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グリーンスクール - ファイト!  作者: 辻澤 あきら
2/9

ファイト!-2

 商店街はもう半分がシャッターを下ろしていて、人気はなかったが、代わりに飲み屋の提灯や看板が明るく華やかに道を飾っていた。そこここの店からは楽しげな声と音楽が漏れている。その間を美亜がとぼとぼと歩いている。と、甲高い電子音と賑やかな声が聞こえてきた。振り向くとそこはゲームセンターだった。美亜は惹かれるようにそのゲームセンターに近づきガラス越しに中を覗いた。自分より年下の子供たちが楽しそうにゲームに熱中している。子供たちのそばには鞄が積まれている。塾帰りかなと思いながら見ていると、自分がそんなふうに楽しめる立場ではないことに悔しくなった。

 美亜の父靖は失業中だった。一年ほど前に交通事故を起こしてしまった。幸い怪我は大したことがなく、一ヵ月ほどで復業したのだったが、不況の折、それが理由で解雇された。いや、休職は直接の理由ではなかった。ただ、不在の間に居場所を奪われただけだった。それから父は職安を回り、いくつかの仕事を渡り歩いたが、結局長くは続かず、いまでは毎日飲んだくれている状態だった。どこで寝てるのやら、たまに金をせびりにくる時以外は、ほとんどアパートには帰ってこなかった。美亜が学校に行ってる間に帰っているのかもしれない。美亜には父がもはやただのコソ泥のように思えていた。それ以上に、母が可哀相だった。パートの仕事と内職の仕事に追われて寝る間もなく、それでもお金が足りない状態に疲れているのは美亜にもはっきりとわかった。美亜がいま通っている学校は私学だったので、公立に転校しようかとも申し出たこともあった。しかし、母は三年になる直前の美亜をいまさら他の学校に移すことにだけははっきりとした態度で反対した。

「大丈夫。卒業はさせてあげるし、高校のほうも心配しなくてもいいから」

 しかし、それ以降も母は疲れていく一方だった。父が無断でお金を持ち出しても、何の感情も見せなかった。美亜が新聞配達のバイトを始めても、何の感情も見せなかった。感情を作ることすら疲れているようだった。美亜が再度転校を申し出たときも、感情は見せなかった。ただ、黙々と内職の手を進めながら、大丈夫、とだけ呟いた。

 美亜もできるだけ節約をして、家計に負担を掛けないようにした。しかし、私学の学校では、授業料以外にも色々な名目でお金が必要だった。そのお金を滞納しながら辛うじて生活が成り立っていた。

 が、今日も靖はお金を持ち去った。

 美亜は横目で楽しそうな子供たちを見ながら、ゲームセンターを後にした。どこに行けるわけもなく、いずれ帰らなければならないことはわかっていても、家に帰る気にはならなかった。


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