足引きの
更衣室の扉をバタンと閉める。
「ーどういうこと?アイの姿は見えないんじゃないの? 」
アイは首を傾げながら言う。
「霊能力・・・・・・いわゆる霊感が強い人には、見える場合もある。」
「私は別に幽霊とか、見えないけど」
「鈴の場合は、潜在的な霊能力が強い。必ずしも見えるわけではないが、ほら鈴にはたくさんの浮遊霊も寄ってくる」
アイは空中を指差して言った。アイが言うには、私には普段から霊力に頼って道を歩くだけでたくさんの霊を呼び寄せているらしい。
「見えなくて・・・・・・良かったのかな」
鈴は身震いした。
「ここでは、気配を消すことにしよう」
アイはそういうとすうっと消えてしまった。
アイの気配が消え、鈴は着替え終わると、いつも通り働き始めた。
夕方仕事が終わり店を出ると、アイが姿を現した。
「ご苦労だったな」
白狐にねぎらわれてなんだか不思議な気分だ。
「そういえば・・・・・・今日お願い叶えてもらったから、お礼参りに行かないと」
神社へ向かおうとする鈴をアイが止める。
「神社というのは、夕方頃から邪念が渦巻くんだ。鈴みたいに憑かれやすいタイプは特に早い時間を勧める」
「なるほど・・・・・・」
神社も奥が深いなぁ、と感心する。
「ところで、それはなんだ? 」
鈴が持つ手提げを見てアイが尋ねる。
「これ?マスターに頂いたクリームどら焼きだけど」
「美味しそうだな」
鼻をふんふんと鳴らしている。こんな洋風のもの食べられるのだろうか。
うちに帰ってから前回と同じ方法でお供えをすると、とても美味しそうにぱくぱくと食べている。
「この餡は、卵が使われていて美味しいな」
どうやらアイは卵を使った甘いカスタードクリームが好きなようだ。
こうして神様も現代的になっていくんだろう。
食事を済ませ、お風呂を沸かしてゆっくり湯船に浸かった。
「はぁ、極楽極楽・・・・・・」
ふと、横を見るとアイが揺れる湯船をじっと見ていてぎょっとする。
「ふむ。この風呂には塩が入っていて邪鬼を払っている」
どうやらバスソルトのことを言っているらしい。
憑かれやすい私は塩で身を清めるのがいいというアドバイスをもらった。
風呂から上がると鈴は布団に入り、この生活はいつまで続くんだろうと考えた。
「鈴、聞いても良いか。この間の夢の、千代子という女子は誰か?」
「・・・・・・別にいいけど」
鈴は重い口を開いた。