朝露の
目覚ましが鳴る。
今日は珍しく身体が重い。
うとうと二度寝をしかけると狐姿のアイが鈴の体をゆする。
「ほら、朝だ。起きるんだ」
「う〜ん。まだ眠たいよ〜」
鈴は微睡みながらごろんと寝返りを打った。
「ほんのちょっと霊力をもらったぐらいで、情けない。しっかりするんだ。」
「霊力を・・・・・・ですって」
鈴がむくりと起き上がる。
「まさか、ゆうべの夢・・・・・・」
「ああ、夢の中に入らせてもらった。」
だんだんと意識が覚醒し夢のことを思い出す。
美しい姿のアイ、そして・・・・・・
「 ファーストキス、だったのに! 」
突然怒り出した鈴に少し驚くアイ。
「我らも人の願いを叶えるために霊力を使う。鈴は霊力が豊富だから少しばかり頂いたまでだ」
口づけをしたのは短時間で霊力を吸収できて効率がいいから、と悪びれなくアイは話す。
「それより、遅刻するぞ」
時計を見てはっとした鈴。慌てて準備を始めると、洗濯物からキラッと光る指輪が落ちた。
「あ・・・・・・!これ探してた指輪! 」
まさかと思いアイを見るとふふんと得意げな表情。
「ちゃんと願いを届けたぞ」
昨日神社で、無くしてしまった指輪が見つかりますようにとお願いしたのだが、早速叶ってしまった。
小さな青い石が付いた、華奢な指輪ー。鈴の大事な指輪だった。
支度が終わり家を出る。鈴の職場は家からほど近い、サラリーマンなどがよく来店するカフェだ。
歩きながら鈴は肩に乗ったアイに尋ねる。
「ねえ、お願いごとってこんなに早く叶うものなの? 」
「いや、人による。お前はちゃんとお参りしていて神様も関心していたから、願いを届けやすかった」
作法ってやっぱり大事なんだ・・・・・・と鈴は改めて思った。
「ところでアイはいつぐらいに使役になったの?」
「江戸時代だ」
「江戸時代・・・・・・にしては、わりと現代的な言葉で話すのね」
「この時代の言葉を借りている」
言葉を借りる、ということに妙に納得する鈴。
確かに神の領域となると意識レベルで色々できても不思議ではない。
仕事場についた。いつまでもアイと話していると独り言の多い怪しい人になってしまう。
「おはようございます! 」
元気に扉を開けてマスターに挨拶をした。
「おはよう鈴ちゃん。今日もよろしくね。あれ・・・・・・? 」
マスターの目線が鈴の肩に注ぐ。
鈴は動揺した。
「き、着替えてきますねっ! 」
と足早に更衣室に向かった。