春霞
朝。目覚ましのアラームで鈴は起き上がる。
「おはよう、鈴」
目の前にアイが座って微笑んでいた。
「今日は暖かい。桜も咲きそうだな」
「そ・・・・・・そうかな。私はまだ寒いけどっ」
鈴は強がってみせる。
季節は3月末。アイがここに居られるのもあと僅か。そんなことは、鈴も重々分かっていた。
「鈴。今夜、神社に行かないか」
切ない目をしたアイがこちらを向く。
「・・・・・・わかった」
(ああ、きっとこれが、最期の・・・・・・)
夕暮れになり鈴は支度をし、アイと家を出る。
「手・・・・・・つないでもいい?」
「ああ」
アイの手はひんやりとしている。つないだ手には、2つの指輪が光っていた。
境内に着くと、石の上に腰を下ろした。
「あっという間だったね、一年間」
「ああ、本当に。あんなに待って、一年というのは光の如くであった。」
「海で溺れたのを助けてもらったり」
「あの時は無事で良かったな」
「お祭りでアイが他の子にナンパされちゃったり」
「祭りは楽しかったな。ナンパとはなんだ・・・・・・?」
鈴はふふっと笑う。
「一緒に神社に行ったりしたね。アイはびくびくしててちょっと面白かった」
「初めてキスした時はびっくりして、ドキドキしたなあ。」
「・・・・・・契りを交わしたときは幸せだった。一年間・・・・・・色々あったね・・・・・・」
言葉を詰まらせ、込み上げてくる涙を堪えて震えが止まらない。
アイがそんな鈴を優しく抱き寄せる。
「鈴をずっと待っていてよかった。また出会えたことが、愛しあえたことが本当に嬉しかった」
ぱたりと鈴のおでこに雫が落ちる。
「なんで・・・・・・っ、アイ泣いてるの・・・・・・」
アイの目に溢れる涙。
堰を切ったように、鈴も涙を流した。
「どうしてアイが人間じゃないんだろう・・・・・・!!私たち、愛しあえても絶対に結ばれないなんて・・・・・・なんで・・・・・・!」
抗う鈴を優しく撫でてアイは微笑みながら言う。
「鈴、ご覧。満月だ・・・・・・今までもこれからも、我は汝を愛し守っていく。」
ぎゅっと強く抱きしめたアイが、光に包まれ消えていく。
桜の花が、静かに綻んだ。




