石の上
風の音がする。
神社の鳥居の前、またあの気配。
振り向くと、美しい姿に変化したアイが居た。
やっぱり人間の姿のアイは綺麗だな・・・・・・と見とれていると、
「鈴」
「は、はい!」
突然名前を呼ばれて反射的に返事をする。
「今宵もお前の霊力をもらうが、よいか」
「え・・・・・・だ、だめ」
鈴は思わず後ずさりした。
霊力をもらうということは、またキスをされてしまうということだ。
アイはスッと鈴に近づくと、不思議そうな顔で話す。
「いきなりもらうと怒るようだから、今回は予告したのだが」
鈴はすかさず言い返す。
「そ、そういうことじゃない!その、キ、キスは好きな人同士でするものなんだから・・・・・・」
「なんだ、そんなこと」
アイはふっと笑う。
「お前が、我のことを好きになれば良いのではないか」
「・・・・・・!」
次の瞬間ぐいっと手を引かれたと思うと、鈴の唇は奪われていた。
初めての時は動揺のあまり意識しなかったが、アイの唇はとても柔らかく溶けてしまいそうだ。
瑠璃色の吸い込まれそうな瞳に見つめられながら、
だんだん身体の力が抜けていくー。
気を失わないように耐えていると、アイは唇を離し抱き寄せながら言った。
「鈴。全ての出来事には意味があるのだ。なくてはならないのだ。魂は、それを磨くためにこの世に生まれてきている。苦しいこと、辛いこと、色々な試練あってこそ、魂は美しくなりそれが人生というものである」
アイの言葉に涙が溢れてきた。同時にだんだん意識が遠のいていくー。
携帯のアラームで目を覚ますと、すやすやと気持ち良さそうに枕元で寝る白狐の姿があった。
ぼんやりとする鈴だったが、時計を見てハッとする。
「仕事、行かなきゃ」
ベッドから出て支度を済ませ、急いで家を出た。
その胸のうちは、いくらか軽く風通しが良くなった気がした。