Ⅲ.少年と少女
本日2度目の投稿です。
キルリアは、周囲を多くの山に囲まれ、町を少し出ると、すぐ森に出る。
そして、その森に入っていく人影が1つ。
「はあー。気持ち良いなぁ。この辺りの森はなんか神秘的っていうか、凄く威厳ある···って言うのかなぁ。魔力も富んでるし、やっぱり来てよかったなぁ。」
気持ち良さそうに独り言を呟くその人影は、数日前にこの町に来た少女だった。
少女の名前はフェリシア。
過去に彼女に降りかかったとある災難により、名前はそれだけしかない。それと同じ原因により、1人で旅をしていた。
「もうここに来て1週間かぁ。そろそろ次の町に行かないとなぁ。」
1人で考えながら森の中を歩くフェリシア。しかし、旅に慣れていても、初めて入った人間を素直に返すほど、この森は甘くなかった。
「···あれ···ここどこだろう···。もしかして···迷った···?」
フェリシアはこの森についてよく知らないまま深く入りすぎた。この森は、キルリアの住人ですら数人で行かなければ、たまに迷う事さえある、町でも恐れられる森だった。
「どうしよう···ああー、こんな時に転移の魔法が使えたらなあ。···言ってもしょうがないかぁ。はあ。」
「出ていけ」
「ひっ!」
突然、どこからか声がした。森の中で反響しているのか、子供か、大人か、それどころか男か女かも分からない。
「だ、誰!?」
「ここから出ていけ。でないとその首が落ちる事になるぞ。」
ゴクリ、とフェリシアは唾を飲み込む。
「···と、とりあえず姿を見せなさい。話はそれからよ。」
最初は驚いていたものの、伊達に1人で何年も旅をしていたわけではない。すぐに冷静さを取り戻し、言い返す。
だが、
「そうやってまた僕を···!お前の選択肢はここか出ていくか、ここで死ぬかだ!僕を騙して殺そうとする、お前らの腐った魂胆は分かりきってんだよ!」
いきなりそう言われてもフェリシアには理解ができない。
「私はあなたに危害を加えないわ!それに私、迷ってて、道が分からないのだけど···。」
「嘘をつくな!それにこんな所に1人で来るわけがない!他の奴らもどこかに隠れているんだろう!お前達こそ出てこい!」
「待って!あなた、もしかして町の人達の事を言っているの?」
「惚けるな!お前が一番良くわかっているだろう!僕の両親を殺し、僕を忌み嫌い、おぞましいと言って町を追い出した上にいつまでも追いかけて殺しに来る!なんで僕ばかりそんな目に会わなければいけないんだ!」
フェリシアは町の人間ではない。ゆえにこの声の主が何を言っているのか理解出来ないし、正体も分からない。だが、1つだけ分かった事がある。
「君、とても優しいのね。」
「は?何を言って···」
「それだけ嫌われて、憎まれて、恨まれて。それであなたは町の人達を嫌い、憎み、恨んだ。」
「ああ、そうだ!」
「でも私には『出ていけ』と言っただけで、殺しはしなかった。」
「それは···」
「私ならそんな相手が目の前に現れたら、躊躇無く殺すわ」
「···」
「君は自分の事を化け物か何かだと思っているようだけど、本当は気づいてるんじゃない?君はただの1人の優しい子供なんだよ。」
フェリシアは、語りかけるように優しく、しかしきっぱりと断言した。
「···あんたは本当に町のやつではないのか?」
「だからそう言ってるじゃない。私は1人で旅をしてて、途中この町に寄っただけ。あの町が君に何をしたかは知らないけど、私は君に危害を与えに来た訳じゃない。だから私に姿を見せて。」
「···分かった。だけど、僕の姿を見ても嫌いにならないと約束できるか?」
「約束しましょう。」
「じゃあ、今そこに行く。」
フェリシアの後ろから草が擦れる音が聞こえて来た。
「後ろだ。」
フェリシアは後ろを振り返った。