髪に差し掛かり、後光が差したように見えたのだった。その光景に、私は思わず手を合わせた。そして、

「早く、コロナが治まりますように!」

と心の中で呟いた。すると、ユウコが、

「カズマ、きれいだね」

と小さな声でカズマに語り掛けると、カズマも

「まるで、ユウコのようだ」

と返したのだった。それは恋人通しが、幾多の困難を乗り越えて結ばれたラブストーリーのラストシーンのような光景だった。私は、そんなドラマまでここで見ることが出来たのだと思うと、感動のあまり、2礼2拍手して拝んだのだった。しばらく目を瞑っていたので、ユウコとカズマが怪訝そうな顔をして振り向いたのには気が付かなかったが・・・。


 夕日が遠くの山に沈むと、

「ユウコ、そろそろ帰ろうか?」

「そうだね、カズマ、帰ろう!」

2人はそう言って、長椅子から立ち上がったのだった。すると2人は近づき、カズマはユウコの左肩に手を回し、ユウコはカズマの右腰に手を添えて、ぴったりとくっ付いて駐車場の方へと歩き出したのだった。しかも、途中でカズマがユウコの右頬にキスをするとことまで私は見ていた。その刹那、

「コロナは、まだまだ続くな」

と思った。そして、2人から遅れて、肩を落として駐車場へと向かった。



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