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グリーンスクール - ファイト!  作者: 辻澤 あきら
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ファイト!-1


                 ファイト!


 某月某日―――星夜。


 「バカヤロー!」

美亜の叫び声とともにガラスの割れる音が響いた。道行く人も足を止めて、様子を伺った。しかし、その家の中からは、少女の声は、もうかすかにしか漏れてこなかった。

「どうして、あんなヤツに、金渡すんだよ!」

「あんなやつって…お父さんに向かってなんてことを言うの」

「誰が、お父さんだよ。金せびりに来てるだけじゃないか!」

「なんてこと…」

眼前でへたり込んだまま上目遣いに見つめる母みづえに、美亜は一瞬ためらった。しかし、母のため息に、頭の線が切れてしまった。

「なんなんだよ。あいつはぁ!金の要るときだけ、帰ってきやがって!それで、『お父さん』なんて、よく言えたもんだな」

激昂する美亜に向かってみづえはぽつりと呟いた。

「美亜……、でも、あなたのお父さんなのよ」

みづえはそう言いながら、いま美亜が叩きつけたコップの破片を拾い始めた。カチャリカチャリという音が静かに部屋に響いた。ほつれた髪に隠された母の表情は、泣いているようでもあり悲しんでいるようでもあった。しかし、美亜は知っていた。母はもはや感情を持たなくなっていると。振り向かせれば驚くかもしれない。しかし、そっと回り込んで覗き込んでみれば、ただ疲れた顔で、静かに手を動かしているだけだ。母には、もう、そうした表情を作ることすらできなくなっている。父に代わって、パートに励み時間に追われている母は。

「……悔しくないのかよぉ」

美亜の発した言葉に、みづえは振り向きもせず、応えもしない。

「なぁ、あんだけ苦労して稼いだ金をあっさり渡しちまって、悔しくないのか……」

黙って待っている美亜の耳には、カチャリカチャリという音だけが届いた。美亜は沈黙に耐えきれなくなった。

「もう、いいよ!勝手にしろよ!」

そう叫んで、部屋を飛び出した。扉を開けると近隣の部屋の人たちが様子を伺っていた。

そんな連中を睨み据えると、階段を駆け降り逃げ出すように明るい街へ走った。




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