遠つ人
1月の終わり、千代子と鈴は仕事先で出会った。彼女は後輩だったがとても明るくて、すぐに懐いてきた。ある日、更衣室で千代子が電話しながら泣いていた。
彼氏と喧嘩したといい、もう別れたい、鈴ちゃんが恋人だったらいいのにと言う。
鈴はどうしていいか分からず、千代子の頭を優しく撫でた。
それからというもの2人は休みの日は毎週のように一緒に過ごし、携帯で常に連絡を取りいつしか鈴は千代子の可愛らしさや無邪気なところに惹かれていた。
だんだん親密な関係となった鈴と千代子はどちらともなく愛を語り、ままごとながらお揃いの指輪を買ったり、将来についても話し合うようになっていた。
千代子は彼氏とはタイミングを見て別れる、といつも言っていた。
鈴は今までなかなか人を好きになれなかったのは、千代子に会うためだったと、私が幸せにしなければとさえ感じていたのだが・・・・・・
ー終わりは突然訪れた。
ある日の朝、千代子からの電話が鳴りすぐに鈴が出る。
「もしもし、千代子ちゃん?」
少しの沈黙の後。
「・・・・・・千代子の、彼氏ですけど」
ひやりと背筋が凍りついた。
「千代子の本命は僕です。もう千代子に会わないでもらえます?今千代子に代わりますから」
頭が追いつかない。
千代子が電話越しに泣きながら話す。
「ごめん、指輪見つかっちゃって、問い詰められて・・・・・・私、やっぱり彼氏が大切だからもう会えない。ごめんね・・・・・・」
「・・・・・・わかった」
ぷつりと電話を切った。
次の日仕事へ行くと、千代子は家庭の事情で辞めると急に連絡があったと、マスターが困り気味に話した。
それ以来、千代子には会っていない。
一通り話終わった鈴は笑いながら早口気味に言う。
「こんな感じで!この間見つけた指輪もこの時のなの。もう一カ月も経つのにさ、まだ未練あるのかって感じだよね〜!!彼氏がいる相手に本気になっちゃって、しかも女の子だし、あはは・・・・・・」
「そうか。」
アイは遠くを見ながら一言ぽつりと言う。
「今日、夢に行ってもいいか?」
「・・・・・・いいけど」
夜が更け、鈴は静かに眠りについた。