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夢の続きは山登りから  作者: 二宮シン
11/13

思えば遠くへ来たものだ

『第四部』

 何事にも慣れるもので、ワイバーンたちが見えなくなるほどの速さで王都ステンツに戻ってきた青葉は真っ白になることもなく、スプレンドーレの光の聖堂と王城の間に降り立つようにアルブムへ言うと、人間如きの指図に従うかと愚痴を零しながらも降り立った。すぐさま出てきたランシールやアールズに出迎えられながら、アルブムは心配をかけたと高圧的だが感謝を述べた。

「アルブム様、お体の方も心配なのですが、先ほどの地響きはもしや……」

 ランシールが暗い顔でアルブムの言葉を待つと、考えている通りだと口にする。

「地獄の門が開き、悪魔どもがクラッドとかいう人間どもに憑依しておる。それだけではなく、アートルムも息絶え、パーガトリーは崩壊を始めおった」

 なんということだ。声に出さなくても、ランシールとアールズ、それに集まって来たスプレンドーレの信仰者や騎士たちがそう思っているのは見て取れた。

「天から支える我が健在でも、地から支えるアートルムがいなければ、いずれ地獄が大地や空ごと空間を侵食し、やがては地獄と天国の間にあるパーガトリーは潰されるだろう」

「他人事みたいだが、あんたもそれに巻き込まれて死ぬんだぞ」

「わかっておるわい。だから打開策を考える必要がある」

 とりあえずこの場での話し合いはせず、ワイバーンに乗ったエルフレーム率いる騎士団が戻ってきてからとなった。


 あれからワイバーンに乗った騎士団が帰ってきてから最低限の睡眠をとると、パーガトリーに来て初めて王城の中に入った。壁画や彫像が立ち並び、シャンデリアとレッドカーペットが王、ユーランド・ステンツの待つ会議室へと続いている。田舎者が東京に訪れたように辺りをキョロキョロトしていると、シエルが集中しろと頭を叩く。シエルは司祭の代表として会議に参加するようで、青葉はアルブムに力を認められたからだ。その他にランシールとアールズ、騎士団長エルフレームが続く。

「こんなところにまで来られるなんて、ちょっと前なら想像もできなかったよ」

「俺は何度か入ったことがあるぞ。まえの世界でだが」

「文明が進んでいても、お城は残っているのかい」

「いや、なんというか、馬鹿でかいネズミがシンボルの遊び場に王様とかはいないが入れてな」

 無論シンデレラ城のことだが、やはり本物の城というのは威圧感がすごい。特別身分が高いわけでも、金があるわけでもない青葉にとっては、場違いではないかとすら思える。

「無駄話はこの窮地を乗り越えてからにするでさ」

 エルフレームが契約した人霊、ケットシーのステラは来るのに慣れているのか、緊張している青葉とエルピスを猫の目でにらむ。

「あんまり新人をいじめるな」

「先輩として、教えなくてはならないこともあるんでさよ」

 エルフレームも言葉を挟むが、そろそろ会議室につく。先頭に立つランシールが扉を開けると、その先には窓から覗きこむアルブムと、国王ユーランド・ステンツが、更にはいつの間に来ていたのかノームのマックダフも長細い机に腰かけていた。

「どうしてここに」

「世界の危機だから、としか答えられんな」

 そんなマックダフへランシールとアールズが頭を下げている。こんなところでも年功序列があるのかとファンタジー一色だった世界に一滴の不満をたらしたが、今はそんなこと気にしている場合ではない。

 皆が席に着くと、白い髭をたっぷり生やした国王ユーランドが咳払いをする。

「この一大事に私のような富と地位しか持たない者にできることは、それらが消えてなくなるまで、力のある者たちに捧げる事しか出来ない。だから約束しよう、すべてが終わったあとには力のある戦士たちすべてにアリオーヌ金貨を支払い、舞踏会を開くことを」

 これもまた日本にはいないタイプの人だった。映画の中でさえ少ないかもしれない。こういう状況で我が身だけを案じて無茶を命令するような俗物ではなく、自分が役に立つことができないことを認める王様というのは。

「私が言えることも、約束できることも、あとは力のある者たちが存分に戦えるように武器や防具を買い与え、腹の減らぬように飯を潤沢に用意することだけだ。では、私の財布の中身は気にせず、好きなだけ無茶を提案してくれ」

 そうしてユーランドは立ち上がると、大臣たちと戦いではなく国民たちへこの事態をどう説明するかを決めるために退出した。

「それでは、この先は地位も身分も力の差も関係なく早急な打開策を考えるとしよう。まずは現状とそれらへの対抗策。それとなにをどうすればこの事態は収束するかを確認しようか」

 エルフレームが立ち上がり話し合いが始まろうとしたとき、アルブムが窓の外からなにを悠長なことをと睨み付けた。

「今この瞬間にも悪魔たちはクラッドの連中に憑りつき、進軍を進めておるだろう。その背後にはエミリーを名乗るネイバーがおり、アートルムの力で地獄の門を開けたままにしておる。総力戦だ! 戦士たちは武器を持ち、世界を覆い尽くそうと浸食と進軍を行なう悪魔どもを皆殺しにするのだ!」

 とても反論などできないほどの気迫にエルフレームは慄いているが、アールズが落ち着いてと甘い声を出す。

「騎士団の半分が戻ってきて眠っている間に、ランシールがワイバーンに斥候を乗せて送ってきてあるわ。ついさっき戻ってきたみたいで、もう数枚の紙に現状が事細かに記録されてるから、まずはその確認よ」

「そうは言うがの……」

「みんなが現状を知らなきゃ対策も立てられないし、戦い方も分からない。それに私は熱い男よりクールな男の方が好みなの。あなたはどちらかしら」

 どうにもアールズを相手にするとタジタジなようだ。恋人とか恋愛対象とかそういうのではなく、おじいちゃんと孫娘のような。結局アルブムは致し方あるまいと口を閉じた。

「それじゃ、続きはお願い」

ランシールへ言葉のバトンを渡すと、アルブムに緊張しながらも紙に記載されている現状の報告を始めた。

「その、クラッドとエミリーを名乗る少女はアンフェールに立つ地獄の門から水平に位置する上空のすべてとパーガトリー全土を侵食し、動植物はそれに飲み込まれて枯れるか狂犬病のように暴れ出し、村や街の住民も理性を失ったかのような有様だと観測されました。精霊は無事の様で、契約者の別動隊は浸食された地の中にも行けたので、保護を急いでいます」

「当然だ。元をたどれば精霊とは地獄の門をくぐりパーガトリーに逃げてきた者たちだからの。それと契約した契約者ならともかく、力も持たぬ者たちが地獄の浸食に飲まれてはまともに生きておられない。今思えばアートルムも地獄の浸食のような――いや、エミリーに宿る悪魔の力で乱心したのだろう」

 精霊について初耳のことにどよめきが走るが、今は関係ない。続けていいですかとランシールは縮こまってアルブムへ確認すると、いちいち聞かんでいいと一喝された。

「す、すいません……では続けます。水平に海まで広がった地獄の浸食は、アンフェールより前方と後方に向けて進んでおり、王都ステンツまで達するのに十日ほどかかると浸食の速さを見ていた斥候は記録しています。ですが、それを待てば数えきれない数多の村や街が飲み込まれ、悪魔に襲われてしまいます。更に、悪魔を宿したクラッドは各地に散らばっていたメンバーを吸収しながら増大し、戦力は最大で三百人弱だとの予測が経ちました」

 以上が現状の報告になりますと話し終えたランシールの事実に、一同が難しい顔をする。

「ただの三百人なら、我の白炎で燃やし尽くせるだろう。だが奴らは破壊と殺戮を好む悪魔と契約しておる。通常の契約者としての力と精霊や人霊を超える悪魔の力が混じり合い、一筋縄ではいかなくなった。正面から戦っても勝ち目はないだろう」

 ならどうするのか。そんな疑問にアルブムは希望なら残されていると口にする。

「諸悪の根源エミリー・ローズを打倒すること。それこそが成り立てば地獄の門は閉じ、悪魔どもは力を失う。そうすれば一つの問題は解決だ」

 一つとしたのは、問題がもう一つあるからだ。闇をつかさどるアートルムがいなければ悪魔がいなくなっても地獄の浸食は続き、天国との間で押しつぶされる。それはどうするのか、打開策はあるのかと聞こうとしたら、マックダフが年貢の納め時だと深いため息を吐いた。

「老いて腐ってもワシは四大精霊と崇められる存在だ。アートルム程とはいかなくても、時間を稼ぐことならできる。その後は――任せられるのか?」

 マックダフがアルブムへ向くと、無駄にはしないとだけ呟いた。

「何の話だ」

 二人の間で交わされている秘密のようなものが気になって聞けば、秘中の秘故どこにクラッドに通じている者がいるかわからないので答えられないと返ってきた。それでも、エミリーさえなんとかすれば、パーガトリーは救われると断言した。

「そのエミリーだが、我ならばどこにおるのかわかる。アートルムの力を吸収したので力を得たが、それが仇となった。アートルムの気配があるところにエミリーはおるからの。そしてその場所だが、お前たちが勝手に名づけたアンフェールと呼ばれる一帯の、地獄の門付近だ。そして地獄が侵食した大地に入れる契約者であり、アンフェールに行くこともできるのは――マックダフと我、そしてそこのネイバーとリャナンシーだけだ」

 ここに来て大役が回ってきた。青葉は静かに頷くと、肩に座ったままのエルピスを見る。逃げるなんて言葉にできない状況だから、目を見て逃げるのなら今しかないと見つめる。気が付いたのかエルピスも青葉の視線に合わせると、ずいぶん遠くまで来たものだねと吐露した。

「気が付かないうちにひ弱なリャナンシーとして生まれて、気が付いたら白霧の山で死にかけていた。ボクの人霊としての旅はあそこで終わりだと思っていたのにね……そんな死にぞこないに救えるのなら、ボクはいくよ。どこまでも」

 見事な意思だ。エルピスの独白を聞き入っていた一同の中、アルブムがエルピスを褒め称えた。巨大で強力な力を持ち、何百、何千年と生きているアルブムが、非情に小さく、契約しなければ死んでいたエルピスを褒めた。死にかけ、成長したいと嘆いていたエルピスは白霧の山からこんな高みまで来ていたのだ。

青葉もここに来るまで本当長かったように感じるが、思い返せば一瞬だ。元いた世界と同じで、人生とは一夜の夢。それでも夢から覚めて――死んでみて、いい夢を見ていたと思えるような一瞬が積もり積もれたなら、きっと誰もパーガトリーの門をたたかないだろう。だから戦う、もう一度死んだとき、連なる一瞬の輝きのうちに沢山の人々や精霊たちと出会えたことを幸福で無念などなかったと思えるように。そう思えなかったら、人生は本当に一瞬で終わる、つまらないだけの夢になってしまうから。

「それで、いつから始める?」

 青葉もエルピスも覚悟を決めると、アルブムへ二人の視線が重なった。


 作戦は非常に簡単に決まった。アルブムに乗った青葉がエミリーを倒すまで、地獄が侵食してきた大地から出てきて破壊と殺戮の限りを尽くしている悪魔と契約したクラッドをユーランド騎士団が迎え撃つ。それだけでは足らないので、国王ユーランドの言った通りに財布の中身を気にせずに各地に散らばっている傭兵の類を雇って前線へ送る。スプレンドーレの司祭や神父などのウィスプと契約した人々もけが人の治療と防護壁による村や街を守るために配置される。しかし、それでも三百人に届くクラッドの連中の足止めには足りない。人手ばかりは増やしようがないので悩んでいると、アールズがユーランドに取引を持ちかけた。

 『パーガトリーに点在する隠れ里に住むエルフたちに協力を持ちかける代わりに、エルフの奴隷制度の撤廃』それこそアールズが提示した条件だった。

「エルフは華奢で弱いって思われているけれど、弓の腕は人間とは比べ物にならないほど卓越しているわよ? エルフなら精霊だから侵食してきた大地に入れるし、後方から弓矢での援護射撃もできるわ。その数も、条件を飲んでくれれば百人以上のエルフが戦ってくれるわよ?」

 甘美な声で語りかけるアールズに、ユーランドはエルフの奴隷商売で生計を立てている者が路頭に迷うと困り顔だ。だが、財布の中身を気にするなといったのはユーランド自信だ。路頭に迷わないよう、別の仕事を見つけるまで金を与え続ければいいと、アールズは甘い声だがユーランドに了承を得るために詰め寄っている。

「それに世界の危機だけれど、この条件を飲んでくれないなら、あたしは戦わないわよ」

 四大精霊の力は戦局を左右する強力なものだ。それに百人を超えるエルフが来てくれれば、足りない人手の問題は解決する。ユーランドは悩んだ末、致し方ないと了承した。

「あとはあなたたちにかかっているわよ、ネイバーの青葉君とリャナンシーのエルピスちゃん」

 掴みどころのないアールズはウインクだけ残すと、早速エルフの隠れ里に風の様に協力と奴隷制度の撤廃を伝えるため消えた。とはいえ流石は風をつかさどる四大精霊だ。風が吹いたかと思ったら姿を消していた。

 なにはともあれ、時間稼ぎの戦力は揃った。後はいかにしてアートルムの力を吸収したエミリーを倒すかだ。しかし、エミリーが依然として地獄の門付近にいるのなら、たった一つだけ策がある。おそらくエミリーの不意をついて、大打撃を与えられる策が。

 アールズにつき合わされてユーランドがいる謁見の間から出ていくと、シエルが司祭代表としてスプレンドーレの聖職者たちへ作戦を伝えていた。後方での怪我人の治療が主になるスブレンドーレもいざとなれば戦えるようにグランウィスプが与えられているようだ。

 邪魔をする気はないので城の内部を回っていると、そこら中で戦いの準備が進められている。あくまで時間稼ぎなのだが、相手が相手だけに入念に行われていた。

 ここまで来ると、エルフの増援も、スプレンドーレの聖職者たちも、騎士や傭兵たちも、青葉に賭けるしかなくなった。エミリーを打倒して、マックダフが地獄の門を守り、アルブムとの間で結ばれている何らかの秘策でパーガトリーを守る。その作戦は、明日の朝には始まる。だから、今日は光の聖堂に戻って早めに寝よう。体力も気力も最大限に仕えるよう休むのだ。これが最後の眠りにならないためにも。


 朝焼けと共に、とうとうクラッドに憑依した悪魔どもの足止めと、アルブムに乗った青葉とエルピスのエミリー打倒の作戦が開始された。王都ステンツのそこら中からワイバーンが飛び立ち、斥候が調べていた大きな街に迫る浸食と悪魔たちと戦うために容赦のない速さで飛んでいく。マックダフは地をつかさどるだけあって、地面が続いていればいつでも地獄の門へ移動できるが、戦力として先に向かっている。

 アルブムがワイバーンに合わせて飛ぶこと三時間ほど、紫とも黒ともとれる地面と大気がゆっくりとパーガトリーの緑あふれる美しい世界を侵食し、クラッドの連中が見えてくると、困った事態になった。

「数が、多すぎる……」

 事前に聞いていた三百人弱ではない。その倍近いクラッドの連中が悪魔と契約して、予想の倍以上の速さで進軍していた。

「どこに隠れておったのだ……」

 アルブムの疑問も最もだが、クラッドについては分からないことが多かったらしい。潜伏していたメンバーが一気に合流したのだろう。

だが、このままではこの先に広がる大きな街が襲われ、数えきれないほどの人命が失われる。アルブムに乗りながらどうすればいいのかと途方に暮れていると、仕方ないと声がする。

「我がここに残って奴らの相手をする。そうでもしなければ、エルフの援軍も傭兵たちも敗れ、街も悪魔が襲い大惨事となろう」

「だが、アンフェールはまだ先だ。あんたの翼なしで、どうやって……」

 クラッドを止めても、地獄の浸食は続く。エミリーを一刻も早く倒さなくてはならないというのに、どうするというのか。それに、アルブムなしでエミリーと戦うことになる。策がないこともないが、できるならアルブムと戦いたい。

 そんな会話が聞こえていたのか、ワイバーンに乗るシエルがアルブムに隣接する。

「飛んでいくだけなら、私のワイバーンでもなんとかなるでしょ?」

 グランウィスプとの契約者であるシエルなら、浸食の進んだ大地にも入れる。貴重な回復要員であるシエルが前線から抜けるのは痛手だが、エミリーさえなんとかすれば片が付くのだ。

「小さき竜のなりそこないであるワイバーンに任せるのは癪だが、致し方あるまい」

 アルブムは体を捻ると、その反動で青葉を空中に放り投げた。

「ってウソだろ!」

 パラシュートもなしにいきなり空へと投げ出された青葉だが、シエルが操るワイバーンが咥えて九死に一生を得た。

「殺す気か!」

 いつかシエルが言っていたワイバーンなら咥えてでも人間を助けるということを体感すると、時間がないのだからわがままを言うでないと悪びれる様子もなかった。

「ほら、捕まって」

 咥えられている青葉に手を伸ばしたシエルの手を取ってワイバーンにまたがるも、一人分しか乗れる台座はなかった。

「命綱ならあるから、鱗にでもしがみついてて!」

 命綱を手渡されると、ワイバーンは地獄の浸食がすすんだ薄暗く、クラッドたちが進軍を続ける大地を猛スピードで飛びぬけていく。エルピスを胸に抱いて必死に鱗にしがみついて離してたまるかと歯を食いしばっていること数時間、三度目の来訪となるインテグに到達した。相変わらずネイバーと精霊しか通れない壁があるのでシエルはここまでしか来られないので、早速乗り込もうとしたら呼び止められた。

「こんなときになんだ」

「いや、まあホントにこんな時に言うのもなんだけどさ、今回ばかりは何もかもが最後になるかもしれないから、伝えておきたくてね……一応言っておくけど、愛の告白とかじゃないから」

「ならなんだ」

 急いでいるのだ、早々に済ませてほしい。シエルもそれは分かっているので深呼吸をすると、頬を赤くしながら腕を組んで横目で見てくる。

「あ、あんたにはね、本当に感謝しているのよ」

「感謝?」

「そうよ。あんたと白霧の山で出会ったおかげで偉くなって、短い間だったけども一緒に過ごせた。それで、その時間がね、ありのままの自分でいられたのよ。立場が変わったから、みんなが私を尊敬するようになって、それに答えるために、自分を偽っていた。そんな私にとってあんたは友達のような、恩人のような……ああもう! とにかく感謝してるのよ!」

 柄じゃないことなんて言うものじゃなかったと顔を更に赤くしているシエルは、そのまま青葉を見つめる。

「だから、絶対に生きて帰ってくるのよ! 同じ立場で話せる相手なんか、もうあんたくらいしかいないんだから!」

シエルはそれだけ口にして、青葉の背中をバシバシと叩いた。

「世界を救ってきなさい、青葉」

 初めてシエルから名前で呼ばれた気がする。なぜか高鳴る胸の鼓動を押さえながらも、行ってくるとだけ残してアンフェールへとつっこんでいった。


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