Ⅰ.竜の碑文
レンガ造りの家が建ち並び、石畳の道が街灯に照らされている。
ここは、地球とは別世界にある、とある星の、キルリアと呼ばれる小さな街。
この街には、ある言い伝えが残っている。それは、街の中心部にある、古い石碑に書かれた短い碑文に書かれてあった。
『三百年に一度、竜来たる。
竜、女の生け贄を求めたる。
差し出せば守護竜となれり。
差し出さねば暴竜となれり。』
つまり、三百年に一度竜が表れ、少女の生け贄を求める。その時、生け贄を差し出せばこの街を守る守護竜となり、差し出さなければ、人間を襲う暴竜となるという事だ。
そして、来年は、前回から、その三百年にあたる年であった。
大人達は、連日会議し、紛糾した。曰く、
「うちの子はダメですよ!あなたのとこの子で良いじゃない!」
「はあ!?そっちこそ差し出しなさいよ!」
「落ち着け。その前に竜をなんとか倒す事は出来ないのか?」
「無理じゃ。竜に勝てるはずなかろう。人間程度の魔法じゃあ鱗にかすり傷一つ負わせられるかどうか…。」
「じゃあ、大砲とかで…!」
「そんなもんどこから調達するんじゃ。」
「都市まで行って掛け合えば!」
「そんな事しておったら年明けるわい。そもそも大砲でさえ翼の一振りで弾が吹っ飛ばされる。勝てんわい。」
「そもそも竜は本当に居るのか?」
「それはもう結論が出たじゃろうが。」
「ならやはり誰かを犠牲に…!」
と、こんな感じで話し合いは平行線をたどった。
大人達がそんな感じだから、当然それは子供にも伝播する。
すると今度は子供達が噂をし始める。
「おい、あそこのイリアちゃん、りゅうの生けにえになるんだって。」
「え?ホント?僕はあの悪がきのイミルだって聞いたよ?」
「あんたたち!酷いこと言わないの!」
「うわ!エリシアだ!逃げろ!」
「こらー!」
街の少年たちは大人たちから盗み聞きした話しを我が物顔で語り、少女たちは、自分ではありませんように、と祈っていた。
そうして、時は流れていった。